第十二話 そうだ、ピクニックに行こう。外で食べるフレンチトースト①
「歩さん、それアリスさんからもらったものでしょう?」
朝、店の前を掃除していると、ネルが話しかけてきた。
ネルは竹ホウキを片手に、歩がつけているバレッタを指す。ライトブルーの髪に深い青の蝶が良く映える。
「そうよー。似合うでしょ。ネルちゃんがいいお店を紹介してくれたっていっていたわ。ありがとうね」
「えへへ。歩さんはガラスとか光るアクセサリーが似合いますね-。歩さんが喜んでいるなら、私も紹介してよかった」
「ネルちゃんは珍しいものをつけているわね。そのかんざし、象牙製でしょ」
いつもならツインシニヨンにしているけれど、今日のネルは後頭部でひとまとめに結い上げていて、象牙のかんざしで留めている。先端に米俵を抱えたねずみがくっついていた。
「成人のお祝いにって、成人式の前撮りの時、初斗にいさんが櫛とかんざしのセットをくれたんです」
小間物の中で、櫛とかんざしはプロポーズのときの贈るという風習がある。
残念ながら初斗は勉強の虫。そういう色恋知識はないので、何も知らずに贈ったのは明白だった。
「女の子に櫛を贈るなんて、罪な男ねえ……。それともネルちゃんにプロポーズしたの?」
「にいさんは何も知らないですよ」
「ネルちゃんは知っているの? かんざしの意味」
「……成人式で友だちが教えてくれたから。で、でも、にいさんにそういう意図は全然ないっていうか。私がこのネズミちゃんを気に入ってつけているだけで、深い意味はないの」
意味を知っていてつけているのなら、それが答えだ。
恋愛感情のない相手から贈られたなら、身につけられるはずがない。
十年近く一緒にいるのに進展がないのは初斗の鈍さゆえだろうか。先が長そうな二人である。
「あ、よかった。歩。店に行く手間が省けた」
クリニックの扉を開けて、ウサギ頭の初斗が出てきた。手にビニール袋を提げている。
「なにか楽しそうだね。面白い話でもあった?」
「はわわわわ」
ネルが大慌てで視線を泳がせる。歩にアイコンタクトで、「いまの話は黙ってて」と言う。
かわいい妹分の頼みなので、合わせることにした。
「アタシが光り物が好きって話よ」
「ああ、そういえば歩って一緒に寿司屋に行くと、いつもアジやコハダばかり食べていたよね」
「確かにそれも光物だけど。まあいいわ。なにか用?」
「これ、昨日母さんが持ってきてくれたんだ。おじいちゃんの畑で採れた物だけど、食べきれないからあげる」
「あら、ありがと。今度初音さんに会ったらお礼を言わないとね」
袋の中身はイチゴだった。とても色艶がいい。
初斗の母方の祖父は果樹農家をしていて、イチゴのほか梨やブドウを育てている。初田農園は個人経営の小さい農園だけれど、味は確か。
本日のまかないにイチゴを取り入れたら、アリスが喜ぶだろう。
光り物は好きですか(魚)





