◯世代の勇者「織田 将吾」
本編[世代の勇者]に登場するキャラクターの短編小説です。
退屈な人生を送る青年。織田将吾。刺激を求めて、多くの殺人を行なった彼は、[虚無の世界]で意識を持つ[呪刀]と出会う。
「第243回。剣道全日本大会優勝。織田将吾殿。貴君は…」
「…」
(つまらん…)
世代の勇者「織田 将吾」
この世界に生まれて楽しかった事は一度しかない。初めて竹刀を握ったあの日。退屈な人生が終わると本気で信じていた。なのに…
「現実はつまらない」
努力しなくても上を取れる。上を取れば俺の上には誰も居ない。下を見ても時間の浪費。
「いっそのこと…人でも殺した方が楽しいかもな」
ふとテレビを見ながら考えた。犯罪者達は何を持って犯罪を犯すのか。復讐、好奇心、快楽、憎しみ。俺の感情は何なのか。
「楽しさを求めて…違う。…退屈をなくすために…だとしたら…」
何を持って退屈を埋めるのだろう
「剣道、犯罪…」
恐らくそれらは退屈凌ぎにすらならない。
「強い奴と…戦う事…。今度刀で警察と戦ってみるか…」
口から溢れたその言葉は後々、世界のニュースで大きく取り上げられた。
6月23日。19:56。犯行に及んだ男性。織田将吾は、発砲許可の出た警官。約350名を斬り殺し、逃走。行方は知れず、この事件は、日本の剣道連盟及び警察省、自衛隊、政府が戦力と武器など、多くの見直しが求められた。
「…つまらん」
彼は今だに退屈だった。弾丸は目に見える程遅く、警官の迷いも見えた。
「本気の殺し合いがしたい…」
またも、彼は呟いた。そしてその言葉も、世界に轟き、震撼させた。
戦闘機24台、戦車12台、FBI捜査官約300名、警察官約5000名を犠牲に…。最後に彼は単体に向けて落とされた核によって命を落とした。
しかし
強者は生命を、力を、強者を求めた。死してなお、彼は世界にため息を吐いた。
(いならまつ…ぁは)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(何がだ?)
「?退屈なんだ。命をかけてもなお…俺の心は満たされなかった…」
(なら我を使え。)
「…使え?」
(あぁ)
「…何の為に?」
(…退屈を埋める為)
「…お前側のメリットが見えない」
(メリット?…お前に使われる事で、この身が現世に戻るからだ)
「って事は…ここは死後の世界なのか?」
(違う)
「じゃあ何だ?」
(虚無の世界だ)
「虚無?あぁ…無限地獄みたいなもんか」
(お前…何人殺した?)
「…知らない」
(…我もだ。ここに来るものは皆、返し切れない罪を背負って死んだ者達だ。)
「……お前は強いのか?」
(少なくとも、お前よりは強い)
「…はぁ。弱い奴のセリフだな。本当に強いやつは、見栄を張らない。」
(…見栄だと?…なかなか面白い奴だな。数千年、多くの剣士に使われたが、我と対等に話すのはお前で二人目だ。)
「…さっきから、使えだの使われただの…まるで自分を物みたいに例えるな?比喩か?」
(比喩じゃなく事実だ。我は千年以上前に、一の世界[地球]にて作られた刀だ。名を[竹虎]。最後に我を使った主人は我を[呪刀]とし、山奥に隠した。)
「…厨二病なのか?」
(は?)
「我、呪刀、一の世界…なかなか凝ってる設定だな」
(…我が虚言を吐いていると疑っているのか?)
「虚言…今思えば虚無の世界ってのもバカバカしい」
(…ならば証明しよう。我を使い、時空を断つのだ。さすればお前を異世界にて復活させよう。)
「異世界?……興味ない」
(…何故だ?)
「どうせ俺の退屈を埋める奴は居ないだろうからな…」
(はぁ…尚更異世界に来るべきだ。お前より強い奴と合わせてやる。)
「………。はぁ。…そうだな…どうせこの場所にいても退屈なだけだし…。乗ってやるよ。その誘い」
(良い。ならばその手で我を取り、時空を縦に裂け!)
