61
「えっ、え、ええええええええええええええ!?!?」
イリーナは絶叫していた。イリーナが帝国に行っている間にエンディオがあのエンディオがサーシェス辺境伯家を訪れたというのだ。しかも花束を持って!!婚約の申し込みに来たのだという!!
「これが叫ばずにいられる!?」
「無理無理ですわ。私も叫びそうになってますもの」
「これがユミエルの言ってたあれか?押してダメなら引いてみろーってやつ……にしても師匠釣れるのはやすぎ」
ぎゃあぎゃあと、イリーナ達は大混乱だった。
「は、早めに王命が出たのかしら。私がメディルスと会って帰ってくるまでは待って下さいってお願いしていたのに……」
「その可能性はないでしょう。エンディオ様がいらしたというのはリーガルの修行日から2日しか経っていない日です。大方修行日に何かあったんではないですか?」
「あの日ははやめにおむかえのしじがきたしねぇ〜」
「あー」
「あー……」
リーガルとイリーナは二人で心当たりを思い出す。イリーナが婚約をエンディオに打診して玉砕した日だ。
「師匠にも思うところがあったんじゃねーの?」
「そもそもエンディオ様はお嬢様に月桂樹を渡しています。遅かれ早かれ婚約はきまるものだと腹を括ったんじゃないですかね」
月桂樹。イリーナの部屋に飾られているそれは、世間的には贈られたものへの愛を示すもの。だからイリーナは世間的にはエンディオの恋人であると認知されている。
まだそこまで大会から時間の経っていない今、噂を覆すような出来事は起きていなかった。例えばエンディオがイリーナに対して辛辣に当たり続ければ疑問が生まれ噂も書き変わって行くのだろうが、今はまだそんな時期ではなかった。
だからかもしれないとイリーナは思った。
エンディオはイリーナに月桂樹を渡したという責任を果たそうとしてくれているのではないかと。
そう考えれば彼の行動にも納得できる。大方ナテラ辺りに諭されたのだろう。
「どの道王命で嫁ぐことは確定しているのよ。エンディオ様からアプローチがあっただけでも喜ぶべきだわ」
イリーナはそんな風に考えていた。
イリーナはエンディオから好かれているなどという自信が全くなかった。今まで愛情深いメディルスのアプローチを受け続けていればさらにエンディオの気持ちなど分からなかった。
ただ月桂樹をもらった経緯から、だいぶん心は開いてくれているのだろうなとそんな事は思っていた。
だからあの日は誕生日プレゼントに婚約をねだったのだ。
イリーナとて勝算が全くなくそんなことを言い出した訳ではなかった。結構脈アリかも?と思えたからの発言だった。
まぁ結果は玉砕だったが。
泣くつもりは全くなかった。玉砕してもまたいつものように「冗談ですよ」と笑ってのける気でいたのだ。
きっとエンディオの心が全くイリーナに向いていない事を自覚して悲しくなってしまったのだ。
王命で婚約が決まるというのにこんな状況では幸せからは程遠いかもしれないと思ってしまったのもある。
「と、ともかく、エンディオ様はまたいらっしゃるとおっしゃったのよね!?」
心の準備をしておかなくちゃとイリーナは息巻くのであった。
―――
エンディオはイリーナが帰ってきた3日後に訪問すると先触れを送ってきた。
いよいよかとイリーナは戦闘準備とも言えるおめかしに力をそそぐ。髪色と瞳の色に映える濃いブルーのドレス。髪はミーチェに結い上げて貰い今日はポニーテールになっていた。アクセサリーにはパールをふんだんに使ったイヤリングとネックレスを合わせた。
「どこもおかしいところはない?」
「はい!お綺麗ですお嬢様」
「完璧なしあがりですわ!」
よしよしとイリーナは自分を鼓舞する。例え心の籠っていないプロポーズだろうとここまでおめかししたイリーナであれば泣かずに耐えられる。
これから長い時を歩んでいかねばならぬ相手だ。面倒くさい女だと思われてしまっては仕方がない。
エンディオには愛はなくとも、せめて利用価値のある有能な女として扱われたかった。
「お嬢様、師匠来たみたい」
「そう。今降りるわ」
リーガルに呼ばれ、イリーナは階段を降りる。




