第5話:だから、あそこに行くことはない(1-5)
よろず商業部、通称『よろ商』。生徒からの依頼を校内奉仕活動との引き換えに引き受ける部。
部長は一学年で最も有名であり絶大な信頼と人気を手にしている女子生徒の氷室川雪音。他には空木理人という幽霊部員がいるみたいという噂が一瞬出回ったが氷室川のビッグネームの前では影にもなりえない名前だった。
「よろ商に動画編集頼んだんだけどまだ出来上がらないみたいでさ〜」
「え〜楽しみにしてたのに。いつ出来上がる予定なの?」
何気なく校舎に囲まれた中庭で昼食を摂ろうとしていたらそんな会話が近くのベンチから聞こえてきた。
よろず商業部は俺の想像していたよりも早く校内に普及していた。
氷室川雪音という生徒がこれだけの影響度を有する生徒だったと俺は知らなかった。きっと、文化祭最終日の顔合わせがなければ今もその事を知らなかっただろう。
「氷室川さんさ、サッカー部の先輩からのポスター制作も頼まれてたらしいし贔屓してんじゃない?」
「え、こっちが後回しってこと?最悪なんだけど」
「ちょっと可愛くてモテるからって調子乗ってんじゃないの?」
「まあ、私的にはちゃんと仕事してくれればいいんだけどね。だって、そのために一週間も挨拶運動したんだよ?」
生徒の。いや、依頼者たちの不満を代弁しているかのような会話だと思った。
よろず商業部の活動は新設したての一ヶ月前はまずまずの出だしだった。生徒会からのお墨付きをもらっている部というだけあり、依頼達成は勿論、その質も高いと評判になった。
しかも、本来金銭が発生する動画編集などの発注が無料でできるという都合の良い口コミが広まり、半月もしないうちに依頼殺到となり、現在追加部員もなく氷室川一人で対応をしているのだろう。
勿論、後藤先生も顧問であるからと手伝っているみたいだがただでさえあの人は仕事が多いのだから満足にカバーしきれはしない。
その結果、よろず商業部新設から一ヶ月半という短期間ですでに活動の仕組みが破綻しかけている。
内部を見たわけではないが、校舎内の至る所から非難の声が聞こえてくる。それも意識せずとも耳に入ってくるくらいになりつつあるのだから余程のことなんだろう。
昼休み終了の十分前。
俺は俺らしからぬ行動をとっていることに驚きつつも生徒会の扉をノックした。
「どうぞ!」
聞き覚えのある声からして新生徒会長の麻間将生先輩がいるのだろう。
「失礼します」
「おー。珍しいじゃないか、空木から尋ねてくるなんて」
東陵高校に入ってから会話をするのは二回目。
麻間会長と俺は小学生の頃によく遊んでいた関係で家が近所ということもあり、ばあちゃんとの関係は未だ良好のようだ。その点は仲良くしてくれてありがたいという気持ちでいっぱいなのだが、この人とは基本馬が合わない。
「麻間会長のこと苦手なので」
だははは、と大らかに笑っている姿を見ているとよく遊んでいた時のことを思い出す。でも、今はそんな昔話をする時ではない。
「よろず商業部のことで聞きたいことがあります」
「あー、なんで依頼を止めないのかってことだろ?」
この人はこうやって俺の思考を先読みして話をしてくる。そこが気持ち悪くて心底ムカつく。
「そうです。校舎の至る所で不満な声を聞きます」
「それを知っていて、空木が来る場所はここであってるのか?」
「はい?だって、生徒会は窓口になってるんですよね?」
俺が確認をすると、嘲笑しながら「だから?」と聞き返してきた。
もう、話にならないと思って俺は生徒会のドアに手をかける。その時、麻間会長は気のこもった声で言葉にした。
「依頼は止めない、と断言した上でもう一度聞くけど、空木の来る場所はここなのかい?」
「もういいよ」
そう言い残して俺は生徒会室を後にした。
昼休みの貴重な五分間を無駄にしてしまったと肩を落としながらも自分の教室に余裕を持って帰還した。
麻間会長は俺に、あの埃混じったあの教室に行けと言っていることは分かっている。でも、どうしてもままごと遊びをして痛い目にあっただけにしか思えないんだ。こうなると分かっていたのに…いや、ここまでの事になるとは考えてはいなかった。
むしろ暇を持て余すことすら想像していた。
でも、例え今の実情をあの時予想できていたとしても俺は選択を変えなかっただろう。だから、あそこに行くことはない。
本日の一挙投稿、最後までお読みいただき本当にありがとうございました!
「だから、あそこに行くことはない」 そう言い残した理人ですが、
外から聞こえてくる「よろ商」への不満や雪音の孤立。
ままごと遊びだと切り捨てたはずの場所で、彼は何を見つけるのか……。
明日からは【毎日18:00】に、1話ずつ投稿を続けてまいります!
第6話からは、いよいよ理人が…。物語はここから大きく加速します。
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それでは、また明日の18:00にお会いしましょう。




