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異次元世界征服〜ユグドラシルと五つの世界〜  作者: 鶴山こなん
第一章 『全ての始まり』
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〜第8〜 天悪戦争

 天使と悪魔の戦いが世間に注目されてから更に時間は経ち、私は何事も無かったかのように無難に普通の高校に進学。気付けば十六歳の高校生になっていた。


 この頃になっても相変わらず世界各国の至る所では天使と悪魔の戦いは続いており、中々このドンパチ騒ぎは収まりそうにない。稀に私のすぐ近くまで天使と悪魔が近付いて来て、危うく迷惑な戦いに巻き込まれそうになったりとハラハラドキドキな事は多少なりともあったが、何だかんだバレずにここまでやって来れた。


 まだしばらく天使と悪魔の戦いは続きそうなので、高校でも変わらず静かに目立たず過ごして行こうと思う。それに、私としては天使と悪魔の事などどうでも良くて、今の私はこの高校生活という青春を謳歌する事の方が大事なのだ。


 他人のドンパチなんぞ気にしてられるかってんだ!


 私にとってこの学校は天国みたいな所で、購買のパンは美味しいし、私が試しに「おはようございます」と挨拶すれば、相手も「おはよう」と普通に挨拶を返してくれる。何より、今までの私を知らない人しか周りにいないため、私がいじめられる事も無ければ、周りでいじめられて困っている人も居ない。


 元々私は人付き合いが得意な方では無いので、友達が出来ないことだけは以前と変わらないが、全く問題ない。静かに本を読んだり教室に飾ってある花の手入れをしたりしているだけで満足である。


 良い気分だ。

 これが普通、最高!!

 変にちょっかい掛けてくる目障り軍団もいなくて、自由だぁぁぁあっ!!


 それはそうと、時間が経過しているという事は魔人モードの方でも色々変化しているところが幾つかあるわけで、いつの間にか飛行や純力の操作で苦戦する事は無くなっていた。体も更に強くなったようで、漆黒色の翼には初列風切羽の一番大きい羽が両サイド一枚ずつ羽の色が変色してきて、額にも左右対称とても小さな白い角が二本ひょこっと伸びる様になり、瞳は以前の金木犀色から少し赤みが増した様に見える。


 進化したのは体だけでなく、スキルや能力の方にも変化があり、「認識阻害」は私以外の動物や物にも付与出来るようになった。これにより今まで人間が多くて近づけなかった地域にも行けるようになり「色々な発見があって楽しい!」と行動範囲を広げられて動物達は喜んでいた。ちなみに、付与は一定時間で切れるので、ちょっと偵察して欲しい時などに利用させてもらっている。


 そして「千里眼」は、何故か友達になった動物達以外にも広がっており、もはや私の見えない所など思い当たらないくらい、世界中のありとあらゆる光景を見ることが出来るようになっている。こんな感じで、今の所私にとって都合の良い変化しかなく、なんの不自由もトラブルもなく日々を過ごしているが、そんな調子の良い私とは裏腹に世界中では大変な事が起こっていた。




 天悪戦争の話をスピリットさんから聞いたその夜から、『その時』に備えて強くなるぞ!っと熱い心で決意して備えていた私だが、問題の『その時』は中々来ない。別に楽しみに待っている訳では無いので、来なければ来ないで構わないのだが、もし「その時」のタイミングに天使と悪魔達の動向が関係しているのであれば、少し天悪戦争の状況を把握しておいた方が良いのかも知れない。


 私は高校から家に帰宅すると、直ぐにまたPCで検索を掛けた。


 ふむ‥‥‥。


 どうやら魔人同士の戦いが以前よりも激化しており、天使は人々にとって味方である!と言っていた一部の人々でも、流石に被害の大きさを見て天使という魔人を弁護しきれなくなってしまったらしく、世間は天使悪魔関係なく、大きな翼の魔人を敵視するようになってしまったそうだ。


 スピリットさんからも少し補足があり、戦いの被害が大きくなった理由としては、弱い魔人は殺されて減り、今は強く実力を着けた魔人ばかり残っているからだと言う。戦いに慣れ、両者とも同じくらいの戦力だからこそ戦いはお互い苦戦している様で、一戦一戦が瞬殺やら闇討ちやらが出来なくなったため決着まで時間がかかる。


