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王都へはサーシェス辺境伯家の別邸と本邸でヒナツの魔法でひとっ飛びできるようになっている。毎度ヒナツには助けられてるが当のヒナツは
「えへへ。これくらいのことならぼく、なんでもするから言ってね」
と可愛らしい事を言ってくれるので思い切りヒナツを抱きしめた。
赤ん坊の時から面倒を見ているのでヒナツはイリーナにとってもう1人の弟のようなものだった。
久しぶりの王都ということで、イリーナとリーガル、ヒナツ、ミーチェ、パティは散策に出ることにした。
特に目的はないがブラブラして甘いものを食べて帰ろうという主旨の散歩だ。
ユミエルも誘ったのだが、あの子はあまり人混みが得意では無いので今回はお留守番をするとの事だ。
「イリーナ様!俺あれ食べてみたい」
リーガルが指さすのは屋台で売られている棒付きアイスキャンディだった。それくらいなら可愛いものだと全員分のアイスキャンディを購入して食べ歩く。
「ずっと食べてみたかったんだこれ……」
リーガルは何か感慨深いのか感動しているようだ。
「ふふっ私のところに来て正解だったでしょう?」
「うん!もうあれから半年も経ってるんだな。お嬢様の手をとって良かったよ」
「はじめは尖ってたリーガルも丸くなりましたね」
「なんだよ尖ってたって」
パティがくすくすと笑いながらリーガルを揶揄う。
「そうだよねぇ、はじめのころはツンツンしてたよリーガルは。ぼく仲良くなれるかふあんだったもん」
「覚えてますわ。なんて言うんでしょうか1匹狼気取りでなんでも一人でやろうとしてましたわね」
「それでお屋敷の壺も割っちゃったんでしたよね」
「あーあーあー聞こえないー」
そんな事もあったなと、イリーナは思いを馳せる。
こんな感じでイリーナの従者達はいつも騒がしい。
賑やかなのは良い事だとイリーナも彼等を好きにさせていた。
それは突然やってきた、ふ、と、視界の先が変に揺らいだ。
立ち止まり、目を擦る。
「お嬢様?どうかされましたか?」
パティが心配そうに声をかけてくる。
「ううん。大丈夫。少し……」
少し変なオーラを持つ人がそこにはいた。
前方を歩いている一人、20代くらいの男だ。オーラの色は灰色で何故かパチパチと火花のようなものが弾けていた。
今までイリーナは沢山のオーラを見てきたが灰色のオーラは初めて見た。しかも通常であればただ人物に纏わり付いているだけのオーラが弾けているのだ。こんな現象も初めてみる。
(新しい祝福でも授かったのかしら)
漠然とそんな事を考えながら、話しかける方法を探す。男は酷く顔色が悪かった。
(体調が悪そうだったからって理由で話しかけてみようかしら)
そう決めて、実行に移そうと声を出した時だった。
「う、ぐ、ぐぁぁぁ」
男が突然うめき出したのだ。
「えっ、あの大丈夫ですか?」
男はイリーナの方を見もせずに苦しみ出し、その場に倒れ込む。
「大丈夫ですの!?」
ミーチェが慌てて駆け寄ってきて男の様子を診はじめる。
オーラは男の苦しみに呼応するようにパチパチと弾け続けている。
(オーラが悪さをしてる?なら……)
イリーナはシェンから教わったおまじないのひとつをつぶやく。
印を表面化する時の前段階として行う【オーラの浸透】という段階で使うものだ。
オーラに干渉するような技はこのひとつしか知らなかった。
オーラの色は灰色から変わらなかったが、弾ける現象は収まったように思う。
噂の不審死かもしれない。
とは思ったが、男は次第に落ち着きを取り戻し、吐血やらはなかった。
あたりは一時騒然としたが、男が落ち着きを取り戻したので皆散っていったようだった。
「大丈夫でしたか?」
「あぁ、すみません。お嬢さん」
男はクリスと名乗った。今はパティが持ってきた水を持って道の端で休んでもらっている。
「元気になったみたいで良かったです」
「すみません。先程はどうにも体調が悪かったのですが突然スっとましになって。皆様にはご迷惑をおかけしました」
「いえ私達は通りがかっただけですから……」
イリーナはクリスのオーラの事が気になっていた。灰色のオーラは見た事がなかったというのもあるが、もしイリーナがオーラに干渉しなければこの人は吐血して亡くなってしまっていたのではないかという想像をしてしまったからだ。
だが、オーラの事なんて見えない人に尋ねてなんになろうか。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、最近精霊に関わったことはありますか?」
「精霊に?いえ、関わったというのがどのレベルでの事かは分かりませんが、精霊に関わるようなことはありませんでした」
苦肉の策で精霊に関わった事があるか確認してみたが、そういったことも無いようだ。
それならやはりあのオーラはなんだったのだろうと不思議に思う。
(後でシェンに聞いてみよう)
「あの、先程のことが何か精霊と関わりがあると……?」
「いえ、私の思い過ごしでしょう。失礼しました」
「そうですか……」
それからしばらくクリスの体調が落ち着くのを待ってからイリーナ達はクリスと別れを告げ、屋敷に戻ることにしたのだった。