お祭り当日、屋台グルメを堪能しよう②
二時過ぎになり、アリスと初斗が店に戻ってきた。アリスは前半の売り子。後半はネルが露店に入る。
「歩さん、作るの大変だろうから差し入れ買ってきたよ」
「あら、ありがと」
アリスが買ってきてくれたのは、豚汁とたこ焼きだった。
「初田先生もずっと立って仕事していたでしょ。あたしが店番してるから、歩さんと先生は休憩とりなよ」
「アリスちゃんは今日はもう上がりなのに、いいの?」
「いいのいいの。今日はいつもより勤務時間少ないから大丈夫だよ。歩さんが戻ってきたら祭を楽しむもの」
「アリスさんのご厚意に甘えようか、歩」
初斗も普段は診察室内にいるから、慣れない炎天下でヘロヘロしている。
押し問答をしても仕方がないので、ここはアリスの厚意を受けることにした。
初斗と歩でダイニングのテーブルにつき、急ごしらえのおにぎりと浅漬け、冷やっこを添えて屋台グルメをいただく。
商店街のおばちゃんたちが作っている豚汁は大根やにんじんが豪快に切られていて、食べ応えがすごい。七味唐辛子をふりかけてすする。
「懐かしいわね、初斗。昔はよく一緒に屋台巡りしたものね」
「そうだね」
初斗もお茶を片手におにぎりをほおばっている。疲れているからか、反応が鈍い。どこか上の空というか。
「初斗、疲れたなら午後は休んでいいのよ」
「疲れたわけではないよ」
今は仮面を外しているから眉間のシワまでよく見える。普段笑顔を浮かべているので、こんな顔をするのはとても珍しい。
「……ネルさんが金魚を飼うって言い出して」
「金魚? ああ、蜻一おじいちゃんが金魚すくいの店を出すって言っていたわね。なにか問題あるの? 犬猫と違ってアレルギーの患者さんもいないでしょうし」
「それ自体は問題ないんだけど」
ネルが金魚をほしがって金魚すくいに挑戦したが、ことごとく失敗した。
医学に特化している初斗が、屋台の金魚をとってあげるような技術を持っているはずもなく。
見かねた通行人の男性が、ネルのためにとってくれたのだという。
「彼が善意でとってくれたのはわかる。ネルさんも喜んでいたし。でもなんだか……」
「馬鹿ねえ。そんなふうに嫉妬しなくても、ネルちゃんの一番はあんただから大丈夫よ」
初斗は“なんだか気に食わない”という気持ちが嫉妬だと気づいていない。
両思いであることを理解していないのは本人たちだけなのだから、本当に世話が焼ける。かといって勝手にばらす気にもなれない。
好きでもない人のために十万円以上の時計を買う女性なんていない。
「そんな状態で、ネルちゃんがその人に惚れた、結婚するって言い出したらどうするつもりよ」
「…………はとことして祝福しないといけないね」
目の前にその男がいたらぶん殴りそうな顔をしながら言っても説得力がない。
歩はお茶を飲み干して、アリスと交代するために席を立つ。初斗の肩をたたいて言ってやる。
「精神科医でも、自分の気持ちが見えないものなのね」
「人の気持ちを理解する、なんて永遠の課題だよ」
初斗もお茶を飲みながら答えた。