 そして記事を読み進めていくと、またこの戦争が長引いているもう一つの理由も判明した。


 それは、政府が何をやっても止められないからだ。


 天使と悪魔、同じ魔人という事は私と同じく彼らも純力を使う。純力とはとても強く、その力は軽く振るっただけで硬いアスファルトをも容易くえぐる威力だ。肉体も変化しているため、政府が持つ拳銃程度では傷一つすら付ける事は出来ず、一般の人間如きの力では手も足も出ない。


 魔人一体だけのために毎回軍隊を出す訳にも行かず、天使と悪魔でお互い殺しあって自滅するのを待っていた方が一番早いのだとか。


 ‥‥‥そら被害も大きくなるわな。


 以前より半分程まで数は減ったとは言え、魔人以外で止めてくれる存在が居ないのであれば、無制限にやりたい放題できる。本当に映画並みの大迫力の戦闘が多発しており、戦いによって破壊された世界遺産は数知れず。


 世間は世も末、誰もがそう思い初めていた。




 とある昼下がり。

 つい最近好きなお和菓子が発売されたのと、数量限定で好きな漫画家の直筆サイン入りイラスト集を買いに、私は久々に遠出をしようと思い切って都会に買い物をしに来ていた。


 あ、お母さんが欲しがってたアレも都会なら売ってるかな?


 そんなこんなで久々の都会で一人で軽くはしゃぎつつ、欲しかったものは問題なく購入。漫画とお菓子、二つの紙袋を両手にぶら下げながら、ただただ平和で楽しい時間を過ごして大満足な私は、このままもう少し色んなお店を覗いたりしながら、のんびり帰路に着こうと思っていた。


 そして次の瞬間‥‥‥。


 背中がピリッとしたと同時に、突然「千里眼」が勝手に発動。それから一秒も満たないうちに、脳裏にとある光景が映し出される。


 白い翼の女性と、黒っぽい灰色翼の青年が空中で何かしている‥‥いや、これは天使と悪魔の戦いだ。それ以外にこのタイミングで二人の魔人同士がやる事など無いのだから。


 パッと見ただけでは天使と悪魔の区別はつけられないが、いずれにせよこの場合、翼の色が消炭色の青年が絶対有利。私の思った通りじわじわと白翼の女性が押され、少しづつダメージが蓄積されていっているのが分かる。


 ん‥‥‥?

 でも何故だろう?


 翼の色を見ると分かるが、消炭色と白の間には大きな力の差がある。青年にとって弱者である女性を瞬殺する事など造作もないはずだ。恐らく、この様子だと私の千里眼が発動する前からドンパチやっていたに違いない。わざわざここまで長引かせている理由とは一体‥‥‥?


 その理由は一回瞬きをして、白翼女性の視界を覗いて見て分かった。


 灰羽の青年は目を見開いて笑っていた。

 笑いながら白翼女性に細かく攻撃を刻んでいる。しかし、どの攻撃も的確に急所を外したりわざと傷を回復させたりしている事から、すぐには殺す気がないのは明白だ。


 対して白羽女性は攻撃を避けたり受け流したり、息遣いからして物凄く焦っているのが伝わる。急所以外の所に攻撃が擦る度に、痛そうな呻き声を発して耐えている。


 そんな両者を見て、私は理解した。

 この戦いは一方的な蛮行である事、消炭色の青年が悪魔で白羽の女性が天使なのだろう。悪魔青年が天使女性を痛め付けて遊んでいるのだ。


 うん、この二人の状況はわかったよ。

 で、この光景と私になんの関係が‥‥?


 不思議に思って首を傾げると、背中がまたピリッとした。ん?と呑気なことを考えていると、突然スピリットさんが叫ぶ。


(早くここを離れましょう!ここはもうすぐ戦場になります!)


 何ですと‥‥!?


