第9話:補導される前には帰れよ(1-9)
その時、せかせかした足音が近づいてきてこの作業室の近くで止まった。途端に、ドアが開き現れたのは後藤先生だった。
「大丈夫か!氷室川!」
彼女の業務過多を知っているからこそ心配してやってきたんだろう。一応顧問でもある分けだし当然の務めだな。
「なんだ、空木。君もいたのか」
なんだから照れくさい感情が溢れて口元が緩みそうになった。だから口元を手で隠して「まあ」とだけ呟いた。
すると、後藤先生は口角を上げて俺の肩をバシバシと叩いてきた。
「そうかそうか。やっぱり部に入ってくれるか!」
「勘違いしないでください。俺は一時的な危機を抜けたらやめます。それまでは一応部員なので」
「お前、ツンデレ属性だったのか。すまん、知らんかった。氷室川は知ってたか?」
「いえ。ツンデレというか、歪んでるんですよ。何が、とは言いませんが」
「何が、を言えよ。肝心なとこ濁すな」
氷室川の憎たらしい言い回しのせいで会話が広がってしまうと、後藤先生がにんまりとした顔で俺を見てくる。
「な、なんですか」
「いや、やっぱりこの部には君が必要だなと思って」
「いらないでしょ」
そう言って、仕事に戻ろうとしたが手を掴まれて静止させれられた。
「まあ待て、今何時だと思ってる?」
そう言われて時計にを見てから平然と答える。
「十八時二十分」
だからなんなんだと思っていると、またしても氷室川からの冷ややかな視線を浴びせられる。
「先生。私はこの人が同じ高校に通っているなんて思えません」
「まあ、その辺は許してやってくれ。この空き教室を使っていた時も最終下校時刻なんて気にする素振りすらなかったのでな」
「この学校に最終下校時刻とかあるんですか?」
「もう、呆れを通りこして尊敬できそうなところまで来ているわ」と氷室川がこめかみに手を添えているので、呆れないで尊敬しろと内心で思っていた。
また俺と氷室川の口論が始まると察知したのか、後藤先生がパンパンと手を叩いて話を切り替えた。
「一先ず、ここは引き払うぞ。それと、明日までに行うものはどのくらい進んでいるんだ?あ、片付けながらな」
氷室川が荷物をまとめながら現在の進捗について話し出した。
「部活動のポスター関連の依頼が明日までです。あとはクリスマスイベントのポスターと専用サイトの作成。正直、サイト作りなどには時間がかかりそうなので部のポスター関連はできる限り空木くんにお願いしようと思います」
「そうか。明日で終わるか?」
後藤先生からのその問いに氷室川は俯いているだけだった。
正直、なんでそんな暗い顔をしているのか俺には理解ができなかった。
部のポスターと言えど、文言の指定を既にされているのでどれだけ時間を費やしても各部ごとに三十分とかからないだろう。これで大体六時間半、いや部のポスターだけならそこまではかからない。クリスマスイベントのポスター込みでこのくらいだろう。
残るはサイト作りとあるが、こんなウェブページの作成なんてものは現代なのだからAIにやらせればいい。と、考えると一時間も掛かることはないだろう。
つまり、このあと三時間くらい。
明日の朝に一時間。昼に一時間。放課後に二時間と考えると俺一人でも終わる。
「もう一度聞きたいんだが、今言ったので明日の納期の仕事は終わりか?」
「ええ」
「じゃあ、余裕で明日の分は終わる。俺一人でもギリ終わる換算だからな。ただ、明日をギリギリで乗り越えても仕組み上は死んでる。この後、少しカフェ行って作業するぞ。クリスマスイベント含めてポスターを全部完成させる。そんで、ウェブページはAIに作らせればいい。今日の夜にでもAIに指示しておくから明日の朝にはチェックと細かいコードを手直しだな」
「ちょ、待って。嘘でしょ?スケジュールの見積もり甘いんじゃないの?ウェブってそんな簡単に出来上がるものじゃ…」
氷室川が話している途中で後藤先生はニヤケ面で首を横に振っていた。
「氷室川。信じられないかも知れないがこいつなら本当にそのくらいで終わる。下手したら今日中に明日の分は片付くだろう。念の為の時間も確保して明日までと言っているんだと思う。違うか?」
俺はただ頷いて見せた。そんな俺を見て「信じられない」と氷室川は呟いていた。
「信じられない気持ちはよく分かるよ。なら、空木理人という男の仕事っぷりを生で見てくるといい。だが、補導される前には帰れよ」
「わかってますよ」
「わかりました」
それらからすっかり生徒のいなくなった校舎内を通って、俺らは駅近くのカフェへと向かった。
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「AIにやらせればいい」 雪音にとっての絶望的な納期を、理人は経験と技術で淡々と「攻略対象」に変えていきます。
「補導される前には帰れよ」 先生の言葉を背に、夜の街へ。
仕事という名目のもと、二人の特別な時間が動き出します。
次回、第10話は明日【18:00】に更新予定です! カフェでの共同作業。
理人の「技術」を目の当たりにした雪音は……。
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