第十六話 お祭当日、屋台グルメを堪能しよう①
七夕祭当日。
朝早く、初斗はワンダーウォーカーで舞踏会の衣装に着替えた。
炎天下でウサギマスクをかぶると熱中症一直線なので、仮面舞踏会の仮面をかぶることになっていた。服装が舞踏会のものなら、仮面をしていても不自然ではない。
ベストのポケットには、例の懐中時計の鎖フックが見える。
「よく似合うわね、初斗」
「そうかい? ドレスシャツなんて着慣れないからうまく着れているかわからないよ」
「懐中時計のことよ。ネルちゃんから受け取ったんでしょ」
「あ、そっちか」
言いながら歩に時計を見せてくれる。はじめから初斗のために作られたかのように、手に馴染んでいる。
初斗はゼンマイが回る盤面を見下ろして、とても穏やかな微笑みを浮かべている。
「ひいおばあちゃんちにあった時計を思い出すよ。ひいおばあちゃんが大切にしていた振り子時計は鍵巻き式でね。母さんが生まれるよりずっと前からあの家で時を刻んでいたんだって。小さい頃鍵を巻かせてもらったことがある」
「さすがはとこ。考えることが同じねえ」
「同じって、なにが?」
初斗が首をかしげる。
ネルも鍵巻きならとても長い年月を刻んでいられるから、と言って鍵巻き式を選んだ。
ネルには「このことは極秘で!」と言われたから、詳しいことは話さないでおく。
「なんでもないわ。お昼になったらいったんこっちに来なさいな。あんたの分もまかない作るから」
「いいの? それじゃあ、おにぎりが食べたいな」
「おにぎりなら毎日ネルちゃんお手製のものを食べてるでしょ」
「毎日食べても飽きないのがおにぎりのいいところ」
ちなみに初田家は一日三食おにぎり。おにぎりをおかずにおにぎりを食べるレベルでおにぎりを食べている。
ネルの一番得意な料理がおにぎりなんだとか。おにぎりに並々ならぬ情熱を注いでいる。
「まあいいわ。おにぎりも用意しとくから、外の仕事は任せたわよ」
「任されたよ」
初斗には露店のテント設営と、クーポン付き風船配布を任せている。接客スキルが皆無に等しいので、会話を必要としない仕事だけを割り振っていた。
露店をしている効果もあって、本店であるワンダーウォーカーにも普段とは違う層のお客様が来た。
露店の子におすすめ商品を聞いて探しに来たという人もいて、ひっきりなしにレジを打つこととなった。
屋台メシは好きですか(* ´ ﹃`*)





