〜第22〜 私なりの戦い方
二人に向かってハッキリ「倒す!」と宣言したところで第二ラウンドの開始である。
この宣言を聞いた二人は、ボロボロなのにも関わらずまだ動ける敵を警戒して再度臨戦体制を取り、私が走り出したと同時に見えない斬撃と波動砲を放ってきた。
「ふっ」
こんなもの攻撃の直線上から外れれば躱す事は容易だ。そして先程と同じ手は喰わない。高く舞い上がったところで杏奈のあの広範囲の衝撃波で叩き落とされてしまうし、遠距離攻撃は『台風の目』とかいう風のバリアのせいで当てるのは困難。
ならばどうするか?
あの風の盾が文字通りの「台風」であるならば、中心には「目」という何も無い空間があり、真上からなら比較的楽に侵入できるはず。そして無事その台風の内部に侵入する事ができたら、真っ先に兄のコアを目掛けて包丁を刺しに飛び掛かる、という算段だ。
‥‥‥アイツらがいる「目」に突っ込む!
魔人の体には、必ず何処かにコアが生成される。スピリットさんの話では、コアの位置は決まって脳、心臓、膵臓の三箇所の何処かにあると言われており、その三箇所をピンポイントで順番に刺していけば多分当たる、という何ともシンプルなやり方だ。
‥‥‥それ以外の方法?
私が知りたいよ。
このクソ忙しい戦闘中に妙案を思い付けるほど私は賢くない。今の所、相打ち覚悟で無理やり近接戦に持ち込む以外の方法が思い付かないのだ。一番最初に放った弓の不意打ちが何の意味もなさなかった時点で私の作戦はとっくに終わっている。ほぼ感情に任せて突っ込んできたようなものなので、その後はほぼノープランである。
私は台風の内部に突っ込むべく一度高く舞い上がり、二人の真上まで移動。当然また先程と同じく私を叩き落とそうと杏奈が衝撃波を放つ準備を始めたのが見えた。あの技はヴァイオリンを作る、構える、弾くの三段階を踏まえているため、放つまでほんの少しだけ時間があるはずだ。
だから杏奈が技を放つよりも、私が急降下してあの中に入る方が早い!
翼を折りたたみ、頭から急降下。片手で持っていた出刃包丁は両手でガッチリと握りしめ、手始めに真上から突っ込んでくる私に驚いて目を見開いている兄の頭目掛けて、包丁を思い切り振り下ろす。
ここでズバっと‥‥!
しかし、やはり単調的な攻撃は誰でも躱しやすいらしく、振り下ろした包丁は地面に深々と刺さり、空振りに終わる。
「ふんっ!」
今のが空振りするのは想定内、頭がダメなら今度は腹を狙うだけだ。地面に刺さった包丁を力任せに引き抜くと、すぐさま兄の腹目掛けてブン!と横に薙ぐ。しかしこれも兄が後ろにバックステップした事で掠りもしなかった。
腹もダメ、だったら心臓‥‥!
バックステップして私と少し距離を開けられたが、問答無用で開けられた分距離を縮めにかかる。私は包丁を握る両手に力を込め、兄の心臓目掛けて力強く地面を蹴る。
たぁあっ!
「そう来ると思っていたぞ」
「‥‥あぅっ!?」
包丁を突き出したがしかし、包丁は何も無い虚空を突き刺しただけで、伸び切った腕はいつの間にか兄にガッツリ掴まれる。そして次の刹那、視界がグルンと一回転し、何が何だか分からぬ間に私の背中は派手に地面に叩き付けられていた。
「うぐっ!」
背負い投げで地面に叩き付けられる瞬間、瞬時に受け身を取れなかったため、叩き付けられた衝撃で肺が圧迫され呼吸もスムーズに出来なくなった。苦しい。
「舐めるなよ、僕は柔道もやっていた」
「お兄ちゃん大丈夫!?このっ!」
痛みこそ感じないが、事あるごとに自分の体の動きが鈍くなっているのが分かる。深傷による出血多量、その他これ以上何か喰らえば見えない刃一つ躱わすのも難しくなるだろう。何とか頭を上げると、視界の端では今にも私を吹き飛ばしてやると言わんばかりに、地に伏している私に向かって杏奈が音の波動を放とうとヴァイオリンを構える。杏奈が波動を放とうとしている事を察した兄は、一緒に喰らわない様に私から離れた。
‥‥‥‥これはチャンスか??ほんの一瞬だが、兄は杏奈の攻撃の巻き添えを喰らわないよう少し離れた場所にいる。しかし、兄が杏奈の側に戻るより先に私が彼女をこのバリアから叩き出せたなら、状況は変わるのではなかろうか。ただのその場しのぎにしかならないだろうが、今は何でもかんでもやってみるしか無い!
