アクロバット転倒 純情乙女『変』
はるか昔の実話です。
そしてなぜかわたしは転倒時何らかの面白エピソードがついて回るという…
これははるか昔、昭和の出来事。
高校入学式の翌日の帰り道。
当時は靴に至るまで指定があり、その革靴が合わず、足首後ろに靴擦れが。
学校から駅までは、山を下って40分歩く。駅前の歩道橋に差し掛かったころは、足の痛さがかなり厳しい状態に。
下り階段に差し掛かったとき、足元がぐらつき、よろりと前のめりに階段を転げ落ち…たはずが、あたかも猫のごとく、階段のかなり上のほうから落ちたのにもかかわらず、数段落ちたところでちゃんと手で体を支えて止まっていた。
怪我も痛みもなく、かばんも無事。
わたしは何故か転倒時「何か起きる」謎の反射神経が備わっているのだ。
それでも、一応まだうら若き乙女である。
階段落ちだなんて恥ずかしいったらない。
幸い歩道橋には人気がなかったはずだ。
うう~~~みっともない。と思いつつ、のろのろと起きあがりかけたときだった。
「大丈夫ですか!」
力強いバリトンの声が背後から降ってきて、同時に左腕を掴んで引き起こされた。
ええええええええええ!!!
ちょっと待って、真後ろに目撃者がいただとっ? しかも若そうな男性???
恐竜は歩いていないし、はかまの時代でもないけれど、まだ当時は中学校程度では男子学生と話すのがまだちょっと気恥ずかしいような、そんな時代。
歩道橋の階段転落である。
しかもみっともなくも前のめり落ち、当時は膝丈ちょい下まで長さがあったとはいえ制服はスカートである。
もしかしてスカートが捲れれていたかもしれないぢゃないか!
恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい!
こちらの思いなど知ってか知らずか、彼はわたしの腕を取っていとも軽々と立たせると、
「怪我はないですか?」
と聞いた。
やっとのことで、はい、ありがとうございますと答えたものの、恥ずかしくて顔も上げられない。
顔がカッカする。耳もだ!
棒を飲んだようにうつむいて立ち尽くすわたしに、
「あ、スカートが汚れていますよ」
ホコリだらけの階段を転げ落ちたので、紺のスカートは斑に白くなっている。
ティーンの田舎娘にとってはますますもって恥ずかしさ倍増である。
「よかったらこれを使って。怪我がなくてよかった」
薄いベージュの綺麗に畳んだハンカチをわたしの手に押し付けると、彼はそのまま去っていった。
恥ずかしくて、その場に暫く佇んでいた。
帰ってから洗濯してアイロンをかけ、お返ししようと持って歩いては見たものの…。わたしは顔さえ見てもいない。
いまだにこの方が誰だったのかは不明のままです。




