18
不穏な出来事もあるが、日々は続いていく。
今日は、王都で約束されていたリーガルがエンディオに招かれている日だった。
「まだまだだ」
「くっそ、鬼ー!」
弾かれた剣を握りしめ、リーガルがエンディオに叫んでいる。
リーガルに指導をしているエンディオはとても楽しそうにしているように見える。
それもそうだろう。ドラゴンの聖印を持つもの同士、彼らはお互いが忖度無しで戦える唯一の存在なのだ。思い切り戦えるというのはとても気持ちの良いことなのだろう。
(だからエンディオ様がこの話を断るなんて思わなかったのよね)
イリーナから見たエンディオはとても窮屈そうにしていた。
強い力を持つからこその孤独というのだろうか、そういったものを感じる人だった。
(そういうところにも惹かれるのよね)
ニコニコしながらエンディオにリーガルが叩きのめされている様子を見る。
リーガルはここ半年でメキメキと実力を付けていた。最近ではサーシェス辺境伯家の騎士に紛れて鍛錬をしている姿をよく見かける。
このまま続ければ立派な騎士としての道も拓けるだろう。
自分の見つけてきた子の将来が明るいようでイリーナはご満悦だった。
「1度休憩とする」
「はーい」
休憩に入った2人がイリーナの方に向かってくる。
リーガルはあれだけ叩きのめされていたというのにけろっとしている。多少汗はかいているようだがそれだけだ。
身体能力の高い彼等にとっては先程の稽古は軽い運動にしかならないのだろう。
「お疲れ様、リーガル。今日も元気に叩きのめされてたわね」
「やめてよお嬢様。これでも結構張り合えるようになってきてるんだから」
「そうだな。騎士団の入団テストくらいであれば軽くこえられるだろう」
「ほんとに?やった!」
エンディオに褒められて、リーガルは嬉しそうだ。
休憩ということでイリーナ達のもとにはお茶とお茶菓子が運ばれてきた。エンディオとリーガルには運動の合間にちょうど良い水が運ばれてくる。
「お前は飽きないのか」
「ええ。リーガルの鍛錬を見るのは楽しみでもあります」
はぁとため息を吐く姿も素敵だ。
ため息を着きながらもエンディオはちゃんとお茶の席についてくれた。
「そういえば、最近王都で不審死が流行っているらしいな」
しばらく雑談をした後にエンディオからその話題がでてイリーナはドキリとした。
「そうみたいですね」
エンディオ曰く、原因は未だ不明だとかで、医務局から魔術局まででて原因究明に当たっているそうだ。
「流行病でなければいいのだが」
「そうですね。流行病となるとまた色々と対策が必要になってしまいますし……」
オーラの混ざりあいによって発生する現象かもしれないなんて、イリーナは言えなかった。そもそもオーラが見えるだなんて人物がイリーナ以外いないのだから言っても仕方の無いことだった。
「何か目が泳いでいるが……」
「へっ!そ、そんな事ありません!」
エンディオに指摘され、驚いてしまった。意外とエンディオは目ざといようだ。
(ちゃんと私のことを見てくれてるんだわ)
なんて乙女心は浮かれてしまうのだが、指摘されたのがあまり触れられたくない所だったので慌ててイリーナは話題をそらすのだった。