杏奈がヴァイオリンを鳴らそうとするのと、私が全力で踏み込み、一瞬で彼女の胸ぐらを掴むのはほぼ同時だった。
「きゃぁっ!?」
「その音、鼓膜痛くなるからやめて」
杏奈を捕まえたなら一旦この台風の中から外に引き摺り出す。安心安全だった兄のバリアから引き摺り出された彼女は、自分の身が危険にさらされた事を自覚し顔色を真っ青に変えた。
特に何の作戦も考えずその場で出来ることを思い付いたまま戦ってきたが、その戦いの中でも私は常に二人から目を切らなかった。何かヒントが欲しくて身を刻まれながらもずっと二人を観察してきたが、ここに来てようやくこの戦況に変化を齎せそうな案を思いついた。
やはり今までコソコソ隠れてやり過ごしてきた私には、一度に二人を相手にするなど最初から無理な話だった。同格である兄一人だけならば互角同士の戦いができたかも知れないが、二人の息の合った連携のせいで一人に集中出来なかったのだ。
兄が妹を守りながら自分と妹の攻撃を強化する。妹は兄に守られながら兄が困った時の補助を行う。敵である私がバリアの中に侵入してきたならば、近接戦も出来る兄が私を撃退。それは私にしてみれば、厄介以外の何物でもない。
二人が連携しているから強い。
ならばどうするか?
‥‥一旦分断させれば良い。
この戦いの中で分かったこととして、あの二人が最強の布陣でそれぞれの役割をこなしていること以外にもう一つ、あの二人はお互いが近くにいることで精神を保っている。あの強い絆とも呼べる精神の繋がりが二人の戦意を途切れさせずにいるのだと思う。
そんな強く繋がり合う二人を強制的に引っぺがすのは何とも非道なやり方な気もするが、やり方なんて選べないのだから仕方ない。一人動けなくさせれば、少なくともこの戦況に変化を齎せるはずだ。
「杏奈ぁあぁあっ!!」
思った通り、台風バリアの中に一人取り残された兄から心底動揺した叫び声が辺りにこだました。
そんな兄の叫びは無視して、私は胸ぐらを掴んでいた片手に力を込めると、思い切り眼の前に聳え立つビルの壁目掛けて杏奈を投げ付け、目を見開いている杏奈の左肩に出刃包丁を突き刺すと、そのままビルの壁に勢い良く叩き付ける。
杏奈がヴァイオリンを持つ時は必ず左肩に当てて弾いていた。ここを潰せばもうあの技は放てまい。私の包丁もこのまま刺しておけば、杏奈の体に流れる純力循環も妨害できるので一石二鳥。何とか杏奈の動きを封じる事に成功した。
「ぎゃあぁぁっ!」
力一杯押し付けたものだから杏奈が壁に深くめり込んでしまったが、まぁ良い。私の純力が毒となっているからなのか、激痛に顔を歪める杏奈は左肩に刺さる包丁を抜きたくても抜けないでいる。このまま放置していればいずれ死ぬだろう。
「貴様ぁあぁあっ!!」
なんとか杏奈の動きを封じたはいいが、悲しい事にこれで勝利にはならない。私は杏奈からすぐさま兄の方を向いて体制を整える。次の瞬間、今までに感じた事のない凄まじく重い圧迫感がのしかかってきた、見れば兄が恨みを孕んだ目で私を睨みつけている。どうやら彼の逆鱗に触れたらしい。
しかし、私も兄と同じく六つ星の魔人だ。同格からの威圧ならば怯む事はない。
「貴様の相手は僕だろうがぁ、杏奈に手を出すなぁっ!」
兄はそう叫びながら赤い右目を更に強く光らせ、全身に純力を巡らせる。すると兄の頭の両サイドから漆黒の角が生えてきた。なるほど、今から本気を出すと。しかし今の言葉は聞き捨てならない。
「お前が、それを言うのかぁあっ!!」
私も兄の咆哮に怯む事なく叫び返した。人の親を殺しておいてよく言えたものだ、狂ってるよ。感情の昂りからか、体内の純力が沸騰するかのように熱くなり、私の額からも二本漆黒の鋭い角が伸びてくる。
そしてついに、本気のタイマン勝負が今始まる。
さて、ここからが問題だ。
ちなみに今回私は分身体を作って来ていない。戦う前から相手が私と同じ六つ星の魔人である事が分かっていたし、それならば私の分身体など相手にもならないため、作るだけ無駄だと判断した。ただ一撃で撃沈しないようにするという一点に重きを置いて、私に備えられる保険は一つしかなかった。だがそれも諸刃の剣。その保険があっても今私が頑張らなければ、いずれバレる。今ここで確実に勝てる方法を再度考え直さなくてはならない。
ただ兄に守られ力を借りていた杏奈と違って、兄本人は間違いなく本物の魔人。今から杏奈に刺さっている包丁を抜きに行くわけにもいかないし、そもそも武器を持って正面から飛び掛かっても体術に秀でた兄には通用しなかった。
まずはあの台風バリアをなんとかしなくてはならない。結局あのバリアがある限り外側からの遠距離攻撃は通用しないし、残念ながら今まで私が習得し解禁してきたモノの中にはあの風に効果がありそうな能力やスキルはないのだ。やはりあのバリアの中に侵入して接近戦に持ち込む以外に方法がないように思える。
‥‥さてどうしたものか。
‥‥ダメだ。
どうしてもまともな方法が思い浮かばない。やはり私にはコソコソと動き回る方が性に合っているらしい。武士や騎士のような真剣勝負では、どうしても私の方が一歩劣る。そんな風に必死で頭を回転させている間にも、兄は純力で日本刀のような形の刃物を作り出し、それを私に向ける。そして兄が翼をはためかせると、急加速しながら切り掛かって来た。
‥‥ほら、やっぱりそうくると思ったよ!
