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「知らない子供がいるな」


「あぁ、シェンですか。この子も私の従僕見習いで普段は部屋の管理を任せてるんです」

というのがシェンのことを説明する時の建前だ。


「君は何人従僕見習いをつけているんだ?」

「そんなに多くはないですよ。エンディオ様がお会いしたことのある4人で終わりです」

「多いと思うが……」


エンディオは納得がいかないという風に首を振った。


「皆優秀な子達ばかりなのですよ」

「それは……見ていれば分かるが、君の体裁上良くないのではないか?」

「まぁ。私の噂のことを言ってますの?あんなもの無視ですわよ」


噂とはイリーナが少年趣味なのではないかと言われているものだ。確かに周りには子供の従者しかいないが、実際恋をしている対象はエンディオなので噂なんて当てになるものではない。


「ねぇね、君さ何持ってるの?」


シェンがナテラに話しかける。エンディオの後ろでニコニコとしていたナテラは急にシェンに話しかけられて驚いているようだ。


「これですか?そこで売っていた新発売の飴です」

ナテラは背後の屋台を指さした。


「へぇ……。イリーナ、ボクもこれ欲しい」

「いいわよ買いに行きましょうか。それではエンディオ様、私たちはこれで」

「あぁ」


「エンディオ様っ」

別れようとしたところにナテラが慌てて何かをエンディオに小声でつぶやく。

エンディオは顔を顰めるとため息をつく。


「女子供だけではやはり危ないだろう。送っていこう」

「えっ」


ナテラが入れ知恵したのだろうエンディオはそんなことを言ってきた。


「それはありがたい申し出ですが、エンディオ様のご用事は良いのですか?」

「もともと私達も予定は終わっていて帰るだけだったのだ。お前達を送るくらいは容易い」


エンディオと少しでも長い時間一緒にいられるのだ。これ以上に嬉しいことは無い。

なんだかんだ言ってはいるがエンディオはきちんとイリーナを女性扱いしてくれている。それがたまらなく喜ばしかった。


「それでは、お言葉に甘えてしまおうかしら」


「俺が護衛じゃ不安だってか!?」

「そうだ」


またリーガルがエンディオに突っかかっていた。確かにそんな会話を先程したばかりだったので、エンディオとしては有言実行したかっただけかもしれない。それでもイリーナにとっては役得である。


「では飴を買って帰りましょうか」


そう言って屋台の方に向かう途中、シェンが寄ってきて小声で囁いた。

「イリーナ、多分これにバンデラの花が入ってる」

「なんですって!?」


しーっとシェンに言われて自分でも思ったより大きな声が出ていた事を知る。エンディオとナテラは不思議そうにこちらを見ていた。


「確かなの?」

「多分。だから買って欲しいって言ってるんだよ〜」


イリーナは屋台の店主を観察する。

屋台の店主は40代くらいの男だった。とくに変わった様子のないどこにでもいる普通の商人のように見えた。オーラの色は緑色。印にできる程のものではないが確かに緑色のオーラはエントの印を持つものが持つオーラの色だ。うちだとミーチェも同じ色のオーラを持っている。


「こんにちは。飴を買いたいのだけど」


まだこの店主が悪い実験を行っているかは分からない。イリーナは普通を心がけながら飴を買った。


「まいど」

「変わった香りの飴ね、何が入っているの?」


商人はニカッと笑うとよくぞ聞いてくれたという風に話し始めた。


「俺の故郷で幻の花って言われてるバンデラの花ってのが咲いててなぁ。量産に成功したからそれを入れてるんだ」


「バンデラの花ですか?その花の安全性は保証されているんですか?」


スっとまた話を続けたのはやはりユミエルだった。

この子は賢くよく機転が利く。


「俺だって一応商人だ。売りもんの安全性は調べた。バンデラの花に危険があるなんて書かれていた本はなかったはずだ」


「ですが幻の花と言われるくらいの花です。僕たちの知りえない成分が含まれていない保証はないじゃないですか」


「それなら俺が証明してやれるさ。俺はこの飴を作ってから毎日食ってるが体が悪くなったりしてねぇだろ?」



あぁ〜とイリーナは頭を抱えたくなった。今回の事件は悪意の現象ではなく、何も知らない善人が引き起こしてしまったのだろう。

常人にはオーラの判別が出来ない。自分がオーラを持っているか持っていないかなど分かりようがない。もしこの飴を食べた人物がオーラを持っていなければエントのオーラを持つようになって終わり。エント以外のオーラを持つものが食べれば灰色のオーラが出来上がって今回の不審死の事件に繋がってくると、そういうわけだろう。

もともとオーラを持っている人自体そこまで多くないためこの店主も飴の成分の危険性に気づけなかったのだろう。


(これは、困ったことになったわ)



ユミエルも困ったように私を見あげてきた。

実際にバンデラの花の危険性が書かれている本があったならユミエルなら題名はおろかどこに置かれている本かまで完璧に覚えているはずだ。セプの聖印。その力は記憶能力の増大である。

ユミエルもバンデラの花が危険だと書かれた本を見たことが無いのだろう。

仕方なく、イリーナは下手に出ることにした。


「まぁまぁいいじゃないユミエル。珍しい飴なんだから少し買って帰りましょう」


「お嬢様がそう言われるのでしたら……」


ユミエルはイリーナの意図が伝わったのかすんなり引き下がってくれた。

イリーナは迷惑料だと言って少し多めの金を店主に渡した。




「何やら揉めていたがこの飴に何かあるのか?」


背後でイリーナ達のやり取りを見ていたエンディオからしたら当然の疑問だろう。


「えぇ、少し……。ナテラ様、申し訳ありませんが、その飴私達に預からせて貰えませんか?」

「えぇ、構いませんが……」


ナテラから彼が購入していた飴を預かると、イリーナは簡単にバンデラの花には危険な中毒があるかもしれないのだと話した。


「何故お前がそんな事を知っている?」

「少し……小耳に挟んだ程度の情報ですわ。我がサーシェス家が精霊と関係深いのはご存知ですよね。精霊から聞いた話にバンデラの花の話があるのですわ」


なるほどとエンディオは納得してくれたようだった。


そのままエンディオ達は、イリーナ達をサーシェス辺境伯家の別邸まできちんと送ってくれたのだった。

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