10(sideエンディオ)
ドラゴンの聖印。それは数ある聖印のひとつであり、レイトン公爵家の血がが保有しており、エンディオが受け継いだ聖印である。
その能力は単純に身体能力の超強化である。そのため聖印が出ずともレイトン公爵家のものは一般人よりかは高めの身体能力を持って生まれることが多い。
エンディオの場合は、生まれた時には既に聖印を宿しており、それが原因でか生まれてすぐに母親は亡くなった。
そんなエンディオの成長の過程ではレイトン公爵家のドラゴンの聖印に対するノウハウに非常に助けられていた。
これが無ければ今のエンディオは無かっただろう。
「エンディオ様、例の報告書が出来上がっております」
「助かる」
身の回りの事を任せているナテラから、ひと綴りの紙束を受け取る。
サーシェス辺境伯令嬢、イリーナ・サーシェスについての報告書だ。
「サーシェス辺境伯の長女で、精霊術士の名門の生まれであるが、精霊術士ではなく、特筆すべき特技もなし、弟君が優秀な精霊術士であるからか、世間からは落ちこぼれの烙印を押されているようです。
あまり交友関係も派手ではありません。が、王家からの信頼は厚いようで、今回王都に来ていたのも王妃様の茶会への出席があったからのようです」
「普通だな」
「何がそのように気になるのですか?お話もよくなさっているでしょう?」
エンディオはイリーナのことを調べるようにナテラに指示を出していた。
何が気になるのかは分からないが、どうにも違和感を覚えて仕方がない。現に、今報告を受けた内容は自分の知っているイリーナ・サーシェス像とは大きな乖離があったように思える。彼女はなんと言えばいいか、堂々としすぎているのである。
「なにか、うむ、もっと派手な経歴でもあると思ったんだが」
「派手な経歴というと、多くの婚約話を蹴っているようですね」
「その情報はいらなかったな」
女からの手紙ということで受け取っては燃やしていたものの中に彼女からのものもあり、何枚か空けてみると丁寧にドラゴンの聖印について話したいと記載してあった。流石に無礼が過ぎたのはこちらの方だったと自覚したエンディオは今後は燃やす前にさすがに内容を確認させようと意識を改めるのだった。
「ちょうど良いご令嬢では無いですか!お歳も近いですしいかがですか婚約者に」
「有り得ん」
エンディオの女嫌いは有名であり、心配したナテラはことある事に令嬢を婚約者にと推し進めてくる。
「ここからサーシェス辺境伯家までまる2日はかかるというのに、毎度毎度リーガル様に着いてきているのですよ?あちらも気があるに決まっています」
そう。月に1度3日間だけリーガルの鍛錬を見るという約束で既に3度彼に師事を行った。最初の一度はイリーナも着いてくるだろうが、それ以降は移動の関係上イリーナは着いてこないと思っていたのだが、彼女は毎回リーガルに着いてレイトン公爵家を訪問していた。
「というか、リーガルであれば単体で走らせた方が早く着くだろう。鍛錬として次回から走らせるか……」
なんだかんだ師として彼の面倒を見るのは嫌ではないエンディオであった。リーガルがうまく育てば思い切り戦っても大丈夫な相手になりうるのだ。今まで加減してしか戦えなかったエンディオは、対等に戦っても平気な相手に飢えていた。
だからイリーナの提案にものったし、リーガルの要求を断ることもしなかった。
「ともかく、明日も約束の日だ。また彼女たちも来るかもしれない。出迎えの準備だけは整えておくように」