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「うーん……はじっこのほーはつかまえにくいね〜。鎖をかけてもかけてもすり抜けられちゃう」

「端っこだから小回りが効くんだろ」

「たまに水かけてくるのはやめて欲しいですね。こういう川と繋がりの少ない湖って水が澱んで有害な微生物とかいて危ないんですよね。リーガルもヒナツも水被ったならすぐ洗った方がいいですよ」

「うえ〜そうなんだ。おちついたらぼくがじょーかしてあげるよ」


そんな事を話しながらリーガル、ヒナツ、ユミエルはウロボロスの身体と対峙していた。


「相変わらず頼もしいことですね彼らは」

「そうでしょう?自慢の従者達よ」


リーガル達が褒められてふふんとイリーナは得意げに笑う。


「それにしても……なかなか良くならないわね……」


オーラの弾ける現象は一向に治まらない。

かれこれ30分はオーラの浸透をかけ続けているが、ウロボロスはとても苦しそうにのたうち回っている。


「どうしようシェン。術かけるの止めた方がいいかしら……苦しそうよこの子……」


進捗が芳しくない事にイリーナは焦っていた。

同時にウロボロスが弱っていっていることも心配だった。

それを察してかシェンは首を振る。


「どの道この精霊は長くないと思うよ。ボクとしては可能性があるなら続けて欲しいかな〜。でないと消さないといけなくなる」

「消すって?」

「存在を。人間に分かりやすく説明すると、殺して跡形もなく骨も残さず綺麗に浄化するって所かな〜。周囲への影響をかんがえて〜……」

「それって、自然に還れないってこと?」


「そうだよ〜」と頷くシェンも、この先に何が待っているのか想像がつかないといった様子だ。

通常精霊は死ぬことが中々ないが、消滅する時は霧散して自然界に還るというのが定説だ。

精霊を消すということは自然界に還ることも許されないいわば処刑のようなものだ。あまりやりたいものではない。

それにしても、シェンですら分からない現象とは厄介なことこの上ない。



「分かった。覚悟決めて、続けるわ。一度弾ける現象が収まった前例があるもの。エディ、長丁場になるわ」

「分かりました。シーヴァ、レイド、そっちはまだ大丈夫そうですか?」


「抑えてるだけだからへーき」

「へーきへーき」


イリーナはふぅーと1つ息をつき、改めてウロボロスに向かい合う。


―――


どれほど時間が経っただろうか、3時間、4時間?それくらい長い間イリーナはウロボロスと向き合っていた。途中からシェンも参戦してオーラの浸透をかけ続けていると、徐々に、本当にゆっくりだが、パチパチとオーラが弾ける現象がおさまってきた。


「このまま術をかけ続ければ希望はあるわね」


額の汗を拭う。鬱蒼とした森の中は湿度が高く、イリーナは汗でびしょびしょだった。

(帰ったら一番にお風呂に入ろう)


