第二十一話 返しきれないくらい、たくさんのありがとう①
「ううーん。こういうとき、何を着ていけばいいの……?」
歩と江ノ島に行く前夜、アリスは明日着るための服選びをしていた。
店の制服代わりにともらった服は、着ていっていいものか悩むところ。
ネルと買い物に行ったときに買ったデニムジャケットとパンツ、ロンTという手もある。
鏡はコンパクトミラーしかないから、小さな鏡を前にとっかえひっかえ。
背丈が近いネルに借りるという手もあるけれど、アリスはネルが着ているような甘めかわいい服装が似合うタイプではない。
30分以上鏡の前でうなって頭がショートした。
(ああもう。なんであたし、こんなに服選びに悩んでんの。歩さんは遊びに行くのにお供してほしいってだけで、べつにデートって訳でも何でもないのにさ)
一人で考えてもらちがあかなくて、ネルにSOSを出した。
「それで私が呼ばれたと」
「ごめん、ほんとごめん。こんなとき頼れるのネルだけだから……」
「ううん、いいよ。お出かけの服って悩むものね」
アリスのアパートとクリニックは近所だから、そんなに待たずに来てくれた。
ネルが今着ているのはオフショルダーのレースブラウスにロングスカート。ネルの柔らかい雰囲気によく似合っている。
「あたしもそういう服が似合えばなあ……」
「私はアリスさんみたいに、大人びたかっこいい服を着こなせるのいいなあって思う。私が童顔のせいか、にいさんと一緒にいると娘さんですかって言われるときがあって……」
二人の年齢差は十五。
ネルが童顔な上に初斗の方が年齢以上に落ち着いているせいで、親子にみられてしまうことがあるという。
ネルが無理して背伸びしなくても、アリスの目にはお似合いに見える。
「ネルはそのままでいいと思うんだ」
「ありがとう。アリスさんも今のままでいいと思うの。どの服もすごく似合ってるもの」
ネルは床に並べられた服を一つとって、アリスの肩のところにあてる。
「……そもそもあたし、なんでこんなに服選びでうだうだしてんだろ」
「デートだからじゃないの?」
「デートじゃないよ。一緒に江ノ島に行くだけ」
「そっかー」
ネルはうんうんとうなずきながら、園児を見守る保育士のような目をしている。
「違うからね。デートじゃなくても、相手に失礼のないように考えるでしょ」
「うん。そうだね、違うんだよね」
どう違うのかアリス自身にも説明ができない。
結局、クルタでお団子ヘアという結論に至った。
アリス
( `ω´ )キッ「デートじゃない」
ネル
(⸝⸝◜v◝⸝⸝)「そうだね」