「…」
「(裂)」
------------------------------
突然眩い光に飲まれ、目を閉じた。再び目を開けると、見た事のない荒れた大地の上に立っていた。辺りを見渡し、草木一本も生えていない大地に虚しく風が吹く。ふと、違和感を感じた。とてつもない威圧を放っている右手を見ると、紫色の刀身が輝き、[それ]は言葉を発した。
(ここが異世界だ。)
「…」
(名を[テラス]。我が最後に死んだ四番目の世界だ。)
「そんな事はどうでも良い。強い奴は何処にいる?」
(…ここから南西に進んだ場所に、第一魔王軍の城がある。)
「第一?複数あるのか?」
(ああ。計四つの魔王軍の城があり、その中でも一番強い場所が第一だ。)
「わかった。」
俺は[刀]を上段に構え、南西に向かって、斜めに振りかぶる。瞬間。呪刀の軌跡から紫色の斬撃が飛び出し、大地を裂いた。
(…やはり面白い。)
「…射程距離と威力は変わっていないな。」
(当たり前だ。我が力を貸していないからな。)
「…必要な時に借りるとしよう。…行くか」
(ああ)
[黒髪の剣豪]は歩き始めた。裂けた大地を目印に、第一魔王軍の元へ……
退屈は埋まったか?
「まだ分からない」
楽しくなると思うか?
「分からない」
勝てると思うか?
「愚問だ」
(なら良い)
「お前は楽しいか?」
(ああ)
「退屈と感じた事はあるか?」
(一度も無い)
「俺を満足させられるか?」
(我に不可能はない)
「…信じよう」
約十四時間彼は歩いた。視界に入った建物は、織田将吾に期待の念を抱かせた。
「…これが」
(そうだ)
城の目の前まで歩くと、彼は空を見上げた。
第一魔王軍の城は宙に浮いていた。
「…この世界には魔法があるのか?」
(ある。だが、恐らく魔法だけではないのかも知れない。)
「?分かりやすく話せ」
(…一の世界と比べて大きく異なるのは、魔法の概念とスキルの存在だ。)
「スキル?」
(そうだ。スキルにも多くの種類が存在するが、異彩を放つのは[ユニークスキル]と[試練]だ。そこら辺は、戦いながら覚えれば良い)
「…あいつは強いのか?」
(今までで一番強いのは確かだろう)
「そうか」
ドンッ!!!!!!
[黒髪の剣豪]の目の前に一人の魔神が現れた。薄い緑色の髪をした魔神は小さな声で囁いた。
「停止世界1/[肉体]/」
「?!」
(?どうした)
織田将吾は瞬時に肉体の変化に気付いた。手足、体、肺、心臓の停止。意識はあるが、それ以外は全て止まった。
「何の用だ?異界人。」
薄緑髪の魔神[時間の魔神]。第一魔王軍所属。
「…」
(なるほどな。)
瞬間、紫色の呪刀がひとりでに動き、織田将吾の身体を貫いた
「?!」
「…!!ゴホッゴホッ…」
「…なかなか面白い武器を持ってるな?」
織田将吾の身体は再び動き始め、腹に突き刺さる呪刀を引き抜く。血は噴き出ず、傷が無いことを確認した黒髪の剣豪は目の前の未知の存在に微笑みながら呟いた。
「おもしれぇ」
(我が力を貸そう。さすれば空いた心は埋まるだろう)
「ほぉ?意識を持つ武器か。…いや?妖刀か?何にせよ、知恵を持つのなら」
(来るぞ)
「分かってる」
[時間の魔神]は再び、小さい声で囁いた。
「停止世界4/[知識]/」
(…)
「…」
「…何故ここに来たのかは疑問だが、脅威は排除しなくてはならない。」
[時間の魔神]はさまざまな色をした小さな石の入ったシリンダー状の筒から赤い小石を取り出し、地面に落とした。
「炎の精霊/[アンドレア]/」
「…」
赤い小石は地面に触れると形を変え、炎を纏ったリスへと姿を変える。と同時に、大気の温度は急激に上がった。
「停止世界8/[気温]/。アンドレアに任務を与える。異界人の始末と刀の奪取。行け」
「キュルルル!!」
命令が降り、リスは耳をピコピコ動かして鳴いた。…次の瞬間、約30kmに相当する白い炎の塊が空を覆った。その塊は織田将吾の頭上に覆い被さった。
バァンッ!!!!!!!!!!
激しい爆風が荒れた大地を駆け巡る。しかし、[時間の魔神]は違和感を覚え、咄嗟に呟いた。
「…停止世界1/肉体/」
コンマ数秒。[時間の魔神]の喉元には紫色の呪刀が迫っていた。
「?!」
(馬鹿が…同じ技は通用せん)
瞬時に呪刀は意識を持ち、一人でに追撃をする。[時間の魔神]は右腕を切り落とされ、そのまま黒髪の剣豪を刺す。
「…!ゴホッ…くそ」
「……意識を止めた。何故動ける?」
「…意識が無くても身体を動かす事は出来る。常識だろ?」
「あれ程のエネルギーを…」
(あんな物。我が切れぬと思ったか?)
