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第12話:私と友達になればいいじゃん

「ねえ…聞いてる?」


 ばあちゃんへの自慢にもならない話に一人、夢中になっていたので氷室川の顰めっ面を見て話しかけられているのだと気がつく。


「なに?」


「だから、空木くんって学校楽しいの?って聞いてるんだけど」


「は?なに、面接?」


「違うけど、でも。この前、この学校で卒業しなくてもいいみたいに言ってたから。楽しくないのかなって」

 愚問すぎる、愚問すぎて逆に狙って言ってるんじゃないかと疑うレベルだ。


「逆に聞くけど交友関係もない教室の隅にいるだけの生活が楽しそうに見えるか?」


「面白いこと言うのね」


「面白くねーぞ。自慢じゃないがこう見えて、中学の時は友達作ろうと思って計画的に動いてたんだぞ」

 は?何それ。キモ。普通に引くわ。といえばいいのに目で訴えてくるあたり、やはり性格が悪い。


「一応聞くけど、友達はできたの?」


「よ〜し、氷室川お前靴のサイズ何センチだー」


「友達…できなかったのね。かわいそう」


「馬鹿! 俺を可哀想だと憐れむな。俺は可哀想なんかじゃない。中学生というホルモンバランスの崩れる一番難しい時期に研鑽を続けたから俺はいろんなスキルを身につけられたんだ。もし、彼女なんていてみろ、俺は大してかっこ良くもないくせに洒落た服着てワックスとかつけて…うおぇぇ」


 自分のもしもの世界線を考えて先ほどのコーヒーを嘔吐しそうになっていると横で氷室川があはは「なによ、それ」と笑っていた。


 同年代との関わりが極端に少なかった俺には彼女がなにをどう感じ取って笑っているのかが想像できなかった。

 お腹を抱えて笑う彼女をただ呆然と見ていると、氷室川は目に涙を浮かべて拭いながら話し出す。


「でも、今の空木くんじゃなかったら今こうして一緒にいないだろうな」


「そりゃ、俺の中学時代が華やかしいほど俺は無能になるからな」


「そうじゃなくて、やっぱり警戒しちゃうから。委員会とかで男子と話しててもさ、この人私と話したくて仕事長引かせてるな〜とか結構思うんだよね。要は、そっち側に行ってたかもって話でしょ?」


「サラッとモテますアピールすんなや」


「私はさ、自分がとびきり可愛いとは思わないけどモテるとは思う。モテって努力の数値化だから。私は私を可愛く見せる手法を知ってるし、そうすることで自分にとっての正しいを作り出すの」


「はい?」


「ほら、早くメモ取りなメモ。声に出した方がいいかな。じゃあ、モテって努力の数値化だから。はい、リピートアフターミー」


 なんだ?と思い困惑しつつも言えと言われたのだから無心に同じことを言葉にした。

「モテって努力の数値化だから」


 ピロン!


「あっ!お前、録音したろ!」


「あはは。馬鹿じゃないの?モテって努力の数値化だから。って。友達もいないくせに〜」


 そう言って笑いながらスマホを掲げつつ何度か俺の声を再生させて彼女はこの寒空の下をクルクルと踊るように歩いていた。


「もういいだろ。友達がいたって俺の存在意義にはならないじゃん」

 つい、本音が漏れてしまった。


 これは友達ができないから僻んでいるとかそういう話ではなく、本来年金生活で働かなくてもよかった祖父母に働かせてまで生きている俺にとって友達は俺が存在する意義にはなり得ないんだ。

 氷室川の軽やかな足取りがピタリと止まり、彼女は俺の手の届くところまでやってきた。


 なにも言わずまっすぐとこちらを見てくるのに耐えられず「なんだよ」と声を漏らす。すると、氷室川は優しく微笑んだ。


「存在意義とかどうでも良くない?私はね、今を生きてるの。小難しい顔してネチネチ考えてないでさ、私と友達になればいいじゃん」


 そう言って、手を差し出された。


 この手を取れば俺に高校初友達が出来る。でもさ、俺に友達はいらないないしそんな時間があったら少しでもお金を稼がなきゃいけないんだ。そうすることでしか…。


 彼女の手を、想いを拒もうとした。けれど、その選択を安易にしてしまうのはどこか惜しいようにも思えた。


「あのさ、ちょっと保留にさせてもらってもいい?」


「あのね、私は告白したんじゃなくて、ただ友達になろうって言ってるだけなんだけど」


「わかってる。それでも、俺にとっては友達ってそれだけで特別なんだ」


「はあ。馬鹿真面目。私から友達になろうなんて高校に入って一回も言ったことなかったのに」


「それはあれか、自分から行動しなくても友達になりたい奴が寄ってくるっている人気者マウントか?」


「そんなわけないでしょう。大体、高校生活の土俵にすら上がってないくせにヒエラルキーなんて感じないでよね」


 そう言われて確かにと納得させられてしまう。

 いかん。実にいかんぞ。俺はもっと強くあらなければいけん、というか今日に鍵っては労われることがあっても馬鹿にされることはあっちゃならんだろ。


 全く。


 俺は氷室川雪音をなにも知らなかったんだな。


 彼女は愛想良く笑うわけじゃない。子供みたいなイタズラな笑みを浮かべて心底楽しそうに笑う。


 彼女は八方美人じゃなくて結構不満そうな表情をする。俺にだけじゃないことを願いたいが。


 彼女はこんな俺に友達になろうと言ってくれる。厄介だし、面倒だし、いいから仕事しろと言いたい気持ちがないわけじゃない。それでも、やっぱり、心のどこかで喜んでいる自分がいる。


 そうでなければこの寒空の下で脈打つ鼓動と熱を帯びていく頬の感覚に説明がつかない。


 この先、どういう関わりになるのか、もしくは関わらないのかは未来の俺が決めること。

 だから、今は流れるままに彼女に。氷室川と後藤先生に流されてみるのも悪くはないのかもしれない。

最後までお読みいただきありがとうございます!


「私と友達になればいいじゃん」 止まっていた理人の時間が、雪音の差し出した手によって大きく、静かに動き出しました。


効率や利益、そして「存在意義」

そんな難しい言葉を笑い飛ばしてくれる少女との出会いは、理人の高校生活をどこへ運んでいくのでしょうか。


第1章【よろず商業部・再始動編】完結です!

本日18:00より、第2章がスタート!!


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