「ぼくはおじょーさまのからだが心配だよ。すこしは休んで?」


そう言ってヒナツが差し出してきたのは金属製の水筒に入った水だ。

ウロボロスが大人しくなった事で余裕が出た為、ヒナツが一度ルートン伯爵家に戻って食べ物や飲み物を持ってきてくれたのだ。


「ありがとうヒナツ。私はまだ大丈夫よ」


そう言ってもう一度ウロボロスに向き合った。


―――

時折、休憩と仮眠を繰り返しながら、ウロボロスにオーラの浸透をかけ続け、まる二日イリーナは森の中で過ごした。


「よっし!終わったぁぁぁ!」


バタンと後方に倒れ込む。気を張りつめていたため酷く疲れたがオーラの浸透に関する技術が上がったようなきがする。


「お疲れ様です姉様」

「やっとかぁ!お疲れ、お嬢様」

「お疲れ様ですお嬢様」

「おじょーさま、おつかれさま〜」


2日付き合ってくれた皆からの激励が飛んできた。


ウロボロスの回復具合は本当にゆっくりで、片時も目が離せなかったが、なんとかパチパチと弾ける現象は全快と言ってもいい状態に持ち込めた。

シーヴァとレイドが不気味と評した空気も無くなったようだ。


「もうそんなに長くないけれど、彼を自然に還すことが出来てボクは嬉しく思うよ」


もうずっと、シェンはウロボロスを労わるようにその体を撫で続けていた。同族のこんな姿を見るのは心が痛むのだろう。

やはり、ウロボロスの衰弱は激しくその身体から発せられるオーラも酷く弱々しいものになっていた。


「の……」


初めてウロボロスから声が発せられた。


「待って、こいつしゃべっ…」

「しっ」


純粋に反応したリーガルの口をユミエルがさっと塞いだ。

ウロボロスは言葉を紡ぐ。


「の…………ん………だ」



「のんだ?どういうこと?」


シェンが食い気味にウロボロスに尋ねるが、ウロボロスから返事は帰ってこなかった。


瞬間、パキパキという音と共にウロボロスの身体が脱皮する蛇のようなはたまた透明なガラスに包まれたかのように白く染まっていく。

そして小さな光の粒になって端から崩れ落ち上空へと登っていく。

その様子は幻想的で、精霊が自然に還る姿はこうも美しいものかと見惚れてしまう。



「まって、あそこ、なんか光るものが落ちたぞ」


ウロボロスの身体が八割程消えかかった時、リーガルが突如一方を指さした。彼はそのまま見えたものの近くまで行くとこちらを振り向き叫ぶ。


「なんか、やばそうなナイフがあるー」


「触っちゃダメよ!!」

「触らないでくださいよ!!」


すかさずイリーナとユミエルが叫ぶ。

得体の知れない状況にあったウロボロスの身体から出てきた得体の知れない物だ。用心してなんぼだろう。


皆で見に行くと刃渡り20センチ程のナイフが土の上に落ちていた。

なるほどリーガルがやばそうなと形容した理由が分かった。そのナイフは薄灰色の持ち手にも刃の部分にも不気味な赤い魔術陣が奇妙に輝いていたのだ。

ユミエルが眼鏡を持ち上げながらナイフを観察する。


「この術式、似たものを見た事あります。確か古い呪術で、人を呪い殺すといった類の物です。かなりアレンジされてますけど……」

「なんでそんな物騒な物がウロボロスの腹から?」

「の、ん、だ、って、これの事だったりするのかな〜?」


そう言いながら、シェンはひょいと件のナイフを持ち上げた。


「シェン!危険じゃない?」

「試しに試しに。どう?オーラ弾けてる〜?」


「弾けてないけれど……危ないことしないで」

「ごめんごめん〜。でも、コレボクには効果がないみたい」


そう言ってシェンはナイフに手をかざし力を注ぐ。すると魔術陣が色を失いナイフはパキンと折れた。


「はい。コレでオッケ〜」

「効果は消えたみたいだけれど……エディどうする?これ」


話を振られたエディは険しい顔で首を振った。


「持ち帰って研究するしかないでしょう。私には分かりませんが精霊に悪影響を及ぼしたものなんですよね?」


「そう、そうよね……私はここに埋めて帰った方がいいと思うけど……。シェン。悪いけど暫くそれ持っておいて。皆は触っちゃダメよ?」

「おけ〜」


何はともあれ一旦は終息だ。


「ヒナツ、ルートン伯爵家へ帰りの転移魔法お願い」

「まかせて!」


約2日ぶりに文明圏へと帰還したイリーナはまずお風呂に入る事からはじめた。


今回の物語、話の大筋を決めてその中で、何がどのように起こるかはちょこちょこダイスロールで決めてたりします。(ウロボロスの浄化が何時間でできるかや、ナイフを誰がどのように見つけるかなどの細かいところ)

クトゥルフ神話TRPGのルールに準拠しています。

今回リーガル君は目星クリティカルを出したのですんごい目と勘がよくなってます。

今後主にダイス結果の小話をあとがきに添えて行こうと思います。

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