第三十四話 バレンタインの贈り物と、感謝のチョコフォンデュ①
「わあ、チョコがたくさん並んでるねー。アリスさんみてみて、北海道の有名ホテルのチョコだって!」
駅ビル一階には特設のバレンタインコーナーができていて、ネルが遊園地に行った子どもみたいにはしゃいでいる。
「ここのバレンタインコーナーって毎年やってるんでしょ。ネル、初めて来るわけじゃないよね」
「その年によって来るテナントが違うもの。その棚……フランスのホテルのチョコ。去年はなかったの」
アリスもチョコの棚に視線を移す。
人気メーカーのブランデーチョコボンボン。
日本酒チョコ。
高級ホテルのパティシエが監修したチョコ。
どれを贈れば良いのか、誰かにチョコを贈ったことがないからわからない。
「うーん……」
「歩さんなら何を贈っても喜ぶと思うよ?」
「それはそうだけど……、って、あたし、歩さん用だなんて言ってない」
アリスが否定しても、ネルはにやけながらうなずいている。
「歩さんにじゃないんだね。そっか-。私は、歩さんにはお世話になっているから、これ買おうかな。毎年恒例だもん」
ネルが選んだのは手のひらサイズのチョコボンボン。
長年の付き合いだから、やっぱり歩の好みもきちんと理解している。
ネルには初斗がいるし、ほんとうにただお世話になっているからだってわかるのに。
義理チョコだとわかっているのに、なんだか胸がざわつく。
「あたしも、お世話になっているからお礼に贈るけど、でも、そういうんじゃなくて……ほんと、ただのお礼、だから」
「アリスさん歩さんのこと嫌いなの?」
「嫌いじゃない、けど」
嫌いじゃないならなんなのか、と聞かれても答えがわからない。
実の親以上に親身になってアリスのことを考えてくれる。支えてくれる。
それがすごく嬉しいし、アリスも歩のためにできること何でもしたいと思う。
ずっと、歩のところで働けたらいいのにって思う。
これは、この気持ちは感謝、のはず。
「あら、ネルさんにアリスさん。こんにちは。二人もチョコを買いに来たの?」
コート姿の礼美が話しかけてきた。
ロングスカートとローヒールのブーツがとても良く似合っている。
「礼美さん、こんにちは~。礼美さんもチョコを買うんです?」
「チョコを、というよりチョコの材料ね。既製品を贈って終わるより、コウキと作って食べた方が楽しいと思って。あとは、いつもコウキがお世話になっているから、初田先生と歩店長さんにもクッキーを用意しようかなと思うの」
礼美の持つ買い物かごには、クッキーミックスとバター、チョコチップにチョコフォンデュセットが入っている。
「コウキくん喜ぶ顔が思い浮かびますね」
「喜んでくれると嬉しいんですけど」
礼美も嬉しそうだ。
今はもう離婚したから、「コウキにそんな無駄なことをさせるな、一分でも多く勉強をさせろ」と言う男はいない。
「いっしょに、つくる……か」
まかないを作ってくれるとき歩がいつも言っていた。
一人より二人のほうが楽しい。
歩のおかげで、アリスはこうして日々を送ることができている。そのお礼を、かたちにする良い機会。
お礼はいらないから勉強しなさい、といわれるかもしれないけれど。
「歩さん、喜んでくれるかな」
無意識につぶやいてしまっているのに、アリスは全然気づいていない。
礼美はアリスの様子を見て、察した。ちらっとネルを見て、ネルもウンウンと頷く。
「そう。がんばってね、アリスさん。私も応援するから」
「え? あ、はい。ここに作り方書いてあるし、よっぽどのことがないとチョコフォンデュって失敗しないと思うんだけど……」
ネルと礼美に見守られながら、アリスはチョコフォンデュセットを買った。
フルーツにつけて食べるのが主流。パンなんかでもオーケー。
当日絶対に失敗しないように、説明書を穴が空くほどじっくり読んで、バレンタイン当日を迎えた。
チョコフェア好きです。毎年自分のために買います( ・ิω・ิ)





