心ほかほか、トマトがゆ②
翌日の昼時。
アリスに店番を任せ、歩はキッチンに立った。
トマトを湯むきしてさいの目に切り、ホーロー鍋で煮込む。白米を入れて柔らかくなったら火を止めて溶き卵をからめる。岩塩で味を調え、パセリをちらしたら完成だ。
アリスを呼びに行き、店の扉に休憩中の札をかける。
二人でダイニングテーブルについて、アリスの様子をうかがう。
「アリスちゃん、今日はトマトがゆにしてみたの。もう少し濃い味が好みなら、塩で調整して」
「ありがとう、歩さん。すごくおいしそう。トマトって温めて食べることもできるんだね」
「そうなのよー。お口に合うといいんだけど」
一口食べた途端、アリスの顔がぱっと明るくなった。
「おいしい! さっぱりしていて食べやすいね」
「それはよかったわ。一緒にマロウティーも淹れてみたから、飲んでみてね」
ガラスのティーポットには紫色の花と、透き通った紫のお茶が入っている。
マロウはワンダーウォーカーで取り扱っているハーブティーのひとつだ。
ポットとそろいのガラスカップにマロウティーを注ぐ。
アリスは興味津々で一口マロウティーを飲み、声を弾ませた。
「マロウって店にあるお茶だよね。こんな色になるんだ。ほんのり酸っぱい感じがする」
「ふふふ。お客様に聞かれたとき、こうやって自分で飲んで味を知っていれば、正確に説明できるでしょう。ここからがお楽しみなんだけど、アリスちゃん、これを入れてみて」
歩は輪切りレモンを乗せた小皿を渡し、絞る仕草をしてみせる。
「見たとこ何の変哲もないレモン……って、なにこれ! 色がピンクになった!? すごい!」
アリスがおっかなびっくりレモン汁を一滴垂らすと、マロウティーの色が一瞬にしてピンクに変わる。
マロウはそういう特性を持ったお茶なのだ。一杯で二度おいしい。歩が初めて飲んだときもアリスと同じような反応をしたので、懐かしくなる。
「マロウティーってね、ノドと胃を助けてくれる効能があるお茶なの。ハチミツを入れてもおいしいのよ」
小瓶のはちみつを素直に受け取って、アリスは小さじを差し込む。
「ありがとう。いただきます」
ボウルに半量のおかゆをなんとか食べて、マロウティーは最後まで飲んでくれた。
レジ打ちはあっという間に覚えたし、お客様にも明るく応対できる。
そしてなにより、化粧をして女言葉を使う歩に偏見を持たず、普通に接してくれる。
ありのままで充分魅力的なのに、なにがアリスをそこまで追い詰めるのか。
アリスが自分から事情を話してくれるまでは、何も聞かず見守ろう。
本日の更新はここまで。また明日更新します。
トマトがゆ、チーズを入れても美味しいです。