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「あんな男のどこがいいんだ?」
リーガルは素直に思った通りのことをイリーナに尋ねた。
「顔がいい、声がいい、頭がいい、家柄がいい、真面目、なんだかんだ優しい。完璧じゃない」
「だって師匠の態度!お嬢様にめちゃ冷たいじゃん」
リーガルは聡い子だ。エンディオの態度がはっきり自分とイリーナとで違っていることにきづいているのだ。
確かにエンディオはリーガルにはとても親しげだが、イリーナに対してはまだまだ警戒されているような単純な仕事相手のようなそんな態度が拭えない。
「馬鹿ねぇ。エンディオ様からしたらお優しい方だわ。見たでしょう?あの記者に対する辛辣な態度」
「あれと比べちゃいけない気がするけど……」
リーガルは不思議だった。イリーナはまぁまぁな美人でちょっと性格と頭に残念なところもあるが可愛げのある人だと思っていた。
もっとちゃんとイリーナを優しく大切に女性扱いしてくれる男などごまんと居そうである。
「リーガルも恋をすればわかるわ」
「そういうもんなの?」
いつか自分にもリーガルに向けるような優しい視線を向けてくれるかもしれないと、そう思うだけでイリーナは満足だった。本当にそんな日が来てしまったら卒倒しそうですらある。今くらいがちょうどいいのだ。
―――
それは本当に本当にささやかな思い出だった。
イリーナが社交界にデビューしたのは15歳の時。
そしてエンディオ・レイトンを初めてみたのもその時だった。
イリーナは色とりどりのオーラが見える。中でも一際大きな漆黒のオーラを持ったエンディオに興味津々だった。オーラと同じ色の短い髪にルビーのような紅い瞳の青年はニコリともせず淡々と周囲の人と話している。
(ドラゴンの聖印持ちの人だわ!かっこいい!仲良くなれるかしら?)
生まれた時からドラゴンの聖印を宿したエンディオはそのことを公開している。イリーナも話だけは聞いていた。だからすぐに聖印の話ができるとイリーナは嬉しかった。オーラが見えることは隠さないといけないのだ。
彼の話が途切れるのを待って、イリーナは挨拶に向かう。
「はじめまして。サーシェス辺境伯家のイリーナ・サーシェスと申します」
「あぁエンディオ・レイトンだ」
「エンディオ様はドラゴンの聖印を持たれているのですってね!凄いですわ」
イリーナが話題作りの一環としてそう切り出すとエンディオは嫌そうに顔を歪めた。それからイリーナが何を言っても「ああ」とか「うん」の返ししか来なくなってしまった。
明らかに不愉快そうにしている態度にイリーナも話を切り上げてそそくさと彼の元を後にする。
(なにか間違えてしまったんだろうか?)
イリーナは純粋に公開されて知っている情報から普通に話を振っただけである。あんな態度を取られる筋合いはまったくない。
ぷりぷりとイリーナは乙女をあしらった美青年に腹を立てていた。だが、見ていると彼は誰に対してもあんな感じで特に女性にはきつく当たっているように見えた。
後に、あの人は女嫌いで有名なのだと友人が言っているのを聞いてそういうことかと納得したのだった。
次に彼のことを意識したのはすっかり夜会にも慣れた17歳頃だっただろうか。その日のイリーナは夜会に少し疲れてしまっていた。
先程から3曲は踊っている。次の曲がはじまり、誘われる前にイリーナはそっとテラスの方に移動する。
「あら?」
テラスには先客がいたらしい。
はぁと彼エンディオ・レイトンは面倒くさそうに息をついた。
「し、失礼しました」
急いでイリーナは踵を返したが、疲れていたからか少しよろけてしまう。後ろに転びそうになったところをエンディオに抱き止められた。
「あ、ありがとうございます」
「待ちなさい」
お礼を言って再び出ようと体勢を整えたところで再び声がかけられる。
「疲れたから休みに来たんだろう?私が離れるからここは使うといい」
そう言って彼は欄干のところまで手を引いてくれたあとは、そのままテラスから出ていってしまった。
それから何となく彼を目で追うようになった。
ドラゴンのオーラはよく目立つ。彼を探すのは簡単だった。
パティとヒナツの台詞の差分化するためヒナツの台詞を過去話修正しています。
ヒナツ「ごめいわくをおかけします。さくしゃも反省しております」
パティ「今後もこういう事があるかもしれませんが暖かく見守っていただけると幸いですっ」