「…なるほど」
[時間の魔神]は真っ二つに斬られた精霊を再び石へと戻した。
「どうやら…なかなか骨のある異界人だな。無碍に扱い、すまなかった。改めて名を名乗ろう。」
[時間の魔神]は真っ直ぐ黒髪の剣豪の目を見て、ハキハキと喋った。
「第一魔王軍所属、カイノス。魔神名、[時間の魔神]。現魔王様の側近を務めている。…貴様は何者だ?」
「…織田将吾。18歳だ。」
「…織田……。初代魔王様が全盛期の頃、同じ名を持つ浮浪人が居たな。その強さにも納得がいく。…妖刀も名乗れ」
(妖刀ではない、呪刀だ。名を[竹虎]。初代魔王と呼ばれた者とは面識がある。過去、我を使った[勇者]と、対立関係にあったはずだ。)
「…古来から存在する呪刀と、アイツの血を持つ異界人か。…ここに来た目的は何だ?」
「…退屈を埋める為だ」
「なに?」
「俺は前の世界に退屈してた。…退屈を埋めるには、強者と戦うしかない。だからここに来た。俺は今、お前と出会い、心が波打っているのが分かる」
「…時代が違えど、求める事は変わらないみたいだな。」
「?」
「一種の呪いだな。…嫌、霊として転生したのか?」
(可能性はある。[大きな力を持つ者は、失った生命を動かす事が出来る]。我とコイツも同じ類の霊だ。一度死んでいるからな)
「訳の分からん事を…そんな事より続きだ。構えろ、カイノス。俺をもっと楽しませてくれ」
黒髪の剣豪は呪刀を脇構えで持ち、戦闘体制に入った。しかし…
「ダメだ。」
「は?」
「…この戦いは何の意味がない。無駄な争いは行わないのが常だ。」
「…意味がない?さっきまで戦ってたろ?何でだ?」
「敵と認識していたからだ。脅威は早めに対処せねばならない。だが…お前の目的は楽しむ事と聞いた。脅威ではないと認識した今、お前と戦うメリットが無くなった。」
「…ふざけんな。こっちは久しぶりの楽しさに震えてんだ。お前が戦わなくても俺が…」
「まぁまて。…"ここで一つ提案だ"。」
「提案?」
(…)
「魔王軍に勧誘する。ここには俺以外に、四人の魔神が住み着いている。ここで戦わなくても、魔王軍に入れば、現魔神、俺、あわよくば勇者、国王。…現魔王と戦う事が出来る。退屈が嫌なら、精霊とも戦わせてやる。」
「…」
(我も入る事を押そう。断る理由も無く、強者と戦える。)
「こちらのメリットはお前達を味方に引き入れる事。お前のメリットは、退屈を埋める事。悪くないと思うが?」
黒髪の剣豪は少し考え、[時間の魔神]に質問した。
「お前より強い奴はいるのか?」
「魔王様と[勇者]を置いて居ない。」
「なら俺が魔王になっても、退屈はしない訳だ。…案内しろ。お前達の戦力になってやる。ただ、俺が他の魔神とやらを殺しても、文句を言うなよ?」
「あぁ。弱い奴が悪い。」
(第一魔王軍に入るとなると、魔神名が必要でないか?)
「…要らないだろ。」
「…嫌、呪刀の言い分も分かる。」
「どこが?」
「…[異界の魔神]で良いだろ。本来名称は[神]が付けるが…」
カイノスは振り向き、右手を上に、左手を横にして激しく叩いた。
「ゲート/第一魔王城/」
時空が歪み、星型の亀裂が出来る。カイノスはゲートを潜りながら織田将吾に話した。
「そうだ。この世界では"ショウ"と名乗れ。異界人とバレると、後々面倒だからな。呪刀もだ。…"虎"と呼ぶようにしろ。」
「…必要か?」
「必要だ。」
------------------------
退屈は終わったか?
「ああ」
楽しいか?
「心が動いてる」
この世界なら、満たされると思うか?
「…信じることにしよう」
(そうか)
「行くぞ[虎]。強者を求めて」
(応じよう。主人の手となり、力を貸そう。)
「退屈しない人生を」
(我は主人を見届けようそして…)
(最後の死に様を見せてくれ)
ご覧頂きありがとうございます。いいねと感想。ブックマーク登録も是非是非。それでは