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第11話:男女の歩幅は意外と違う

「終わった。あとはクリスマスイベントのポスターね」


 時刻は二十一時。

 このまま一気に終わらせることもできるが、その判断は氷室川に委ねることにしよう。


「残りも今やってくか?実際、明日に繰り越しても支障はないと思うが」


「空木くんは時間大丈夫?」


「俺は、まあ男の子なんで」

 ふふっと笑みを浮かべ「なにそれ」と呟いた彼女は少し考えてから「やっていこう」と判断した。


「了解。一応、サイトはいつでも作れる状態になってる。デザイン的な部分でイベントポスターに寄せた方が良いよな?」


「そうね。でも、大丈夫?」


 突然心配されたことでなに対してなのか分からず首を傾げてみせた。


「実際、サイトを作るのって大変だし。そこまで拘って完成しないとか、徹夜にさせてしまったりとか」


「まあ、心配しなくていいよ。見栄えの良さと難しさは現代においてイコールじゃない」


 それから数分間、クリスマスイベントポスターのイメージを擦り合わせ、各々の作業を再開した。

 色のメインは赤、黄、緑の三色に絞った。


 緑は背景カラー。赤と黄色でそれ以外の役割を担い、適宜黒線、白線を使い合わせながら伝えたい情報を強調していく。


 そこにクリスマスツリーとかサンタとかで世界観を演出する。ウェブサイトはプラスして応募フォームの設置が必須だった。とは言っても応募フォームのボタン設置なんてものは対して難しくない。


 応募フォームには参加希望者が学年と名前を入力するだけのシンプルなものだ。生徒会側が人数の把握をしたいからこういう仕組みを推奨したんだろう。


 ただ、それだけでは味気ないと思ったので生年月日と性別の記入欄も勝手に追加しておいた。


 これは俺の遊び心と親切心からの判断なのがその意味に気が付かないような生徒会ならそれでもいい。ただ、生徒会長に麻間がいる以上、男女比の選定目的と誕生日が近い人間にサプライズ企画を想定した、なんて意図をで組み込んだことに気がつくだろう。


 不服だが麻間会長は優秀。かつ、俺のことをよく知っている。

 今こうして氷室川と作業をしている姿でさえも昼休みの時点で見えていたのかもしれない。本当に気持ち悪い奴だ。


「なににやけてるのよ。気持ち悪い」

 慌てて口元を手で隠した。


「別ににやけてねーよ」


「にやけてた。どうせ自分に酔ってたんでしょ」


「なんだその偏見は」


「偏見じゃないわ、私から依頼を奪えてイキイキしてるもの」


「してねーわ。ったく、なんでお前みたいなのが人気者なんだよ。入る高校間違えたか」


 そんな発言をしてしまったからか、右足の脛をローファーの硬いつま先で蹴り飛ばされた。

 冷静に自分の状況を解説していても拭えない、声に出せない痛みがじわじわと広がり呻いている俺を見て氷室川はフンと鼻を鳴らしてパソコンに向き直った。


「畜生。いつかお前が暴力女だって全校生徒に広めてやる」


「その前に自分の存在を広めたら?このままじゃ卒業アルバムにあなたの席ないわよ」


「は?あるし。右上にちゃんと載せてもらうから」


「それで良いのね…」と氷室川は肩を落としてから作業に集中した。


 ただ、実際のところこちらはほとんどが終わっていたので最後の修正作業をしながら正面の彼女に気付かれないように目を向けた。

 どこまでも真剣な眼差しを崩すことなく、校内で叩かれ始めていたにも関わらずこいつは何も変わっていなかった。


 流れるジャズミュージックがいつの間にか閉店ミュージックへと変わっていき俺はパソコンを閉じた。

 彼女も遅れてパソコンを閉じてから荷物をまとめ出す。


 残りのコーヒーを一気に飲み干して外に出るとこちらに向かってくる時よりももう一段寒くなっていることに気がつく。


「流石に寒いわね」


 白くふわりと広がる息を吐きながら氷室川は呟いた。

 そんな彼女に目を奪われてしまいそうになるのを仕事の話で誤魔化す。


「ポスター終わったか?」


 一瞬のうちに手の感覚を無くしてしまいそうな寒さを感じてポケットに突っ込んだが身体の芯は温かさを残している。

 俺からの問いかけに対して満面の笑みでピースをしている氷室川を見てほんの少しだけ周囲の人達が言っていることにも頷けるのかもしれないなと思った。


「俺の方も終わってるから。明日にでも生徒会にリンク送っとくよ。あとは、明後日の依頼だな、どの順で進めるかは明日の朝集まる?」


 業務について淡々と話す俺に氷室川はただ真剣な眼差しを向けている。


「七時半とかでどう?」


「わかった」


「遅刻したら許さないから」


「わかってるよ、時間通りに行くよ」


 どれだけ俺に対しての信頼がないのかと思わず肩を落としてしまう。

 元々、一度話した程度の関係だったのだから信頼があるとは思っていないのだが、ほぼ初対面の人に対しての信頼の削られ方がおかしい。俺への信頼は完全にマイナススタートのようだ。


 それから駅に向かうまでの道のりを並んでいると男女の歩幅の差を今になって実感させられる。

 今胸の鼓動が高鳴っているのは俺も男の子だったということなんだろう。


 よし、家に帰ったら今まで色恋に興味がなさすぎて俺をゲイなんじゃないかと思っているばあちゃんにこの話をしてやろう。


「ねえ…聞いてる?」

最後までお読みいただきありがとうございます!


「男女の歩幅は意外と違う」 寒空の下、夜の街を並んで歩く二人。

仕事仲間としての信頼と、無自覚に高鳴る鼓動。

効率主義の理人が見せた「男の子」としての本音が、二人の関係を少しだけ変えていく予感がします。


次回、第12話は明日【6:00】に更新予定です!


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