第二十五話 歩の帰国、おでんでお出迎え①
今日は歩が帰ってくる日。
クリニックが休みなので、初田はこれから空港に迎えに行く予定だ。車のキーを片手に、アリスに言う。
「歩は日本食を恋しくなっているだろうから、ご飯を用意して待っているといい。昼前に羽田に着くってメールがきているから」
「わかった」
本当ならアリスも一緒に行きたいところだったけれど、店を営業しなければいけない。
行きたい気持ちを抑えて、開店準備をする。
玄関を開けて店先の掃除をしようとしたところで、ホウキを持つネルと顔を合わせた。
「アリスさん、おはよう」
「おはようネル。クリニックが休みでも掃除をするなんて偉いね」
「そんなことないよ。家の前がきれいだと気持ちいいもの」
クリニック兼自宅だから、ネルにとってクリニックの掃除は自宅の掃除でもある。
「アリスさんも二週間お疲れ様。歩さんが帰ってくるの待ち遠しいね」
「うん。だいぶ旅を楽しんでいるみたいだし、話を聞きたいな」
アリスの顔をじっと見て、ネルは意味ありげに首をかしげる。
「そっかー」
一週間目で一回荷物が届いていて、異国情緒あふれる雑貨や服が詰まっていた。
歩が帰ってきたら、値札をつけて店頭に並べることになっている。
一緒に入っていた手紙には、アリスへのお土産も用意していると書いてあった。
歩がいろんな場所に行ったときの話を聞くのが楽しいからそれだけで十分なのだけれど、アリスのためになにか選んでくれたのかと思うと嬉しかった。
店を開けてすぐに蜻一が入ってくる。
「アリスちゃーん、いつものを頼むよ」
「いらっしゃい、おじいちゃん」
いつものシーシャフレーバーを持ってくると、蜻一はアリスの顔をのぞきこむ。
「おお、おお、歩さんが戻ってくるのは今日だったかね」
「そうだけど、なんで?」
「アリスちゃんがすっごく嬉しそうだからのう。鏡を見てみい、口がこうなっとるぞ。ご主人様の迎えを待つワンちゃんみたいな顔になっとる。パタパタ動く尻尾が見えるようじゃ」
蜻一は指で自分の口の両端を持ち上げて見せる。笑いじわのある口元だけど、さらにしわが深くなっている。 まったく自覚のなかったアリス。指摘されて顔が熱くなった。
(あれ、もしかしてあたし、ネルの前でもそんな顔してた?)
顔に出ていると言われるのがなんだか恥ずかしくて、アリスは口角が上がらないよう表情筋に力を入れる。
それがまたおかしいらしくて、蜻一が声を上げて笑った。
アリス「ワンコじゃないから!!」





