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「以上が最近の不審死の事件のまとめになります」
ユミエルが調べて来た資料に目を通す。数日でここまで調べてまとめるのは骨が折れただろう。
「ありがとうユミエル」
ユミエルはいつもイリーナが欲しい情報を率先して集めてきてくれる。今回も頼んでも居ないのにいつの間にか資料が出来上がっているのだからユミエルの優秀さはイリーナが説明するまでもないだろう。
将来は王宮の文官にでも余裕でなれそうである。
「特別に共通点が見つからなかったのが痛いですね。調べるにしても足がかりが無さすぎます」
「医務局や魔術局まででて原因がわかってないのだからそう簡単に分かることではないわ。私だって、オーラに関係しているかもしれないって情報しかないんだから」
うーんと頭を捻ってみてもイリーナにはこれという妙案は浮かばなかった。
「やっぱり、街に出て灰色のオーラを持っている人物に接触してみるのが一番手っ取り早いわね」
シェンがいるので街にいる灰色のオーラを持つ人を探すのは容易だった。
あまり大所帯になるのは目立つということで、今はシェン、リーガル、ユミエルだけを連れていた。
「あの人ですか?」
「えぇ。そうよ」
30代くらいの女性がそこにはいた。花屋を営んでいるのか、自身の店を忙しなく動き回っている。そのオーラの色は灰色。イリーナの探している人物だった。
「やっぱり、オーラが混ざりあっちゃってあんな色になってるんだね〜近くで見るとはっきりわかるよ……まてよ、となると……」
「何か思いついたの?シェン」
「うーん。1個思いついたことはあるけどまだ分かんないかも〜。とりあえず最近何か変わったもの食べてないか聞いてほしいかな〜」
少し難しい要求だとイリーナは思った。花屋でその店員と最近何食べたかなんて話をするだろうか?いや、しないだろう。どう話題を持っていこうか悩む所だ。
「わ、わかった。がんばるわ」
イリーナは件の花屋に入る。いらっしゃいませと女はにこやかに出迎えてくれた。
「こんにちは。家に飾る花を貰いたいの。適当に見繕ってくれるかしら」
「どのようなお部屋に飾るのかなど聞いてもよろしいですか?」
「私の私室……いや、家族の集まる食堂よ。あまり派手になりすぎないものでお願いするわ」
「かしこまりました。少し店内でお待ちください」
さて、ここからどう話を持って行こうかイリーナが悩んでいると、スっとユミエルが前に出た。
「お姉さん、最近変わった物食べたりとかしてない?」
「えっ?いや、特に変わったものを食べた記憶は無いけれど」
あまりにも直球で聞きたいことを聞くユミエルにヒヤリとする。
ユミエルは困ることもなく
「お姉さん、肌が綺麗だから。普段どんなものを食べてるんだろうって気になって」
と続けた。ユミエルは将来モテ男になるだろうなと容易に想像がつく。
まぁ。と店員は嬉しそうに笑った。
「そうねぇ、心がけていることといえば天然ハーブのお茶かしら。美容にいいって評判でね、私もよく飲んでいるの」
そう言って店員はいくつかのハーブティーの名前を教えてくれた。
「ありがとうございます。今後の参考にさせてもらいます。お姉さんみたいな綺麗な人に教えて貰ったんだからきっといい成分のものばかりなんでしょうね」
店員は美少年のユミエルにそんなことを言われてますます顔がほころんでいる。
花を包み終わった店員はオマケだと言って先程言っていたハーブティーのパックをユミエルに渡していた。
「やるわねユミエル」
「やるなユミエル」
「やるね〜ユミエル」
「これくらい余裕です」
ユミエルは、チャキと眼鏡の位置をなおす。
どうやら少し照れているらしい。
「うーんさっきユミエルが聞いていたものの中にボクが気になったモノはなかったな」
「その気になっているものってなんなんですか?」
「うん。バンデラの花〜って言うものがあってね」
シェンは精霊にとってのご馳走で、精霊の力を高める作用を持つ花だと説明した。
「本で読んだことがあります。幻の花と言われているもので、精霊術の媒介なんかに使われる白い花だと」
「そうそうその花。実はその花エントの力で咲いていてね、人間が口にするとエントの色のオーラを持つことができるんだ」
「そんな花があるの!?」
「うん。と言ってもたくさん食べたところで聖印にできるようなオーラは手にすることが出来なくてね、ちょっとオーラを持つことができる〜くらいのものなんだ。でも、もしエント以外のオーラを持っている人が口にしたら灰色のオーラが出来上がっちゃうんじゃないかな〜って思って。今見た人もシルフとエントのオーラが混じってたでしょ〜?」
「そこまで私には分からないわよ。でも、可能性は高いわね。
1度バンデラの花を手がかりに調べてみましょう」