「えっ、さっき見た二人がこっちに来るって事?」


 なるほど、そうか。

 背中がピリッとしたり勝手に千里眼が発動したのは、あの二人がこちらに接近しており、私がそれに巻き込まれる危険性を察知したからなのか。私には常に認識阻害が掛かっているとはいえ痛いのは嫌だ。これまでも回避できる危険は回避してきたのだ。今回も逃げに徹する。


 さっ、逃げましょ逃げましょ‥‥‥。

 それにしても、楽しい時に限ってこんな戦いに巻き込まれるなんて、ほんとに私ったら運が悪い。


 私は深く溜息を吐いてくるりと体の向きを変えると、人混みを逆走する様にスルリと避けてぶつからない様に気を付けながら、小走りに最寄りの駅に向かって駆け出した。駅に着くまでまだ少し距離がある。あの二人が空中戦から地上戦に切り替わるまでには何とか安全な所に行きたい。途中、人が多くて走りずらい本道から逸れ、比較的走りやすい脇道に切り替えつつ、少しでも二人から距離をとる。


 多分、こういうのは私が気付いた時点で他の人にも「早く逃げろ!」とか注意して避難を促した方が良いのかもしれないが、こんなに沢山の人を守り切れるほどまだ私は強くないし、二人とも私より格が下とはいえ、冷静さをなくした魔人二人を真正面から一度に相手をするのは危険極まりない。


 それに世間的に天使と悪魔関係なく、翼の魔人自体が敵視されているこのご時世で大っぴらに行動するのは出来る限り避けたい。魔人ではありつつも、普通に目立たず生活したい私にとって今一番恐れている事は、この普通な生活が脅かされる事。考え無しに下手に騒いで無駄に目立ってしまうのは、私の意に反する。


 仮に、私が勇気を持って行動したとしても結局中途半端な人数しか救えないし、後々生き残った遺族やらこの事件を知った人々から「もっと上手くやれただろ」と叩かれ、無駄に心身ともに傷つくのがオチだ。だから、誰に何と言われようとこうして何も言わず静かに姿を消す事が一番ベストな行動であると私は判断した。


 ‥‥‥そもそもの話、私が必死に声をかけてもこの楽しい雰囲気の中、瞬時に言うこと聞いてくれる人って居ないと思うんですよ。うん、自分の身が第一。


 駅まであと半分と言った所で、足を動かしたまま再度千里眼で二人の状況を確認する。


 あっ‥‥‥落ちて来てる。


 地面は直ぐそこまで来ていた。


 それから約二分後、さっきまで私が居たと思われる場所からドーン!と轟音が響き、地面は衝撃で揺れ、軽い衝撃波が生温い風となって身体を煽る。大きな音に気が付いて恐る恐る後ろを振り向くと、ゴゴゴという重い音と共にモクモクと黒い土煙が登っているのが見える。


 ‥‥‥来てしまったか。


 誰よりも早く危機を察知して走り、現地から距離を取った私が居るこの場所ですら、これだけの揺れと衝撃だ。現地はもっと酷いパニック状況となっているに違いない。私の判断は間違っていなかった様で、すぐさまパニックに陥った人々の悲鳴と、逃げ走ってきたであろう凄まじい量の足音が波の如く押し寄せて来た。


 あわっ、こりゃちょっとヤバいかも。


 人にぶつからないよう小走りで移動していた私と違い、後ろから来た彼らは阿鼻叫喚。命の危険を感じて全速力で走って来たため、直ぐに追いつかれてしまう。私も人々の様子を見て気が付いたので、足を先程よりも早く動かし始めたが、それでも間に合わず人の波に飲まれてしまい、私を追い越そうとした男性に「どけぇっ!」と力いっぱい突き飛ばされてしまった。


 あだっ‥‥‥!


 強く突き飛ばされ、近くの建物の壁に派手に背中を叩き付けたのと同時に、ぶつかった反動で持っていた紙袋も勢いよく壁にぶつけた。


 アイタタ、失敗したなぁ‥‥‥。

 色々目立たないよう配慮して小走りで逃げていたけれど、本道から逸れたこんな脇道まで人が流れ込んでくるとは。


 そう思いつつ立ち上がると、現地の方でまた大きな爆発音が響き渡り、再度軽く地面を揺らす。場所によっては火災が発生しているらしく、大きな炎が黒い煙を生み出している。


 ‥‥‥全く。

 本当に周りの事が見えていないんだな!

 逆に二人が何を考えながら戦っているのか気になったわっ!


