第15話:理人の提案
「私が君を高校生にしてやる。正しい青春ってやつの作り方を教えてやる。みっちりしごいてやる。ただ、それだけだよ」
照れ隠しのような、それでいて誇らしげな、漫画からキャラクターが出てきたのかと勘違いしてしまうくらいに後藤先生は純粋で正しく、手を差し伸べてくれるんだ。
俺に向かって『正しすぎる』とか言ってきたけれど、この人の方がその言葉はお似合いなんじゃないかと思い、ようやく笑いが込み上げてきた。
「横暴すぎるでしょ」
「あ?もう慣れろ。私はこういう人間だ」
「それ、漫画の読み過ぎっすよ」
そんな当たり障りない会話に着したところでタイミングよく部室のドアが開いた。
ふと、時計に視線を向けると約束の七時半ちょうどだった。
時間より早くも遅くもなくピッタリというのが氷室川らしいなと思っていると、鋭い眼光で睨まれた。
「随分早いんだね。先生も珍しいですね」
気のせいか拗ねている? いや、まさか。
一学年の牽引していくようなあの氷室川が自分一人蚊帳の外になっただけで機嫌を損ねるなんて…と思っていたが明らかに膨らんだその頬を見て確信した。
こいつ、拗ねてやがる。
それを察してか、後藤先生は俺の方を見て顎をクイッと動かしてなんとかしろと言わんばかりに合図を送ってくる。
やっぱ、面倒ごとを押し付けるために俺を入部させただろこの人。
俺も負けじと、あんたがなんとかしろと伝えるように目で訴えてみたのだが、そんな光景を目の当たりにしている氷室川がフンっと鼻を鳴らしたので諦めた。
でも、変に気遣っても怒りを逆撫でするだけなので別の話題に切り替えることで切り抜ける戦法を選択しよう。
「えー、ゴホンッ! 氷室川もきたことだし、本題に入りたいんだがいいか?」
「勝手にすれば?」
「なんだよ。お前結構ガキくさいな」
やばい、つい本音が…と思った時にはもう遅いのが人生ですよね。
バコッという小さくそれでいて鈍い音と共に脹脛外側に想定外の衝撃が走った。
氷室川は軽く蹴ったつもりなのかも知れないし、俺も軽く蹴られたと思ったはずなのだが受けたダメージは大きく「うぅ」と情けない声が漏れてしまうほどだった。
そんな俺の様子を見て「大袈裟ね」という一言で切り捨ててくる氷室川。
俺はいつの日か、こいつの悪行を校内に広めて仕返ししてやると、呪いの眼差しを氷室川に向けながら心に誓いを立てていたその時。
後藤先生がなぜだか興奮気味に氷室川に駆け寄った。
「氷室川!」
「な、なんですか?これは空木くんが悪いんです」
「そんなのはどうでもいい」
「どうでもいいじゃねーだろ。教師なら暴力黙認してんじゃねーよ」
正論をぶつけたはずだったのに、なぜだから俺が睨まれてしまった。
話の腰を折られたのが気に入らなかったのかな。
後藤先生がこの中で一番子供だしね、というか少年だしね。
「氷室川。君が今放ったのはカーフキックだ。私は驚いたよ、この蹴りはな格闘家の選手生命をももぎ取るようなシンプルかつ強力な足技なんだ。どこで覚えた、誰に教わった」
後藤先生は氷室川に詰め寄りながら、ついにはその華奢な両肩をがっちり掴んで話さないといった状況になっていた。
「え、え〜と」と、困り顔を浮かべていた氷室川がなんとかしろと言いたげな表情を作り出し訴えてくる。
これのままでは俺の嫌いな無駄な時間だけが過ぎていくとも思うのでここは氷室川の思いに応えてみることにしようと考え、後藤先生を氷室川からひっぺがした。
「ほら、落ち着いてくださいよ。美人でクールな後藤先生はどこにいったんですか」
思ってもないことを口走ってみると「はっ。しまった」と後藤先生が我に返った。
だから、単純すぎるんだよな、この人。
「すまない。いつもの美人でクールで聡明な私のイメージを少し崩してしまった」
そんな意味のわからない解釈を聞いて、図らずとも氷室川と言葉が被る。
「聡明は言ってない」
ハモったことで恥ずかしさと可笑しさが込み上げてきて、どちらからともなく笑みを浮かべた。
これだって、無駄な時間だ。
氷室川や後藤先生と笑い合っても仕事は増えないし、報酬にはつながらない。でも、この無駄な時間が俺の鼓動を高ならせるんだと思う。
数分間にも及ぶ茶番劇の中、全員が冷静さを取り戻したことで俺は再び話を始めることにした。
「二人に聞いてもらいたいことが…。いや、提案がある」
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次回、第16話は明日の6:00に投稿します!
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