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うそ一回目

「現代版赤札こと軍艦島強制移住書類がきたのが昨日の朝

居留守を決め込んでいたら黒いスーツを着た熊が玄関の扉を

蹴り破って入ってきたのがその一時間後窓から逃げて捕まったのがその一分後

拘束されつつスーツを着た熊さんこと田中さんに見張られながらヘリで輸送され

この島に着いたのが今から二時間前

この島で生活するための説明を受け終えたのが一時間前

それからここ波止場高校に連行され、校長室につれてかれ面接を受け終えたのが5分前

そんで2-Bと書かれた札がある教室の前の扉でなにか個性的な自己紹介をしろと

担任教師と名乗った女にいわれ、必死に考え込んでいたのが一分前。

席について今までの理不尽さに遂に耐え切れず頭を抱えて泣き出すのは今から十秒後

こんなんでどうっすか?名前は 八橋世橋(やばしよばし)です、

変な名前ですがよろしくおねがいします」

これで人気者間違いなしだな

んなわけねぇか

「「「ぶははははははははは!!」」

いや笑うとこじゃねぇよ





***




「えー、1980年茨城の山中の寒村で記録上最初のひととい発症者が現れました」


三時間目、疲れが出てなおかつ昼休みにもまだ遠いという一番面倒くさい時間帯

教師の説明も耳からすっぽぬけていく

そんな中俺はとりとめもなく、ここ波止場高校が誇れるポイントを考えていた

海が目と鼻の先

海が目と鼻の先なので夕方ごろに見える夕日が綺麗

他には・・・他には・・・


「このひとといというのは人間が本来備わっているものをなくす変わりに

 本来人間に備わっていない能力、私たちは異能と呼んでいますが、

 その異能に目覚める現象のことを呼びます」


これ以上思いつかなかったので右隣に聞いてみた

「なぁ、この学校のいいとこって何かな?」

「風紀委員になれば少し行き過ぎた指導でも見逃されることじゃない?」

長いポニーテールを揺らしながら勝気につりあがった目を輝かせながらそんな事を言う

「行き過ぎて教師もおまえにびびってるだけだろ」

「んだとぉ?これでも教師からもラヴレターもらったことあるんだけど?」

普段は凶暴風紀委員長として恐れられているこいつだがライブの時はすごいらしい

なんでも去年の文化祭ライブの後のラブレターの数は50を超えるとかなんとか

見たことないから内容はわからんが


「そして一年間で爆発的にひととい発症者が続発

 この間に異能を使った犯罪もありました」


まぁ、とにかくこいつに聞いた俺が馬鹿だった。左隣に聞いてみよう

「なぁなぁ、この学校の誇れるところってなにかな?」

「日本でもトップの頭脳を持った生徒会長率いる生徒会じゃないかしら?