だってさっき言ってたもんね!
剣道もやってたって。
上から振り下ろされた一線は横に飛んで外す。しかし困った。相手はやる気満々なのに私は防戦一方で唯一の武器だった包丁は杏奈に刺してあって今は使えない。他に兄に通用しそうな攻撃手段がない。どうしよう。
もう一本包丁作るか‥‥?
ダメだ、日本刀相手に包丁は弱すぎる。
兄の振り下ろした刃は地面に突き刺さるかと思いきや、手首を捻って素早く刃を反転させると、それは燕のようにして風の刃となって私の方へ跳ね返って来た。
「喰らえっ!」
「あぶっ!?」
何か新しく作るにしても、複雑な物を作るには暇がなさすぎる。作るとしたら包丁以外で単純な物くらいだろうか?‥‥そもそも体格でも私が負けている。力押しの打ち合いになっても私は不利のままだ。それにシスコンの極みなこの兄とて馬鹿ではない。適当に刃を振っているのではなく私の動きを見て臨機応変に対応している。集中していないと、兄が放つこの斬撃の嵐は避けきれない。
感覚は消しているけど体力的にも本当に時間が無い。
‥‥‥‥マジでやばい。
するとスピリットさんが声を発した。
(優蘭様、あの風のバリアには絶対彼自身も知らない攻略法があるはずなのです。優蘭様の柔軟な発想を持ってすれば絶対に見つけられるはずです)
「うっさい!それを今考えてる所なんだっての、何か知ってるんだったら勿体ぶってないで言え!」
(なにも必ずスキルや能力に頼る必要はないのです。アレは高密度、高濃度の純力で作られた風に過ぎない。兄本人がバリアとして使いたいと思ったからバリアに特化しているだけで、構造は意外とシンプルなのですよ)
「簡単そうに言うけど、解禁能力『台風の目』だなんて大層な名前が付けられてるくらいなんだから、そう簡単に何とか出来る代物でも無いだろ」
(そうでもありませんよ)
「そうでもないの!?」
どうやら解禁能力は進化するもので、今回の「台風の目」の場合、まだ何の進化もしていない状態なので、今探せば何かしらの穴を見つけられる可能性は高いらしい。
‥‥それもっと早く言って欲しかったな!
しかしなるほど。どうしようもない怒りと絶え間なく迫り来る攻撃を避けるのに一杯一杯だったが、そんなに難しく考えなくても良いのなら、やりようはある。そう、何てったって純力とは何でも出来る不思議な力だから!
相手のスキルや能力は、自分のスキル能力でしか対向できないと思いこんでいたが、そうでも無い、と分かれば話は別だ。確実に殺す、私がやるべき事はそれだけだ。私は死なない。落ち着いて考えればいつも通りの卑怯な方法も思い付くはずだ。
‥‥えーと。
まず大前提として「台風の目」は風だ。
なぜか兄は私が遠距離から攻撃してくると知っていて、その対策として兄が自らの純力を加えることで本来の「台風の目」から、外からの攻撃に特化した性質の兄オリジナルに作り変えたモノであるという事。外からの攻撃に特化している、ただそれだけの風だ。外からの攻撃を弾く以外の仕掛けは何も無い。
風とは何か?本来の台風は何をするのか?
