第八話 みぞれ湯豆腐と大事件①
蜻一が帰ってから、歩は休憩の札を下げる。
どこからか救急車のサイレンが聞こえてきた。
(また事故か……。今日は多いわね)
明け方にも事故があり、救急車の音で目が覚めたくらいだ。
今は進学進級シーズンだから、大学入学前に自動車学校に通う人が多い。または、学校卒業で社会人になるタイミングで取るという人もいる。
免許を取り立てのドライバーが増えるから、事故もその分増える。
キッチンに入ると、お茶を飲んでいたアリスが顔を上げた。
「歩さん、大丈夫? 声を荒らげていたみたいだけど、なんかあったの?」
姉が来ていらないことをあれこれ言っていた、なんて知ったらアリスが傷つくだろう。
リナが帰った後、歩はリナが置いていった名刺をすぐにゴミ箱に放り込んだ。
両親は見目のいいリナだけを溺愛して、アリスはないがしろにされてきた。その事実がリナの態度でわかった。
歩は頭を左右に振って、笑顔をうかべる。
「何もないわよ。さて、お昼は何を作ろうかしら」
「いつも作ってもらってばかりだと悪いから、今日はあたしが作ってみたんだ。うまくできているかわからないけど」
アリスがぎこちなく笑いながら、土鍋を開けて見せてくれる。
作ってくれたのは湯豆腐だった。小さめに切った白菜とにんじんも一緒に煮込んであり、豆腐の上にはネコ型で抜いた大根おろしが何匹も乗っている。
「ありがとう、アリスちゃん。とってもおいしそう。ハチワレや三毛猫ちゃんがいるのね」
「お醤油やポン酢を垂らすとネコの柄を変えられるってネルが教えてくれて」
さすがネル。布教活動に余念がない。柄ネコの理由を知って、歩は笑いがこらえきれなかった。
とんすいに野菜と豆腐を取り分けていただく。
「うん、おいしいわ。アリスちゃんはお料理上手ね」
「煮込むだけだからそんな褒めなくても」
「そんなことないわよ。ただ水で煮ているんじゃなく、ちゃんとだしも入れているでしょ。カツオのいい香りがするわ」
アリスの家族がアリスを大切にしないなら、歩は家族がしてこなかった分、目一杯アリスを大切にすればいい。アリスは自分のとんすいにも取り分けて、小さめの豆腐にポン酢をつけて口に運ぶ。
「……おいしい」
「おいしいわね。そうだ! シメにおうどんも入れましょ。溶き卵もかけて」
やっぱりご飯は一人で食べるより二人で食べた方がおいしい。
今更一人で食べろなんて言われても無理かもしれない。
湯どうふはうまし
(●´ З`)うまし
熱々のうちにどうぞ
作者の好みはポン酢
本日後半も投稿します