 教師陣も優秀すぎて何も指導してないらしいわよ」

言いながら長い黒髪を掻きあげ、スッとした細い目でこちら見てきた

本当に性格意外は素晴らしいとは思うんだが・・・

「流石生活指導部の山梨先生が触らぬ神に祟りなしっていってるだけはあるな」

「生活指導部の山梨・・・っと」

そういって黒い手帳に山梨先生の名前が刻まれた

思わず背筋に寒いものを感じてしまった


「これに対応するため急遽政府がとった対応が、当時無人島だった軍艦島を隔離施設

 とする政策だったわけです」


「なぁ、この学校のいいところって何かな?」

意中の相手である前の席にも聞いてみる

「んー?・・・あぁ、食堂おいしいよね食堂」

「座れたことねぇからわからねぇな!!」

この学校に連行もとい転校してきて一ヶ月

食堂の席に座れたことがまだ一度もない

「あー、そうなんだ・・・今日の昼にでも行ってみる?」

「遠慮するよ・・・」

行きたいのは山々なんだけどなぁ・・・


「ちなみにこのひとといというのは現在遺伝的に発症する場合が9.9割

 そしてまれに、八橋君のように異常発症するのが0.1割ですね」


お昼休み直後の食堂前はこの島で一番危険だから死にたくないなら近づくなと

この島に初めて来たときに説明を受けた

なんのことかわからず一度だけ誘われるがままついて行ったことがあるが

まさに食堂前は戦場とかしていた

「んー?だらしないわね世橋、この前のあれでびびったの?」

あざ笑うかのように右隣が言ってきた

「目の前火の玉かすって行ったらびびるだろ・・・」

「だらしないこと言ってんじゃないわよ、それでも本土発症者なの?」

「バカヤロー、俺のは本土発症者括弧笑だよ」

「括弧笑ってなによ」

「なんちゃってみたいな?」

「なるほど」

「否定してほしかったです」

「だって・・・ねぇ?」

右隣が左隣に話を振った

「確かに声真似が出来るだけって・・・ねぇ?」

左隣が前の席に話を振った

「宴会芸みたいだよね宴会芸」

「よっ!宴会課長!」

「・・・・・・ううっ」

目頭が熱くなってくる

この軍艦島に連行されてくるやつは大きくわけて二通りにわかれる

まずひとつは死刑を食らった重罪人が秘密裏にモルモットとしてつれてこられるか

そしてもうひとつは本土で異常発症した奴かのどちらかだ

俺は後者な訳だが、政府の方針でひととい発症者の隔離が決められ

隔離が完了してからの本土での発症者はこの三十年間で3人

その全員がとてつもない異能者だったらしい

なので本土発症者である俺はそれなりにすごい異能がついているはずだった

だけど蓋を開けてみれば声を真似るだけの能力というわけだ

しかも何を失くしたのかという重要な部分がわからなかったため現在研究者達の

研究対象になってしまった。本土発症者でどうでもいい異能に目覚め、

なおかつ失くしたものがわからないというのは前代未聞だらけらしい


キーンコーンカーンコーン

「区切りがいいので今日はここまでですね。号令」

「きりーつ。きょうつけー。れーい。」

「「ありがとうございましたー」」

挨拶を終えると教師が出て行った

「それじゃよばし、食堂いってみよう、食堂」

「・・・遠慮しとくって言ったぞ?」

さっきの会話を聞いていたのだろうか

「青海さんの誘いを断るなんて宴会部長としてどうですの?」

「勝手に昇格させんでくれ・・・。」

「つか世橋はもう少し無い知恵ふり絞って考えなさいよ。

 青海さんがいれば食堂の席なんて座り放題よ?」

「――――そんな虎の威を借るキツネなんて俺のキャラじゃないだろ?」

「いやいや、あんたもろにそんなキャラじゃない・・・」

「な、なんだとこんにゃ」

「いいから食堂いくよ食堂」

制服の首根っこをつかまれて連行される

すごく嬉しいのだがこの格好は恥ずかしすぎる

「わかった!わかったから離してくれないか?」

「んー?わかったならいいよ。早く行くよ」

食堂に行こうと廊下に向かう

廊下に出るまでに聞こえた舌打ちの数は25回

このクラスの男子の数は18人

んー・・・女子にも人気があるとは中々の競争率ですな


「はぁー・・・」

目の前に繰り広げられる光景に呆然とする

火、水、氷、多分雷、土色のミノタウロス、不自然に浮いている何かの破片

謎の光球、水竜、降り注ぐ天使の羽、怪しげな霧

そして何よりときおり聞こえてくる断末魔

「・・・ありえねぇ。」

俺は避難するように食堂の隅のほうに座りながら目の前の阿鼻叫喚を眺めていた

ちかちかしすぎて目がいてぇ

つかあそこ空間歪曲してるとこあんぞ・・・

「おっ、やつはしじゃねぇか」

「うわ、うぜぇのきたよ。めんどくさいなぁ」

「お前心の声漏れてんぞおい!?」


ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオス


「俺の溢れ出すこの気持ちが届いちまったかよ」

「なめてんのかおまえ」

「なんだやんのか西村?」

「俺西野だからな?つか、マジぶっ殺すぞ」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン


「おもしれぇ、この前みたく帰り道に会いたいのかよ!」

「おまえ絶対道っていったよな今!?帰り道って!」


腕が足に!腕が足にいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!