空気が流れ動く現象で、台風の日に吹く強風は周囲の物を巻き上げ、掻き乱す。兄の台風も、強い風が吹いている。周囲のホコリや粉塵を巻き上げながら。ホコリ、粉塵自体は攻撃では無いので兄は気にも留めない。‥‥だから、吸い込む。
もし吸い込んだものが、ヤバイやつだったら?
‥‥‥思い付いたぁぁあっ!!
ここで私は閃いた。
絶対不可避の最低で最悪な攻略法を。
吸い込むとヤバいものと言ったら、毒ガス、花粉、火山灰だろう。私たち魔人の場合はどれも吸い込んだところで大した影響は無いが、もしそれらに私の純力で作った粉末が混じっていたならどうだろうか?呼吸する上で、しかも風で巻き上げられた物ならば戦闘中に全ての五感を持ってしても回避するのはほぼ不可能。気づく事すらできないだろう。
勿論、仕掛け人の私は無害。
しかも純力消費量自体はそれほど多くない。
‥‥完璧だ。
「おらぁっ!!」
私は、兄が見えない波動の斬撃を放って来たところで高く舞い上がり、瞬時に野球ボールサイズの玉を一度に十個作り出すと、それを兄目掛けてポイポイ投げ付ける。それらの玉はパリンパリンとガラスの様に粉々に割れて飛び散った。
「フンッフンッ!これでも、喰らえっ!」
無論こんなもの兄はサラリと躱わす。
私からの攻撃がただの球投げだった事に、兄は心底呆れた顔をした。
「僕らを倒すなんて威勢の良い事を言っておきながら、最終的にする攻撃がこれか?舐めるのも大概にしろ」
うるさいっ!
私には私なりの戦い方があるんだよ!
本番はこれからだっ!
心の声は口には出さず、今度は地上スレスレを飛んでわざとその割れた破片を撒き散らす。その風によって破片は更に小さく粉々になっていく。ここからはひたすら玉を割って粉々にして、を兄に悟られない様に繰り返す。
「そんなにこの玉が怖いか?」
私はあえて挑発してみる。
この作戦を悟られるわけにはいかない。
「その口を、閉じろ」
すると兄は己が身に纏う純力を更に熱く濃くさせた。この人は思った以上に沸点が低いらしい。そういう所も妹にそっくりだ。兄が手に持つ刃を構えた次の瞬間、兄のいた場所から爆音が響き、刹那その切っ先は私の腹を貫いていた。
「うっ」
速い。速いなんてものじゃない。
あんなの瞬間移動と錯覚するレベルだ。
「‥‥ハズレか」
私の目は優秀だ。だからこそ兄の動きはしっかり捉えていた。だがしかし、ある程度ダメージを受けていたこの体では反応しきれなかった。
「という事は、脳か心臓のどちらかだな」
刃が刺さったままなのはマズイ。私はそのままバックステップして刃をなんとか体から抜く。すると、腹の辺りがジワリと生暖かくなってきたので、咄嗟に服の上からその傷口を片手で押さえた。
‥‥ヤバい。
ヤバいのが更にヤバくなった。
痛覚無感がなければとっくに倒れている。
‥‥これは時間との勝負だ。
「その状態で立っていられるのも変だな。何かのスキルか?まぁなんでもいい。ほら、さっさと君のコアを差し出せ、そうしたら楽してやる」
兄は私の状態を見て哀れなものを見る目で口を開いた。勿論渡さない。
「私はまだ負けて、ない」
「その状態でよく言うよ。ここからどう僕を倒すのかな?」
私が純力で作った玉はすでに全て投げ終え、後はその粉末が兄の体内に入り、血流に乗って全身に回るのを待つだけだ。時間だけ、後は時間を稼ぐだけなのだ。
「‥‥そうか。ならば直接抉り取るだけだっ!」
「うっ!」
先程煽ってから明らかに動きが変わった。今粉末が舞うここから離れる訳にはいかない、避けに徹して耐久戦に持ち込む。痛覚無感のお陰で痛みで体が動かなくなる事はないし、先ほどの速さを見慣れれば何とかギリギリ避けられる。とにかく動き続けろ!
兄の動きを見て、丁寧に確実に避ける。
その間に私は少しでも傷口に純力を回し、止血を試みる。
「逃げ続けても何も変わらないぞ!」
‥‥そうだ、私だけを見ろ。
周りは見るな。
これだけ動いていれば、呼吸もかなりしているはず。
‥‥もう少し、もうちょっと!!
しかし、兄も私の動きの癖を掴みかけていたらしく、私は兄が仕掛けたフェイントに引っ掛かり、その刃は私の首を刎ねあげた。




