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「お待たせしてしまいましたか?申し訳ありませんエンディオ様」

「いや、私も今来たところだ」


そう言って懐中時計をしまうエンディオは今日はいつもよりラフな格好をしているようだった。灰色のジャケットに襟元が少し開けたシャツ、黒いスラックス。今日は黒い髪を耳にかけておりルビーのピアスをしているようであることがわかった。鍛錬の時はしていないのでイリーナは少し珍しい物をみた気分だった。


「今日はリーガルに服をやろうと思ってな。よく破いて帰っているだろう」

「まぁ、あれは支給品だからいくらかは予備があるけど……確かに毎度破いて帰ってはいるかな」

「動きやすい物をいくらか買ってやろう。この間のプレゼントの礼だ」


リーガル達の従者用の仕立ては結構良質な物を与えている。鍛錬日の度に仕立て直しをしているリーガルの分だけ明らかに出費が高くなっていることはそれとなく注意されていたところだった。


「良かったわね、リーガル」

「師匠からの初めての贈り物が服って……」

「なんだ文句あるのか?」

「いや別に」


行くかとエンディオはイリーナに左手を差し出してきた。どうやらエスコートしてくれるらしい。イリーナは内心飛び上がって喜びながら手を添える。


「君にもお礼をと思ったのだが思いつかなくてな。なにか欲しい物があるなら言うといい」

「まぁ。今日呼んでくださっただけで充分私は満足ですよ」


3人が向かったのは王都の中央街から少し外れた通りにある服屋だった。騎士団の人が通う専門店で、騎士の鍛錬服などを仕立てているらしい。女性用の服も売っているが剣を握るようなアクティブなご令嬢くらいしか訪れないだろう。イリーナが店内を見て回っている間にエンディオとリーガルはテキパキと服の注文をしているようだ。

1時間もしないうちに注文は終わり、出来上がりの品はサーシェス辺境伯家で受け取ることになった。エンディオはリーガルに色んな服を何枚も買い与えたらしく20枚近い物が来ることになった。


「なんかいっぱい買ってもらった……」

「良かったじゃない」

「目まぐるしく服着せられて疲れた」

「あら、服を買うってそういうことよ」


ぐったりとしたリーガルは着せ替え人形にされたのだろうブツブツと文句を言いながらソファに身を預ける。


「なんだ、こんなことでへばっているのか?」


エンディオにそう声をかけられるとムッとしてリーガルは立ち上がった。


「別にへばってないし!」


「次行こ」とリーガルに促されてイリーナ達は服屋を後にする。

それから大通りの様々なショーウィンドウのある通りを3人で散策した。

時折エンディオはイリーナの様子を伺うように視線を寄越してきた。きっとイリーナがなにか欲しそうにしているものは無いか探っているのだろう。


正直なにか欲しいものは無いかと言われると困ってしまう。サーシェス辺境伯は豊かな領地に恵まれたいわば金のある家だ。欲しいものは大抵買うことが出来るし、今特別に何かが欲しいという物もなかった。

強いていえばエンディオと少しでも長くこうやって歩いていたいというのがイリーナの希望である。

だがきっとなにか欲しがらないとエンディオを困らせてしまうだろうというのもイリーナはわかっていた。

ショーウィンドウに目を走らせながら何をねだれば良い印象を与えるだろうと思考する。

(ドレスを強請るのはエンディオ様はあんまり良い顔をしないだろうし……、アクセサリーも恋人に贈る物ってイメージが強いからなぁ……髪飾りくらいだったらいいかしら……?ううん。無難に小物にしましょう)

そう決めてなにかいいものはないかショーウィンドウに目を向ける。


「ふむ。出掛けるのも良い教材になるな」


しばらく話しながら歩いているとエンディオが突然そんな事を言い出した。


「教材と言うと?」

「リーガル。お前は気付いているのか?」

「ずっとつけてきてるおっさんのこと?どうせゴシップ記事の記者でしょ」


リーガルは横目で遠くの人混みを見やる。


「いい見立てだ。では捕まえてこい」

「いいよ」


そう言ってリーガルはたたっと人混みの中に消えていってしまった。


「私たちは少し奥で待とうか」

「ええ。別に捕まえなくても良かったのではないですか?」

「ああいう記者は野放しにしておくと良くない。本当にあること無いこと記事にするような奴らだ。君にもリーガルにも不利益だろう」


しばらくするとリーガルは真っ青な顔でガクガクと震える小太りの男を捕まえてきた。褒めて欲しそうにニコニコと隣で笑っているリーガルとの対比が凄い。


「ご苦労、さて……」


そこからはエンディオの独壇場だった。男を締め上げどこの出版社か吐かせた後は今日のことが記事にならないようにスマートに脅しあげた。男は美形に凄まれて終始涙目でプルプル震えており、イリーナは少し同情してしまった。

しばらくして解放された男はペコペコと頭を下げながら逃げるように人混みに消えていった。


「これで変な記事になることは無いだろう。アーバネットのゴシップ記事は質が悪いので有名だ。釘を刺しておいて損は無い」

「俺は途中からおっさんが可哀想に思えてきたよ」

「奇遇ねリーガル。私もよ」

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