「マジ西田細かいわぁ・・・マジ下がるわぁ・・・」

「おっ!西野じゃん!妙に疲れた顔してどうした?って八橋か」

「なんでもねぇ・・・購買いこうぜ・・・」


君で僕が抱きしめてえええええええええええええええええええええええええええええ


「え?今日食堂で食べるんじゃなかったの?四時限目さぼって準備運動してたのに」

「出鼻の挫かれ具合半端じゃねぇって・・・」


俺!!!この戦いが終わっ!!!?!?


「マジかよ!?八橋何したよ?」

「なんだよ腰ぎんちゃく、話しかけてくんなよ。俺は西倉さんと話してんだよ」

「・・・。」

「いこうぜ?」

「あ、ああ・・・いきなりの最低の扱いに思わず呆然としちまった。」

「気にすんな・・・」

「じゃあな、金魚の糞とNさん」

いやぁ、楽しい友達だなぁ

「てめぇが八橋か?」

いきなりそんな声が聞こえてきた

今日は千客万来だな。Nさんが去った方向の逆方向から

いかにもな風貌な男がやってきた

上履きの色を確認。黄色ってことは上級生かぁ・・・

「どこ中ですかこの野郎!?」

「む、無茶苦茶なやつとは聞いてたがまさにだな」

「出身中学の確認は大事だろうが!」

「その手にゃのらねぇよ。今までのやつらはそれで乗り切ってきたのかも

 しれねぇが、俺はそんな甘くねぇぞ」

対外の奴は戦意を失って帰ってくのに面倒くさい奴だな

「つかさ、なんでやたら絡まれんの?俺」

ここのところ毎日絡まれている気がする

「あぁ?青海さんに手だしってからだろ?」

マジか・・・

「知ってるか?青海さんファンクラブのおまえをボコった場合の報奨金」

いや、そのファンクラブの存在知らないし、賞金首扱いとか夢にも思ってないし

とりあえずちょっと高いリアルな数字出して言いづらくしてやる

「5万」

「20万」


「お金はもっと大切に使おうよおおおおおおお!!!」


思わず掴みかかってしまった。

上級生はすぐに俺の腕を振りほどいていったん距離をとると

「まぁ、そういう訳でおまえをボコらねぇとならねぇんだよ」

「お金のために人を殴るなんてみっともないぜ・・・?」

「いや青海さんファンクラブ会員番号289としての使命だ・・・!」

「私怨とかもっとみっともねぇよ!?」

言うが上級生はやる気らしく素早く動き出した

迷わず俺は逃げ出した

「ま、まちやがれっ!」

『ひととい』と一般人が喧嘩する自体ありえないのに、

更に能力がなにかもわかんないやつとやるなんて論外だ

こっちにきて能力者と喧嘩をしてノシタのは一度や二度じゃないが

そのどれもが事前の情報がなければまず無理だっただろう

というわけで逃げる。

本当は食堂で待っていなければいけないのだけど事情が事情だ

食堂で優雅にランチとか言ってる場合じゃない

「まてごるぁ!俺のウィンドアッパーを喰らいやがれ!」

うわぁ、ありがたいけどバカじゃねぇのこいつ・・・。

風の付加系か・・・?、やれないこともないな

作戦を考えながら全力で食堂を駆け抜けた

入り口のところで待ち合わせをしていた人物の姿が見えた

噂をすれば影か

「わり!今日食堂パスだわ!」

「え?約束したでしょ?約束」

「ほんとわりぃな!」

一瞬切なそうな顔をしたように見えた

むしろそう思いたい。案外脈あったりしねぇかなぁ・・・

「まてやあああああ!!」

おっと作戦作戦・・・


闇討ち

言葉の響きがいいよね、うん。まさに理想系

不意打ち

闇討ちには負けるだろうけど四文字なのが絶妙な感じだと思う

騙まし討ち

これまたいい響きだと思う。五文字というのがさらにポイント高い


今回は不意打ちでいこう。

丁度人がまばらになり、曲がり角が見えてきた。

もう少しで捕まりそうだと思わすためにスピードを落として・・・と

