第十三話 じめじめした日は、ところてんサラダと青じそごはん
アリスが来てから二月近く経った。
雨降りで空気はジメジメ。店内の除湿機が最大出力で唸っている。
店内の装飾を春物から夏物に替えるため、歩は倉庫から夏物飾りと空いたかごを持ってきた。
「アリスちゃん、春の飾りを外してこれに替えてくれないかしら。高いところのはアタシがするから、目線の高さのだけお願い」
「はい。……あ、ちょっとすみません」
カウンターの裏から携帯の着信音がする。この電子音はアリスのスマホのものだ。
アリスは画面表示を見るなり露骨に顔をしかめた。
「お姉ちゃんからです。そういえば退院したんだったなぁ……」
「あら、それはおめでとう、と言っておくべきかしら」
話している間もコール音が続く。
「出てみたら? なんかスッポンみたいにしつこそうだし」
10コールしても切れない。出るまでやまなさそうだ。
アリスは仕方なしに応答した。
「……は、迎えに来い? 嫌。仕事中だってわかってて言っているの? タクシー使いなよタクシー」
スピーカーモードにしていないのに、電話の向こうからリナの荒い声が聞こえてくる。
最寄り駅まで来たけれど、傘を持っていないから仕事を抜け出して迎えに来なさい、姉の言うことが聞けないの? とまあそんな感じの内容だ。
事故後も姉妹仲が良くなったとは言えず。たまにショートメッセージを交わす程度らしい。
たいして仲良くない妹にそこまで強気に出られるのだから、いい性格だ。
アリスは電源を長押ししてスマホをバッグにしまった。
「初田先生のところにお礼しに行くつもりだったみたい。だからってあたしをパシリにしようなんてね……。まだ松葉杖なんだからタクシー拾えばいいのに」
「ああ、そういえば初斗の血を輸血をしたんだっけ。お礼はお礼でも、悪い方のお礼参りじゃないわよね」
歩もリナと喧嘩して恨まれている覚えがあるので、悪い意味でのお礼参りをされかねない。
勝手なイメージだが執念深そうと言うか何というか。アリスがこの発言をフォローしないからなお怖い。
「おおいアリスちゃん。いつものをくれい!」
蜻一が傘を片手にやってきた。おじいちゃんだけどかなりのオシャレさんで、キノコみたいなかわいいデザインの傘を使っている。
「いらっしゃい蜻一おじいちゃん。今日も買っていってくれるんだね。ありがと」
ご指名を受けたアリスが、笑ってスイカフレーバーを用意する。
電話があったことなどすっかり忘れて季節飾りの入れ替えに精を出した。
午後に後半を投稿します。
「お礼に来たわよ」
ヽ( 。•ω<。 )ノ┌┛Σ(ノ `Д´)ノゲシッ





