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リーガルのことについての話し合いを終えてイリーナ一行はサーシェス辺境伯家に戻ってきていた。
「はぁ、エンディオ様、噂通り素敵な方だったわ。頭の硬そうなところが信頼できるし」
「それってエンディオ様の事褒めてないですよね」
ユミエルが本に目を落としながらイリーナの話し相手になるのはいつもの事である。
「褒めてるわよ。やっぱり私の相手が務まるのはああいう方でなくちゃ」
「結局話し合いはうまくいったんですの?」
イリーナのメイドであるミーチェが紅茶を人数分用意しながら問いかける。今日のおやつはフィナンシェだ。
「ええ。当初の目的通り、エンディオ様はリーガルの師となる話を受けてくださったわ。これで継続的にお会い出来る口実が出来たというもの。やっぱり、リーガルは私の恋のキューピットだったのよ」
「うまく使われた感が拭えないけどな」
やれやれとリーガルは肩を竦めた。
「でも、定期的にリーガルはレイトン公爵領まで行かなくてはならないんですわよね?あそこ結構遠いですよ」
「そうそう。そこら辺の話ってどうすんの?話では月1で向こうに行くって話になったけどここから遠いの?レイトン公爵領って」
ミーチェが当然の疑問を問いかける。
リーガルは月に1度レイトン公爵家を訪問し、そこで師としてエンディオからドラゴンの聖印の使い方について教わることになったのだ。
「ここからレイトン公爵家の本邸までだと、だいたい馬車で2日は移動に取られますね」
「うげぇ、めんどくせぇ」
「そこは大丈夫よ、なんたってうちにはヒナツが居るんだから」
「ぼくのでばん?」
唐突に話題の中心に持ってこられたヒナツはおやつのフィナンシェを美味しそうに頬張っているところだった。
「あぁ。ヒナツを使うのであれば移動なんてないも同様ですからね」
「ヒナツを使うのであれば問題ないですわね」
うんうんと、ユミエルとミーチェは頷く。
「俺、ここに来て1ヶ月だけどヒナツとユミエルって何の聖印持ちで何ができるのか全然知らないんだけど」
「まぁ。それはおいおいね。ちなみにミーチェと、もう1人のメイドのパティも聖印持ちよ」
そう、ユミエル、ヒナツ、ミーチェ、パティ。イリーナの側仕えとして働いているものは皆聖印持ちなのだ。
もちろん見つけて来たのはイリーナである。
「俺、聖印ってもんのことここに来て初めて聞いたからよく知らないけど、ここってかなり力が集中してるんじゃないの?」
「その通りです。お嬢様バケモノなので。今のうちに慣れなければイリーナお嬢様の側仕えなんてできませんよ?リーガル」
ユミエルは先輩として当然のアドバイスをするのだった。