 そう思った私は、走りながら千里眼を発動して二人の戦闘中の会話やら様子を探ろうと、現場から一番近くにいたカラス君の視界を覗く。


 視界には青年に腹を踏み付けられ、鋭い殺意を含んだ視線を青年に向けた天使女性が見える。天使女性のボロボロな姿を見て私が「痛そう」と軽く眉間に皺を寄せたのと同時に、悪魔青年が天使女性をギロっと見下ろしながら叫んだ。


「ムカつくんだよ!お前みたいな綺麗な所しか見ないでモノを語る偽善者天使がっ!」


 踏みつけられて上手く身動きが取れずにいる天使女性が、苦しそうに息をしながら弱々しく言い返す。


「‥‥‥でも、どんな理由が、あろうとも‥‥人を傷つける、のは‥‥許せる事では、無いわ!諦めなさい‥‥悪魔っ!!」


 青年を見た限り彼の体にほとんど傷はなく、あまりダメージを受けていないのが見て取れる。数言ずつ叫び合った後、青年が女性を力一杯蹴飛ばし手に力を込めると、光る球を女性に向かって思いきり投げつけた。


 ‥‥‥完全に天使女性がサンドバッグにされている。傷が塞がったらまた追撃されての繰り返し。青年もまだまだ満足していないようで、微妙に急所を外して直ぐには終わらせてくれそうにない。強者同士ならばともかく、実力差がこれだけハッキリしているのであれば、変に苦しませず早く天使女性を楽にさせてあげて欲しい。


 こんな戦い、いつまで続けるつもりなのだろうか?そんな事を考えていると、天使女性が攻撃を避けるのをやめて、青年に向かって高く跳んだ。


「何も出来ないままやられるくらいなら、せめて一発だけでも喰らいなさいっ!」


 ‥‥‥おっ、なんだ?!


 青年も天使女性から渾身の一撃が繰り出される事を察した様で、攻撃を避ける事なく両腕を胸の前でクロスさせて、真正面から受け止めて見せた。


 うおぉー!スゴイ!


 私が瞠目したのも束の間。

 本気の魔人が全く力の強弱を調整せずに繰り出した攻撃は、周りの建物に大きな負荷を与え、多くの建物は衝撃に耐え切れずヒビが入る。そしてそれは私のいるこの場所まで振動が伝わり、足元のアスファルトとすぐ側の建物にも大きくビシッと亀裂が走った。危機感を覚えたため、一度千里眼を切って体勢を整える。


 あ‥‥‥ここも危ない。

 早く、もっと離れなきゃ。


 そう思い、一歩踏み出した所で泣いている小さな女の子が私の視界に映った。その子は恐怖で足がすくみ、目に涙をいっぱい溜めて必死にキョロキョロと頭を動かしている。どうやら親とはぐれてしまったらしい。


 わっ‥‥‥。


 立て続けに細かい振動が足元を揺らし、度重なる揺れと衝撃に耐えかねた建物が一部崩れ始めてしまった。そしてその建物の側には、なんと女の子が!!私の足なら多分間に合うし、一人だけなら何とか助けられる。

 

 とぉうっ‥‥‥!


 紙袋で両手が塞がっているため、二つ持っていたうちの一つを投げ飛ばすと、強く踏み込み、地面を蹴って高く跳躍。そして素早くその子を抱き抱えると、崩壊に巻き込まれない安全な場所まで全速力で走った。




 しばらく全速力で走っていると、少し離れた所に人々が避難場所として集まっている広場に辿り着いた。ここならばあの場所からだいぶ距離が離れているし、駅も近いから大丈夫だろう。この広場で女の子を下ろし、手を繋いで広場を歩きながら千里眼でこの子の親を探す。


 無事親子が交流したのを見届けふぅと一息つくと、両手で持っていたうち、片手に大事な物が入っていた紙袋が無い事に気がついた。


 ‥‥‥あれ、いつの間に無くなったんだ!?


 ザッと青ざめていくのを感じながら、必死に何処で落としてしまったのか記憶を探る。


 えーと‥‥?

 確かおっさんに突き飛ばされて?

 走ろうとしたら女の子がいて?

 建物が崩れてきて、女の子を助けるために?

 無意識に‥‥‥投げ飛ばした。

 あぁぁぁあーっ!!あの中には数百人限定、

 作者直筆サイン入りレアイラスト集がぁぁあぁっ!!

 今頃、建物の下敷きになって、無惨な、紙切れに‥‥‥。


「‥‥‥許さない」

(優蘭様?)

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