55
「勝った!エンディオ様が勝ったわ」
パチパチとイリーナは手をたたきながら安心していた。観衆の目前で婚約の打診をされたとあっては断るのも難しい上に、成立させる事も不可能なのでどうすればいいか本当に困ってしまっていたのだ。
「ま、当然でしょ」
「エンディオさまおつよいね〜」
「いい試合でしたね」
「ハラハラしましたわ」
「メディルス様も残念だったね」
従者達も各々の感想を述べていた。
弾けるような大歓声の中エンディオは中央でザイファルト帝国の皇帝から優勝商品の贈呈を受けていた。
月桂樹の冠を頂く姿は凛々しく、イリーナは惚れ惚れしながらエンディオを眺めていた。
途中、パチパチと拍手しているメディルスと目が合う。彼はイリーナを目に留めると、残念そうに笑って見せた。あんな事を観衆の前で言い出した手前恥ずかしい思いでもしているかと思ったが、メディルスの様子はそんなものでなく、ただまっすぐにイリーナのことだけを見つめているかのように思えた。あまりの気恥ずかしさに視線を逸らす。そおっと視線を戻すとメディルスは堂々と前を向いてエンディオを祝福しているようだった。
―――
ザイファルト皇帝の祝いの口上が終わり、選手達は待機場に戻ってくる。
「ありがとうございますエンディオ様!あっ、優勝おめでとうございます!」
だっとイリーナが欄干に寄って手を振るとエンディオははぁとため息をつき、汗を拭いながらイリーナの元に寄っていく、と、ポンッと今まで頂いていたであろう月桂樹の冠をイリーナに渡してきた。
まるで今がリーガルの修行中で、単純にタオルを受け渡したくらいの感覚で月桂樹を渡されて目を丸くするがエンディオは全く気にしてない……というより渡した事に気づいていない様子だった。
「当然だ。勝つと言ったら勝つ。だが勘違いするなよお前のためなどではないからな」
「もちろん分かっておりますよ。私も困ってしまっていただけなので……エンディオ様に勝っていただいてほんとうに良かったです」
「ふんっ。今回はジークベルト様からの厳命もあったからな」
「えっ」
初耳である。貴賓席を見るとジークベルト様とセレナ様はそれはそれはものすごい勢いで拍手していた。おそらくエンディオがイリーナに月桂樹を渡したという事実がそうさせるのだろうが、本気でエンディオはイリーナにした事に気づいていない。
「ジークベルト様が……そうですか。ところで、これいただいてよかったんですか?」
観衆の前で渡された月桂樹は、優勝者が愛する人に贈るものだ。
イリーナとしては役得も役得で嬉しかったが、エンディオが簡単にこんなものを渡すような人ではないことくらい重々承知していた。
みるとエンディオは、見た事もないくらい真っ赤になってしまっているのだった。
わぁあと囃し立てる観衆達の声はもう留まることを知らない。
ヒュヒューと口笛を吹かれ花があたりを舞っている。
「し、し、仕方がないからやるが、勘違いするな!流れでそうなっただけだ!ながれで!!」
「はい!もちろん分かっておりますよ!」
イリーナは結構脈アリなのではなどと考えながら月桂樹の冠を握りしめるのだった。




