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食後のデザートに

 僕は驚いていた。そんな村にも闇があるのではないかと思って、聞いてみたのだが。




「あぁ、そんなの当たり前だよ。ここには全員がそろっている。村中全員がここにいるよ。それが村の掟と言っても良いかもしれないね。食事の時は、けんかを忘れなくちゃあならないし、悩み事を抱えていてもそれをここに解放しちまうか忘れなくちゃあならない。そして何よりも大事なことが一つ。わいわいがやがや楽しまなくちゃあならない。どうやらお前さんはようやく楽しみはじめてきたらしいがね。まぁ、いろいろ話を聞いてりゃあ今日までいろいろあったらしいからしょうがねけんど。」




 彼らに「料金はおいくらですか?」なんて野暮なことを聞くのは辞めようと思った。




「おい、ジュン。そんなことよりこの後はダンスだダンス! さっさとかたづけちまって踊りに行くぞ! でもおめぇさんは見るからに下手くそそうだよなぁ。まず服装がナンセンスだでっ! それにまだ若そうなのにおなかもぷっくりっ! ぷぷっぷぷぷ!」




「何をっ! 僕だって小さい頃は学校の先生にダンス褒められたことあるんだぞっ! みてろよぉー!」




 片付けを終えると、村人達はさっきまで食事をとっていた建物から出て、中央の広場に集合する。これも、毎日する行事みたいなものらしい。みんな家族みたいだなと思った。




「さぁ、本日も踊っていきやしょう。おいー、早く音楽、音楽演奏して!」


 誰かが、誰かを急かした。


 鍋やら自分たちで作ったのであろう笛のようなもので成された音楽が、どっと村を包み始める。





―――― チャンッ! チャンッ! チャンッ! チャンッ!


 デューッラッラッ~ デューッラッラッ~ デデンッ!


(ほほう。なるほど。最初この村に来たときに子供達がしていた妙な遊び。どこかで見たことがあると思っていたのだが、こういうことだったか。)




(おい、ジュン、やっぱり動きが硬くてしゃあないの~)


(これから、これからっ! エキセントリックな踊りはまだ見せないよ)




 ♪ ♫


 海のうえまで烏からすを連れて 懐かしい友へ便りを届け




 山の中では迷い迷われ こんがりとした葉には 歴史を刻もう




 もう俺たちは戻れない 夢かうつつか どっちでも良いんだ 




 俺たちは笑っている その事実だけでもう踊ってしまえ





 さぁ オドリドキよ 明日なんてあるかも分からないから踊ろう




 さぁ オドリドキ夜 昨日のことなんてどうしようもないからさ




 今に全てを捧げよう 五感も 感性も 夢も




 そして どこまでも届けようこの唄を




  …………




 ♫ ♪


                          ――――


 




  




 小さい頃から僕のコンパスだったこのメロディは、未だ地図のどこにあるか分からない村の風に乗って、毎日毎日、人々を撫でていたのだ。彼らの歌う歌詞にはそこらの土やバッタにまで魂を送り、しなやかに意味をなしていく。




 それは僕にも届いた。僕にも魂が吹き込まれたかのようだった。


 本当の昔川潤は、今日から始まるんだ。




 先ほどまでの騒がしくて、愉快な夜は、また明日のこの時間にやってくるだろう。そして、僕は虫の音が涼しくわずかな草木を揺らす音さえもつかみながら、今まさにペンを持って、このノートに新たな僕の誕生の記念すべき一日目の記録を刻んでいる。




 ここは大男の家。


 ただ今の時刻、23時16分。


 もうすぐ寝てしまいそうな夜だった。


 

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