ネルからの極秘ミッションと、あごだし茶漬け②
翌日、歩は午前中の店番をアリスに任せて時計屋に向かった。
昔海外を旅したときに出会った人が経営している。神奈川の隣県にある店で、週二日しか開いていない、趣味でやっているような店だ。開いている日数が少ないけれど、選定眼は確かな物。職人が作った逸品だけを扱っている。
高校時代からの旧友に贈る物なんだと話すと、店に置いているコレクションの中でも秘蔵の懐中時計を持ってきてくれた。少々値が張るが、初斗とネルのことを思えば安い。
ネルに見つかったとメールをいれて、神奈川に戻る新幹線に乗った。
「おかえりなさい、歩さん」
昼前にワンダーウォーカーに戻ると、アリスが迎えてくれる。ワンダーウォーカーの店員がすっかり板についていて、笑顔でお客様をお見送りする。
「ありがとうねアリスちゃん」
「いえいえ。いいもの見つかった?」
「ばっちりよ」
出立前にアリスにも出かける目的を説明しておいたので、事情を知っている。
「あとはネルちゃん自身がちゃんと隠しておかないとね。嘘をつけない子だから、サプライズしようとしても顔に出ると思うのよ」
「たしかに」
アリスも想像できるようで口に手を当てて笑っている。
「それじゃ、ごはんにしましょうか。お土産買ってきたから、お昼に食べましょ」
「え、なになに? あたしが食べられるもの?」
「ええもちろん。ドライフルーツは好きかしら」
「好きです」
「それはよかったわ」
今日のお昼は軽めのものを作ることにする。
「梅干しとツナがあるでしょ。で、お出汁はあごをもらったから使ってみたいわ」
「あご? って、肉の部位かなんかです?」
「トビウオよ。ほら」
「知らなかった。トビウオの出汁なんて売ってるんですね」
魚の出汁と言えばカタクチイワシの煮干しやカツオ節がメジャーだが、トビウオもかなり香りが高く美味しい。出汁の瓶には筆でトビウオが描かれている。アリスは瓶を手に取って興味津々だ。
「二倍濃縮タイプだから水1に出汁1で割ってちょうだい」
「はい」
アリスは計量カップに水を入れ、同じカップに出汁を注ぐ。
炊きたてご飯を大きめのお椀に入れて、オイルを切ったツナと梅干し、刻み海苔を乗せて出汁をかけたらできあがり。
「お茶漬けだ」
「そうよー。暑い時期はさらっと食べられるものがいいでしょ。氷を入れてないからそんなにお腹も冷えないと思うし」
いただきますをして、レンゲですくいながらお茶漬けを口に運ぶ。
「わ、すごくいい香り。トビウオってこんな味なんだ」
「美味しくできて良かったわねー」
お昼の後は、お土産をお茶請けの皿に出す。トマトのドライフルーツだ。そしてお茶はカモミール。
香りも味も主張しないので、おやつにも合わせやすい。
「トマトのドライフルーツ!? すごい、初めて見た」
「あらそうだったの? 美味しいから食べてみなさいな」
「うん」
トマト好きのアリスのツボにはまったようだ。至福の顔でじっくりかみしめている。
「ふふふ。そんなに気に入ったなら、また買ってきましょうね」
「あたしまだ何も言ってないのに」
「わかるわよ。アリスちゃんはすぐ顔に出るから」
「えええっ!?」
本人としてはポーカーフェイスのつもりらしい。にやけそうになる顔を隠しながら食べているので、歩はこっそり笑った。
お茶漬け(゜д゜)ウマー
ドライフルーツはレモンのなんてすごく美味しいです





