3:真白な写真
「ん、なんですこの写真。何も写ってないじゃないですか」
眉間に皺を寄せて、浅倉は手にしたそれをひらひらと振っていた。一見ただの真白な紙にしかみえないそれは、しかし正真正銘『何か』を写し出した写真である。
放課後になったばかりの部室は電気をつけていなくても十分に明るい。わずかに開いた窓の隙間から入り込むのは柔らかな風。賑やかな生徒たちの声も聞こえてはくるけれど、それはどこか遠い場所のことのように聞こえていた。
浅倉は写真を裏返してみたり、逆さまにしてみたりしながらソファへと腰を下ろす。どうせもう視えているだろうに、わざとらしい。
「写真部からの情報提供だよ。なんでも、取材中に写真を撮ったはいいものの、印刷してみりゃ何にも写っていなかった、って話だ。つまり」
「つまり、こっち系の事だろうから話を聞いてこい、ってことですか」
指紋がべたべたと付着したレンズの向こう、闇のように真黒な瞳が不機嫌そうに歪められる。
「そうだよ。で、なんだよその顔は。文句でもあるのか」
親切にそう訊ねてやれば、だって、と薄い唇を尖らせる。彼女が幼さの残る仕草を見せるのは、今となってはこういう二人きりの時くらいのものになっていた。
「部長が行く方が話が早いじゃないですか。第一、これ、ただの心霊案件でしょう」
「そらそうだけどな。とはいえ、アンタの目的の話と遠いかどうかは行ってみないとわからないだろ。それで、何が視えてる」
汚れたままのメガネ越し、浅倉は写真をまじまじと見つめる。ふむ、なんてわざとらしい声を出し始めたから、彼女はちゃんと取材に向かう心持ちになってくれているようだ。
上げられた顔はまだ子供らしさが残っているのに、浮かべる表情は艶やか。口紅もリップクリームも塗っていない唇を、小さな舌先がちろりと舐める。
「これ、撮り手の腕に問題がありますね?」
「ほう。下手ってことか?」
わざととぼけてみせれば、浅倉はからからと笑みをこぼす。
「違いますよ。問題があるのは言葉通り、撮り手の腕、です。ね、そうでしょう、部長?」