33 閑話 パティ式鍛造術
ルートン伯爵領の花祭りで、イリーナ達と分かれてから、リーガルはパティと祭りを散策していた。
「良質なシナモンにゴマ、アラカ、リナ草、ヤシュ草の種も見つけたから買っちゃった。ミーチェ喜ぶかな」
「なんだそれ。なんかの暗号か?」
「暗号だなんて。香辛料の名前とかよ」
リーガルは料理のことにはてんで興味が無いが、パティが毎日のようにお菓子を作り、おやつの時間にお菓子を提供してくれていることは知っていた。これがまた結構美味しくて、毎日の楽しみになっている。
積み重なる紙袋は、小分けされている為多く、ちょっと持ちにくくなってきたので護衛としてついてきてくれた騎士さんに半分持ってもらった。
一通り香辛料を買い込むと、パティは鉱石を売っている区画を指さす。
「この辺りの山からはルビーがよく採れるんだってユミエルが言ってたわ。見てみましょ」
リーガルは石なんか見て何が楽しいんだろうと思いながら、パティの後に続く。
パティは目を輝かせながら鉱石を品評しているようだった。
「うんうん。どのルビーも質がいいわ。あ、でもあっちのはダメね……。見て見てリーガル。これとかリーガルの目と同じ色だよ」
ほら!と指さされたのは確かにリーガルの深紅の瞳と同じ色のルビーの粒だった。リーガルの小指の爪くらいの大きさで、原石ではなくカットされているものだ。
「確かに同じ色だけど……うげ!めっちゃ高いじゃねーか」
「欲しい?」
「いや。欲しくはねーけど」
こんな高い石ころを持っていたって、なんの役にも立たない。
リーガルはお洒落だのそういうものにも疎かった。
宝飾品なんて宝の持ち腐れもいいところだ。
パティは急にポンと手を叩く。
「そうだわ。可愛い後輩にお姉ちゃんがプレゼントを作ってあげる!」
そう言ってパティは大層な価格の貼られたルビーと適当に見繕った無加工のミスリル鉱石をこれまたポンと買ってしまった。
怒られるんじゃないかとリーガルは心配になったが、帰ってイリーナ様に報告すると彼女は怒るでもなく受け入れていた。
「あら、いいじゃない。リーガルなら長剣とかあっても使いそうだし」
「ですよねですよね!私刃物は作ったこと無かったので1回作ってみたかったんです!」
「作る?」
「そう。プレゼントしてあげる」
なるほどパティが得物を作ってくれるらしい。リーガルは鍛冶についても疎かったが、自分と変わらない歳に見えるパティの細腕で鍛冶などできるのかと不思議に思った。鍛冶といえば、もっとむさ苦しいおっさんがゴウゴウと燃える火のそばでハンマーを打っているイメージが浮かぶ。
「リーガルは短剣と長剣だったらどっちがいい?」
「短剣かなぁ」
師匠との打ち合いでよく使わせて貰っているのは長剣だが、実はリーガルは少し使いにくいと思っていた。小回りの効く短剣の方が素早さでエンディオに勝っているリーガルは使いやすい。
リーガルもエンディオもドラゴンの聖印持ちなので木刀や鉄剣は打ち合いでは使えない。どちらも握力で握り潰してしまうのだ。なのでミスリル鉱石で柄も剣身もできたものを使っている。ミスリルでも使い続ければすぐにひしゃげてしまうのだが……。もしミスリルの短剣があれば打ち合いで使わせて貰えるかもしれない。
「分かったわ!すぐにつくってあげるね」
「だって。ふふっ。良かったわね、リーガル」
パティはミスリルの塊を手にすると両手でぽんぽんと叩き込む。するとかなりの硬度があると言われているミスリルの塊(←ここ重要)はその形を平たく変えていった。
パティは両手の中で粘土のようにミスリル鉱石をこねくり回している。
「すげぇ」
「見ておきなさい。これがノームの印の真骨頂、鉱石類に干渉する力よ」
ふふんと鼻を鳴らすイリーナ様。イリーナ様は俺たちが印の力を使うと誇らしげな顔をする。
パティはミスリル鉱石を短剣のような形に形成するとリーガルを呼んだ。
「リーガルちょっときて。これ持ってみて」
ほいっと渡された短剣は既にしっかりした造りになっているようだった。
「持ちやすい?」
「持ちやすい?……ちょっと太いかも」
「じゃあちょっと握ってみて」
握れと言われて握ってみた。先程パティが粘土のようにミスリルを捏ねていた様子を見ていたので、怪力の自分が同じように扱えば握り潰してしまうのではないかと思ったがそんなことはなく、きちんとミスリルの硬度の短剣の柄だった。
「今から柔らかくするから握り込み過ぎないでね」
そう言ってパティが短剣の剣身の方にそっと触れると淡い黄色い光が指先から発せられた。すると、リーガルが握りこんだ柄が若干柔らかくなった気がした。にゅるりと生暖かい金属が指の隙間に入ってくるような感覚がある。
「はい!離して」
パッと手を離すと柄にはくっきりとリーガルが握りこんだ手の跡が残っていた。
パティは再度短剣を捏ねる。柄の太さを整え、器用に指先で模様を彫り込み、剣身は丁寧に磨く。時折パティの指先から黄色い光が発せられることもあったが、ここまで全て素手だけでやっていた。
しばらく粘土ミスリルと格闘していたパティは最後にルビーを鍔の部分にはめ込むと「できた」と声をあげた。
「はい。私から歓迎のプレゼントだよ」
そう言って渡されたのは30センチ程の長さの短剣だった。全身ミスリルでできており、鍔にはルビーがはめ込まれている。鍔にも刃の部分にも唐草模様が彫り込まれておりシンプルだが品良く仕立てられていた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして!もし潰しちゃってもなおすから言ってね」
エンディオにパティを紹介したらめちゃくちゃ重宝されそうだなとリーガルは思うのだった。




