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「最近王都で不審死が頻発しているらしい」
そんなことを聞いたのは家族が集まる夕食の時間だった。
「不審死とは?具体的にはどういったものなのですか?」
弟のエディが話を持ってきた父親――ジルに質問する。
「あまり詳しいことは分からないのだけれど、道を歩いていた人が突然苦しみ出して吐血し、そのまま亡くなってしまう事が多いらしい。今まで16人も同じ症状で亡くなった人がいるみたいだよ」
「流行り病かしら。怖いわねぇ」
母親――メーテルも同調していたが、こんな食事時にする話題ではないだろうにとイリーナは思った。
「姉様、また王都に呼ばれてましたよね?気をつけてくださいよ」
「大丈夫よ。ミーチェもいるし」
確かにお茶会に出席するために王都に行く予定がたっていた。今回はエンディオも王都に用事があるとの事で次回のリーガルの鍛錬は王都で行われるという話にもなっていた。
「これはただの勘なんだけど、イリーナは何かに巻き込まれて帰ってくるような気がするわ」
「やめてよ母様。母様の勘ってすっごく当たるんだから」
「本当ですよ。姉様、行くのやめた方がいいんじゃないですか?」
「それは嫌よ。今回はエンディオ様ともお約束があるの」
そう言うとエディは顔をしかめた。
「またご迷惑をおかけしてるのではないでしょうね」
「なんでそうなるのよ。あちらのご都合よ」
どうもエディはイリーナがエンディオに迷惑をかけていると思っているようだ。
確かに毎月ろくな約束もしていないのに招かれているリーガルにくっついてレイトン公爵家を訪問しているが、あちらはきちんとイリーナをもてなしてくれている。決して、決して無理矢理訪問しているわけではない。多分。
それにやはり毎度お茶会は開いてくれるし、今のところ本気で嫌がられてはいない、はずだ。
来なければ良いのではないかなどとやんわり言われている程度……。
(うん。大丈夫。嫌われては無いはず)
「程々にしてくださいね。巷では姉様は押しかけ令嬢なんて言われてるんですから」
「まぁ!そんな事を言われているの!?」
初耳である。となると今回の王妃様のお茶会で話題に上がる可能性があるということだ。
(嫌だわ、少し恥ずかしいかも……)
まぁ気をつけて行ってきなさいとジルが言って夕食の場はお開きとなった。
「お嬢様。今回のお茶会ではどのドレスを着て行かれますか?」
「アクセサリーなども今決めてしまいましょう」
夕食の後はミーチェとパティに囲まれて今回の王妃様のお茶会に着ていくドレスを選ぶことになった。今回は夏ということもあって涼し気な薄水色の簡素なドレスに決めた。
「今回は王都でエンディオ様ともお会いするわ。こっちはドレスじゃなくても簡単なワンピースで大丈夫でしょう」
「かしこまりました」
ぴょこぴょこと動き回る2人は小さくて可愛らしい。そんなことを言うと特にミーチェは怒ってくるのだが。
ミーチェは真っ赤な髪をツインテールに結んだ見た目は10歳くらいの少女だ。だが、尖った耳から彼女がエルフの血を引いており、見た目より歳を重ねていることが想像出来る。実際ミーチェは今年で23歳になるという。
一方パティは今年で15歳の獣人族の少女だ。淡茶色の結い上げられた髪からはピンと伸びた犬耳が見える。こちらも通常の人間よりかは成長が遅いため10歳くらいの少女に見える。
リーガルとユミエルが10歳、ヒナツが8歳ということで、イリーナの周りにいる従者はみんな子供の見た目をしている。
たまたまこうなっただけではあるが、イリーナが世間から子供好きの令嬢と言われているのにはこのような従者事情があったからだ。
(とはいえみんな大人顔負けの働きをしてくれるんだけどね)
「そういえば、王都では不審死が頻発してるんですって」
「不審死?いったいどういった?」
先程聞いた情報を共有するとミーチェは興味深そうに頷いた。
「あんまり聞かない症状ですわ。私も気にかけておきます」
「えぇ、お願いね。そんな場面には出くわさないとは思うけれど、用心しておくに越したことはないわ」




