歩の誕生日祝いと、対抗シラス丼②
「初田先生が言ってたの。歩さんの誕生日は明後日だって。だからなにか欲しいものか、してほしいことあるかなって思って」
「その足で聞きに来るなんて、アリスちゃんは本当に素直な子ね。アタシそういう人、好きよ」
恋愛的な意味で言われたわけじゃないけれど、アリスはドキっとしてしまった。
家族にすら好きとか愛しているとか言われたことがないのだ。
深い意味は無くても、心臓に悪い。
「そ、それはいいから、なにかない?」
「そうね。今後もアリスちゃんと一緒にごはんを食べてすごしていけたら楽しいわ」
「それはいつも通りじゃ……」
「アリスちゃんのいつも通りが、アタシには一番の宝物なのよ。一人で食べるより二人で食べた方がおいしいじゃない」
歩は一人暮らしで、親とも疎遠だと言っている。
初斗のところに招かれるのも、毎日というわけじゃない。
アリスも一人暮らしなので、当然朝食と夕食は一人でとることになる。
家具もろくにない部屋で一人、ハーブティーを飲んでも味気ない。食事量があまり多くないことを差し引いても、食が進まない。
味付けはここで作っている物と同じなのに。
歩とまかないを食べてお茶を飲んでいるとすごくおいしいくて、ちゃんと食べられるのに。
「どうしてもなにかしたいって言うなら、そうね。今度の休み、一緒に江ノ島にでも行きましょうか。アリスちゃん、行ったことある?」
「まだない。っていうか、せっかくのお休みなのに、連れて行くのがあたしでいいの? 休日なら恋人とデートするとか」
「そんなのいないわよ。アリスちゃんこそ、彼氏に誤解されるわよ」
「いないよそんなの」
二人とも誤解を与える相手すらいない。なんだかおかしくて、顔を見合わせて笑った。
「さ、今はお客様もいないし、休憩にしましょ。ごはん食べていくでしょ」
「……いただきます」
歩に言われるまま、アリスはお昼ごはんをいただく。もう何度かこのやりとりをしているので、休みにまかないを食べるなんてできない、なんて押し問答はもうしない。
白米にたっぷりのシラスと、大根おろし猫、大葉がのっていて、そこに好みの量醤油をたらしていただく。
アリスはネコをくずさないよう気をつけながらレンゲを差し込む。
「ああ、シラスがおいしいなあ。すごくいい香り」
「そうでしょそうでしょ。生きのいいのを買ってきたからね。ちょうど、江ノ島のあたりはシラス丼がブームでシラス丼屋がひしめき合っているの。こないだ歩いてみたら驚いたわよ。100メートル歩けばシラス丼屋に当たる」
「感化されちゃったわけですね」
「そ。江ノ島に行って、お店のと自分の手作りどっちが美味しいか勝負しようと思って」
歩の話を聞いて、アリスも笑う。次の休みが楽しみで、家に帰ってすぐカレンダーに予定を書き込んだ。
江ノ島周辺は本当にシラス丼の店だらけなので、歩いてみてくださいな(*´ω`*)ノ
シラスソフトクリームが案外美味しかったです。





