村のご立派な薬剤師さんはどうやら転生経験者だそうです
チュンチュン、チュン……
気が付けば、もう朝だった。
私の朝はいつも早い。
眠気を覚ますためほおをペチンと叩いた後、私はむくりと起き上がり、いつものシンプルな白色のワンピースを着た。
この服が私が営む店、『アルセナ転生相談所』の正装だと勝手に決めている。
今日の朝食は……あ、そうだ、昨日お客さんからもらった卵があったはず。
今日はそれで目玉焼き作ろっかな。
私は冷蔵庫からピカピカの少し大きめな卵を取り出し、フライパンの上で割った。
それと同時に、ジュワーと焼けていく気持ちのいい音が私が住んでいる狭い部屋に響き渡った。
完成した時には、時計の針は五時三十分を指していた。
やばい、昨日は疲れすぎて本来やる転生餅の仕込みが出来ていないんだった。
私は速攻で目玉焼きを平らげ、オーブントースターの前に立った。
えーと、確かもう形は作ってあるはずだから、あとはオーブントースターで焼くだけだった気がする。
私は下の引き出しを開けて、転生餅のパックを取り出した。
「さてと」
私は袋を開けて、中の硬い状態の転生餅をオーブントースターの中に入れた。
それから待つこと三十分。
やっと転生餅が完成した。
出来上がった餅全てを紙袋に入れて、私は階段を下りた。
『アルセナ転生相談所』は、自宅の一階にある。
今日は何人予約が入っているんだろう。
私は今日の予約者リストを見た。
今日の予約者は一人だけ。
いつもは二人くらいいるんだけど、今日ははずれの日みたいだ。
私は少し肩を落としながら、そのお客さんが来るのを待った。
それから一時間後。
カランカラン、とドアにつけている鈴が鳴る音がした。
私ははっとして前を向いた。
「いらっしゃいませ……ってええ!?」
私は思わず目を見開いた。
なんてったって今日来たお客さんは、私が住んでいるルンカス村のご立派な薬剤師、キッチェル様だったのだ。
「これはこれは!キッチェル様でしたか!さあさあ、どうぞお座りください!」
私はキッチェル様を外が見える特等席へ案内した。
「あ、ありがとうございます」
キッチェル様はぎこちなく返事をすると、
私が気に入っている椅子に腰を下ろした。
「では、今回はどのようなご相談ですか? 手伝えるものなら何でも手伝わせていただきます!」
私は胸に手を当てる。
「えーっと……転生したいんです。」
「え?」
私は思わず口を開いた。
「えっと……それはどのような理由で?」
「……」
キッチェル様は少し黙った後、口を開いた。
「わたくし、一度転生したことがあるんです。元々はあるゲームの世界での平民で。それで一度転生してルンカス村の薬剤師に。」
キッチェル様は控えめに笑う。
「なるほど……では、どういう世界、誰に転生したいなど、ご要望はありますか?」
それを聞いてキッチェル様は少し悩むような様子を見せた後、にっこり笑って答えた。
「やっぱり転生する前の、ゲームの世界の平民がいいですね。お願いできますか?」
「は、はい!ではこの転生餅を食べてください!食べると準備がスタートして、一時間後には転生が完了しますよ!」
私は頑張って笑みを浮かべながら、餅を渡す。
キッチェル様はありがとうございます、と笑うと、転生餅を口に入れた。
「ありがとうございます、アルセナさん。では、またどこかで。」
キッチェル様はそう言って去っていった。
もう、キッチェル様のお薬を飲むことはできない。
悲しいけれど、なんだか嬉しかった。
ゲームの世界の平民に転生する十分前に、レイチェル様の願いをかなえることができたんだから。
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