第二十六話 将来の約束と、ほくほくカボチャのシチュー①
歩が帰国した翌日。
初斗とネルがワンダーウォーカーに来た。
「歩、アリスさん。証人になってくれないか」
「証人?」
開口一番に言われて、歩は一瞬借金の保証人か何かかと思った。
でもそれなら二人もいらないし、そもそも収入が安定している初斗が借金なんてするわけもなく。
困惑する歩とアリスのために、ネルが補足説明をしてくれる。
「あのね、私の誕生日に婚姻届を出そうと思って。それで証人がふたり必要だから、歩さんとアリスさんにお願いしたいの」
「ああ、そういうこと。やっとなのね。アタシとしては、ネルちゃんが成人するあたりで入籍すると思っていたわ」
そんなに前から気持ちがバレバレだったとわかり、初斗はいたたまれないのか目をそらしている。
「……なんでそう思ったんだい、歩」
「ネルちゃんを引き取ってから、人間らしくなったからかしらね。ずっと偽物くさい笑顔をつくっていたのに、ちゃんと笑うようになったっていうか。自分で気づいてなかったの?」
「母さんにも同じことを言われた。わたしはそんなに胡散臭かったのか」
「つまらないときでも笑顔を作っていた自覚、あったでしょ」
初斗は微笑してうなずく。
「そうですね。意味もなく笑うのはやめることにします」
学生時代の初斗は“普通”を演じるためか、何があっても笑顔を浮かべていた。
クラスメートに馬鹿にされようが、教師に怒鳴り散らされようが。
自然な笑顔ではなく、楽しくないけどとりあえず笑っておくという感じの作り笑い。目が笑っていなかった。 それがいまでは、心から楽しくて笑っている。
ネルといる時間が初斗の心を育んだのだと歩は考えている。
証人欄にサインをして、アリスも気後れしながらボールペンを手に取る。
「旧友の歩さんならわかるんだけど、婚姻届の証人なんていう大それた役割、付き合いの浅いあたしでいいの?」
「いいの。アリスさんにお願いしたい」
「……わかった」
ネルにもう一回お願いされて、アリスは緊張の面持ちでサインをした。
「おめでと、ネル」
「ありがとう、アリスさん」
ネルは首から提げている懐中時計のかぎを握りしめて、ふんわり笑う。
婚姻届を丁寧に畳んでしまうと、初斗とネルは顔を見合わせて紺色のカードを出した。
お茶会招待状、とタイトルがついていて、会場や日時が記されている。
「十一月になったら、お世話になった人を招いてお茶会をしようと思うんだ。今、川辺の公園は紅葉が見頃だろう」
「あら、楽しそうね。もちろん参加するわ。アリスちゃんはどうする?」
「行く。あたし、お菓子用意するね」
いつか気兼ねなく外に出られるようになったらお茶会をしたい。それが初斗の願いだった。
それを知っているから、歩もアリスも即答だ。
「わー、嬉しいな。おにぎり以外もあったほうがいいもんね」
「なにがいいかな、秋だし、カボチャのお菓子?」
「私、カボチャ好き。きんとんが特においしいと思うの」
「じゃあカボチャきんとんを用意するよ」
ネルの口の端からよだれがたらり。想像するだけでよだれがでるくらいに好物らしい。
横で初斗が笑いをこらえている。ネルを見る初斗の瞳はとても優しくて穏やか。
この二人ならお互いを大切にする、いい夫婦になるのだろう。
母「やっとなのね。鈍感すぎるわ」
歩「やっと気づいたのね」
初斗「……なんでみんな同じことを言うんだい:( ´ω` ):」





