第二十四話 ご招待、初田さんちのまかないごはん。肉じゃがとおにぎりをどうぞ①
歩を見送ったあと、アリスとネル、初斗の三人で商店街への道を歩く。
月末にはハロウィンが控えているので、町のいたるところにカボチャやコウモリの飾りがついている。
ケーキ屋もカボチャ菓子フェアの旗がはためいていて、ネルがチラチラ店を気にしている。
「アリスさん。歩さんが帰ってくるまで、お昼はうちで食べていってね」
「え、迷惑になっちゃうよ。歩さんに教わってある程度作れるようになったから大丈夫」
「迷惑じゃないよ。ね、にいさん」
「帽子屋のお茶会にアリスさんが来るのは必然です」
初斗は笑って街路樹を見上げる。黄色から赤へとグラデーションしている。
「今日は晴れていていい季候ですし、外で食べたくなりますね」
「えへへ、お弁当もいいよね」
「歩さんと同じこと言ってる」
歩もこんなにいい天気だから外に行こうと、よくアリスを連れ出してくれる。
「日の光を浴びることは、健康になることです。ビタミンDが生成されるし、セロトニンが分泌されるのでストレスが軽減され、集中力が上がります。だからコウキ君には治療の一環として、毎日散歩するよう言っているんです」
「あ、道理で」
アリスが初めてコウキと出会ったのは春の、桜が咲く頃だった。
一人暮らしを始めた日に川辺の遊歩道にいったときに声をかけてきた。
年のわりに幼いしゃべり方の子だなと思った記憶がある。それからもちょくちょくいろんなところで顔を合わせた。季節探しで散歩しているんだと言っていた。
「歩の場合は科学的根拠だのなんだの特に知らなくても、外に出るのが好きでそうしているみたいだけど」
話しているうちに店の前につき、初斗とネルが手を振る。
「それじゃあ、お昼になったら来てね、アリスさん。ご飯作って待っているから」
「……ありがと」
アリスは店を開けて、一人で営業する。
歩が戻ってくるまでの間、営業時間は普段より短めに九時から十七時までになっている。
店の前のボードにもその旨を記してあるので、普段十七時以降に来るお客様は早めに来てくれた。
お客様が途切れた短い時間、アリスは店内を見回して、カウンターの椅子に腰を下ろす。
歩は今いないのに、そこに立って笑いかけてくれる姿が思い浮かぶ。
かぎなれてきたお香のかおりも心地よくて、実家にいるよりここにいるほうが心が安らぐ。
こんなに心穏やかでいられる場所があることをうれしく思う。
アリスにとって、この場所で歩むと過ごす時間はかけがえのない宝物になっていた。
(あたしを信じて預けてくれたんだから、歩さんが帰ってくるまで、ちゃんとお店を守らないと)
先生宅のごはんですよー。





