フィナーレ
語り終えた彼の表情を見れば、それが真実だと容易に分かる。
あまりに馬鹿げた話だ。……しかし、彼が起こした殺人の動機も、犯行の手口も、理外の力が作用していたとすれば全ての辻褄が合う。
そして、彼と直接会い、直に話を聞いたことで、わたしの方も今まで抱えていた疑念が晴れた。彼の言ったような日々が確かに会ったのだとしたら……あの人は絶対に『あの言葉』を残すから。
——悪戯なんかじゃない。
紛れもなく、『あの言葉』は彼に向けたメッセージだ。
わたしは震えた。それが興奮なのか安堵なのか、それとも哀しみなのか分からない。
でも、伝えなければ。
たとえその果てに、どのような結末が待っていようとも。
「……姉からの伝言です」
彼が息を呑んだ。
まるで、幽霊に会ったみたいな反応だった。
その反応を傍目に、わたしは一文字一文字確かめるように、脳内で反芻しながら呟く。
「もういいよ」
……わたしは、生涯忘れない。
あんな残酷な色をした、安堵の瞳を。
薄桃色の、据わった瞳を。
*
「現場より報告。受刑者一名、自殺です。至急応答願います」
*
——目を覚ますと、自室に横たわっていた。
頭がぼんやりする。酸欠に似た症状だ。あるいはただ寝ぼけているだけなのだろうか?
横たわったまま天井を眺めていると、いくつものことが克明に思い出された。そのどれもが、彼女のことばかり。そんな幸せな追懐に埋もれてしまった情報を、適当に掬い取ってみる。
そういえば、僕がこの天井を見ることは、もう二度とないはずだった。
なぜここに居るのか、どうやってここに来たのか、肝心なことが未だ思い出せない。
それでも、僕の体は自然と動いた。行くべき場所がある。
徒歩十分。簡素なつくりの住宅に辿り着いた。見慣れた建物だ。
インターホンを押す。十秒ほど待っていると、人が出てきた。
……深音だ。
僕はそこで、ようやくすべてを思い出した。
〝もういいよ〟
「ありがとう」
再会の言葉よりも、僕の口はその五文字を放った。
それを聞いた彼女は、どこか複雑な顔をしていた。僕はなぜ彼女がそんな表情をしているのか、訊かずとも分かる。
「ごめんね。わたし……」
僕たちは、自分自身の幸福を相手に委ねていた。互いが互いの幸福を願っていた。だから、どちらかが幸福の在り方を見つければ、もう片方も付いて行く。それは僕たちが僕たちである証左だ。
「いいんだ、いいんだよ」
僕はただ嬉しくて、彼女を抱きしめた。
……温かい。
「本当に、ありがとう」
部屋に上がると、それはもうお手本のように豪勢な食卓が用意されていた。もちろん誕生日ケーキもあった。現実で二年——こちらの世界で一ヶ月経ったのだから、今日は彼女の誕生日だ。
「豪華だ」
「でしょ?」
誇らしげな彼女に、ひとつ提案する。
「誕生日ケーキ持って」
「いいけど……」
素直に従い、大事そうに誕生日ケーキを抱える彼女を前に、
僕は、デジタルカメラのシャッターを切った。