第十四話 たまには外食。ネコちゃんのいる店の手打ちそば①
店休日、歩は馴染みのヘアサロンで髪を染め直していた。
カラコンを落として割ってしまったので、今日はサングラスできた。染めるときにカラーリング剤で汚れてしまわないよう、外して鏡の前に置く。
隣でヘアカット中のアリスが、ちらちらと歩を見ている。
「あら、なぁにアリスちゃん?」
「あ、いえ、なんでもないです」
もしかしてサングラスが似合っていなかったのか、それともカラコン姿しか見ていないから違和感がすごいのか。視線をそらして、どこか挙動不審だ。
「オレがイケメンだから惚れちゃったんじゃないっすかー? ね、アリスさん」
岸は天パがトレードマークの男で、とってもお調子者。そしてお祭り野郎だ。明るく社交的なのは美徳であり欠点でもある。こんな調子だが、歩がこの店に通うようになってからずっと、歩の担当をしている。
「アリスちゃん、岸は大体こんな風だから、馬鹿なこと言われても軽く流しなさい」
「あ、はい。そうします」
「ひどいっすよ歩さぁん」
アリスは正面の鏡を見る。アリスの担当になってくれているのは女性スタイリストの皇。アリスとあまり年齢が変わらないので、子供の頃好きだった漫画が同じだと言うことで話が弾んでいる。
歩の方もカラーリング剤を流した後、岸がドライヤーをかけながら鏡越しに話しかけてくる。
「歩さんとこの商店街、七月になったらお祭があるんすよね。オレ、遊びに行きますんでサービスもりもりよろしく! 彼女に異国情緒あるアクセがほしいっておねだりされてて」
「あら、今日のカラー料金を半額にしろって言ったらやってくれるの?」
「定価でおなしゃっす」
「わかっているならいいわ」
それなりに気心知れた相手でも、気前よく値引きばかりしていたら売り上げに響く。歩のさり気ない皮肉に、岸はたじたじだった。
たまに行くサロンの美容師さんがよく喋る。緑髪が好きらしい。