丁度後二歩でも詰めれば捕まりそうな距離になったところで曲がり角にたどり着いた。

相手の視界から消えるように素早く横っ飛びした

確認せずそのまま着地と同時に右こぶしを今曲がってきたところへ全力で放り込む

「ほぐっ!?」

その全力のこぶしに出会い頭にぶつかる上級生

ボグッといういい感じの感触が拳から伝わってくる

まんまバカじゃないかこいつ

丁度鼻にめり込んだらしく上級生は鼻血を撒き散らしながら仰向けに倒れた

最近感じることだけど『ひととい』っていうのはどうも能力に頼りすぎて

正攻法でしかこないというか、ダーディな手段に弱いように思う。

まぁ、そんなことは今はいいとして、今日の昼食をどうするか考えないと・・・

床に倒れた先輩を見つつそんな事を考える。


ドグッ


わき腹に何かがめり込んだ感触

一瞬で呼吸がおぼつかなくなる

背後からの一撃なのは間違いない

つかマジで痛い、体に力が入らなくて膝をついてしまった

いや、朝食抜いといてよかったわ。これ胃に何か入ってたら吐くって

つか誰だこの野郎、後で覚えとけよ

そう思って顔を後ろに向ける

見たこと無い顔が6人

え?6人?多くね!?

この人数でリンチとか死ぬレベルだろ

どうすっかなぁー、とりあえずどうにか曲がり角まで戻って

姿見えなくなったら生活指導の島田先生の声真似でもして

脅かすぐらいしかないか・・・

いけっかなー・・・リアルに体重いんだけどなぁ・・・

なんとか体を動かそうとしたところで

先頭に立っていた身長の高い男子生徒が片腕を動かした

何をするかわからないのでとにかく後ろに飛ぶ


次の瞬間天井を見あげていた

わき腹にあんだけいいのもらったら動けるわけねぇか・・・

とりあえず一発いいのをもらったので

先頭の奴は風の操作系だというのはわかったけど

だからといって体が動かないんじゃ意味がない

遠くで大勢の笑い声が聞こえた

あぁ、マジうっぜぇ。一人一人闇討ち決定だっつーの。

まぁ生きてたらだけどさ


「・・・よばしどうしたの?よばし?」

”また”情けない事になりそうだ

もちろんいじめられてるなんて言いたくないので

黙っていると質問する相手を変えたようで

「・・・あなた達何してたの?」

「な、青海さん!そんな異常者なんかほっといて僕達とお食事しませんか?」

「いじめはいけないよいじめは。」

瞬間6人が全力で駆け出した音がした

逃げたな・・・・・・・。


バフッ! げふっ!!!×6


「よばし大丈夫?よばし」

「うぉっ!」

近距離にいきなり青海の顔が出てきたので思わず情けない声を上げてしまう

それほどまでに近くで見た顔が綺麗だった

「助かったよ青海・・・」

一応お礼を言って、体を起こしにかかる

ズキンッとわき腹に嫌な感覚がするけど、無視して体を起こすと

不機嫌そうな顔が視界に入る

「どした・・・?」

「・・・・・・・・・・。」

「黙ってたらわかりません」

「名前がいいな、名前」

「ぶばぁっ!!」

一瞬で顔がゆでだこになったように思う

「顔真っ赤」

一瞬で顔がゆでだこになったようだ

「わ、わりぃ。そのあれだ、照れる」

二人だけの秘密の約束

頭の中でそんな言葉が流れるだけでも顔が熱くなる。

「私は名前で読んでる、名前」

そのせいであらぬ誤解を受け、混沌の学校生活になったのはここだけの話

「あー・・・えっとー・・・紅」

「うん・・・食堂いこうか食堂」

「あーその前に保健室にだな」

「食堂いこう食堂」

猫掴みされたまま引きづられてしまう

「わ、わかった!わかったから手を離してくれ!」


これで青海・・・じゃなくて紅に助けられたのは二回目

本当に情けない。


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