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「毎度毎度、疲れないのか君は」
4度目のリーガルのレイトン公爵家訪問に着いて行った時、用意されたお茶の席でエンディオはため息をつきながらそう言ってきた。
「まぁ。私は邪魔ですか?」
「あぁ。非常に邪魔だ」
エンディオ様は流石に2日かかる距離を往復するなら、疲れて着いてこなくなるだろうと予想していたのだろうか。実際はヒナツの魔法でひとっ飛びなので律儀に2日の日程を旅したのはヒナツに場所を覚えさせるための最初の片道だけだ。
(まぁそんな事は言わなくてもいいでしょう)
毎回リーガルに着いてくるイリーナにもそろそろ慣れて欲しいものだ。
「リーガルは大事な子ですから。私の知らない間にエンディオ様に取られてしまっては悲しいではないですか」
「彼本人にうちに来る意志はないだろう」
「そうですが、万が一という場合もあります。それに、毎回こうやってお茶に付き合ってくださる時間は楽しくもありますし」
そう。エンディオは毎度必ずイリーナと二人でお茶をする時間を作ってくれているのだ。リーガルからは頭が硬いなどと言われているエンディオはお茶の席で話してみると結構話があう。
というのもイリーナがエンディオの興味のありそうな話題を振っているからなのだが……。
「わざわざ訪問してきた令嬢を放っておくことは出来んだろう」
「でも、他のご令嬢の訪問は突っぱねているとお聞きしますよ」
「話す価値も約束もしていないからな。勝手に押しかけて来るものまで引き入れる理由は無い」
「まぁ。では私は一応話す価値はあると思われているのですね」
「勘違いするな。リーガルが君の元で過ごしているからだ」
「分かっておりますよ」
「そういえば、図書室を貸して下さりありがとうございます。
おかげで待っている間も退屈しませんわ」
「待っている間が退屈なのならば来なければ良いのではないか?」
「まぁ、酷い」
そんな調子ではあるが、お茶会は終始和やか……イリーナにしてみれば和やかに終わる。約1時間の逢瀬に、イリーナはとても満足していた。
―――
「はぁ、やっぱり良いわ。エンディオ様……」
ここ数ヶ月でイリーナはすっかり恋する乙女になっていた。
「まずね、顔が良いの。あと声も素敵……」
うっとりと想い人を夢想し、だらしなく頬を緩める。
「ねぇ、なんか始まったんだけど」
「しっ。こういうのは静かに聞いてあげるものですよ」
リーガルとユミエルがひそひそ声で何か言っている気がするが、そんな事は今のイリーナにとってどうでも良いことだった。
もともとエンディオ・レイトン公爵のことは知っていた。パーティでよく見かける美丈夫でその凛々しい姿は令嬢の視線を一身に集めていたからだ。
もちろんイリーナもそのひとりであったが、女嫌いと言われる公爵には挨拶はおろか近づくことすら出来なかった。
イリーナは静かに遠くからエンディオを眺める花の1輪でしかなかったのだ。
それがどうだ最近では月に1度お茶会のできる仲になってしまった。
(あとは、どれだけ心を開いてくれるか……)
少々言葉はきついのだが、女嫌いだと言いながらイリーナのもてなしはしっかりしてくれる真面目な態度が気に入った。
リーガルの意志をきちんと尊重し、師として面倒見がいいところも、なんだかんだこちらを気遣う優しさも気に入った。
(あの方と婚約したいなぁ)
いつしかイリーナはそう思うようになっていた。