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異次元世界征服〜ユグドラシルと五つの世界〜  作者: 鶴山こなん
第一章 『全ての始まり』
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〜第1〜 謎の石

 入学式という大イベントが過ぎ去り、皆が学校生活に慣れて落ち着き始めた今日この頃、学校中全体的に気が緩み初めていて、明るく賑やかな人達が集まる集団や、インドア派で目立たない人達が集まったり、入学当初に比べたら随分とグループのようなまとまりが目立ち始めた。


 それ故にある者は授業中にずっと喋り続け、ある者は学校に持ってきてはいけない物を持ち込んだり、先生方もそんな問題児を抑えるのに苦労している様子が見て取れる。


 やかましいなぁ、全く。


 ちなみに、私は基本ずっと一人なので誰かとはしゃぐ事はない。いつも教室の端っこで静かに読書していたり、皆が嫌がる生き物の世話をしたりして過ごしている。私は先生から見ても大人しくて良い子なのだ。そんな私を見ている先生達から、いつもすれ違いざまに「ありがとう」と言ってくれるのが嬉しい。まぁ、先生達とは反対にいじめてくるヤツらからは、すれ違いざまにちょっかいを出されるのだが。


 放課後、いつもの帰り道。

 空を見ると厚い雲の隙間から光が差し込んでいる。地面が少し湿っていることから、先程までパラパラ小雨が降っていたのだろう。下校の時間までには雨が止んでくれたから、いつも常備している折りたたみ傘を開く手間が省けてラッキーだ。


 帰りはお気に入りの河川敷と川を眺めながら土手をのんびり歩く。河川敷は、鳥、稀にタヌキがいたりして毎回何かしらの発見があるから楽しいし、風も常に吹いているので心地よい。気分が沈んだ時は決まってこの場所に脚を運ぶくらい、私にとっては大切な場所なのである。


 そんな感じで雨上がりのひんやりした風を心地よく浴びながら歩いていた次の瞬間、バンッと突然強い力で背中を突き飛ばされた。


「わっ」


 情けない声を出した時にはもう土手から河川敷へと転げ落ちていた。


 ドべシャッ!


 土手を歩いていた時、私も綺麗な景色に見とれて浮かれていたのだろう、自分のすぐ後ろまでいじめっ子達が近づいて来ていたことに気付けなかったらしい。


 ‥‥‥くそっ!

 私とした事が、不覚!


 運の悪いことに水溜まりにピンポイントで落ちてしまった。


 あーもぉ‥‥‥。

 気分良く歩いてたってだけなのに。


「はぁ、全く‥‥‥プールの時と言い、今といい、アイツらには人を落とす趣味でもあるんですかねぇ?イタタタ、はぁ。ま、歯とか骨が無事なだけマシか」


 芝生を転げ落ちたので特に大きな怪我は無いが、坂の途中に段差があったり、ゴツゴツした石や棘のある草なんかに当たって身体中痛い事に変わりはない。


 やり方が汚いっ!

 正々堂々刃物でも突き立ててくれれば、自己防衛という大義名分の一発拳入れられたのに!


 バッと先程突き飛ばされた場所を見上げても、既にそこにヤツらの姿はない。


 はぁーあ‥‥‥。


 やり返すにも相手がいなければ手が出せない。

 それ以前に、もし奴らにやり返して怪我を負わせたのがバレたら、またお母さんに迷惑をかけてしまう。だから、あれ以来まともなカウンターを返せた事はないのだ。仕方がない。やり場のないこのストレスは後でゲームにて発散するとしよう。


 ‥‥‥立とう。

 そして早く家に帰って濡れた制服乾かさなきゃ。


 よいしょ‥‥‥ん?


 そう思い、立ち上がろうと地面に手を着いた際、指先にカツンと何かが当たった。


 何だこれ‥‥‥?




 それは、一見すると無色透明な宝石のように見える。ぱっと見、中学生の私でも片手で包み込めるくらいの小ささで、砂利と泥だらけのこの場所に似合わず、日光に当たるとキラキラと輝く美しい石だ。ただの宝石ならその辺の人に簡単に拾っていかれそうな物だが、これは泥や砂で薄汚れて目立たず、だから今まで誰にも気づかれなかったのだろう。


 でも、本物の宝石ならこんな所に転がっているものだろうか?‥‥‥見たところ研磨など、人の手は加わっているようには見えない。


 透明な宝石と言うと‥‥‥ダイヤモンド?

 フローライト、オパール‥‥‥。

 泥だらけで分からない。

 そもそも玩具で偽物の可能性だってあるよね。

 うーん?


 しゃがんで、その辺の葉っぱで軽くつつきながら考える。


 それにしても妙だ。ただの透明な石ころというだけでここまで惹かれるものだろうか?私は別に、宝石などのジュエリーに全く興味はないと言うのに。海辺にシーガラスが落ちていても、いちいち立ち止まって見つめる人は少ないと思う。


 こんな河川敷の地味な砂利の中の一つにしては珍しく綺麗な石だったから?


 とりあえず手に取ってよく見てみよう、ハンカチで泥をふき取って、綺麗に洗ってから鑑定屋に持って行って鑑定してもらおう。


 本物の宝石だったら金になるかもしれないしね。

 フフフ‥‥‥。


 そんな下心を持ちつつ人差し指と親指で触れた瞬間、その石は一瞬白く光り、それと同時に触れた指先に激痛が走る。


 ‥‥‥いっ!


 すぐに光は消え、石を見ると触れている指先から石の中に細かい血管が伸長しているのが透けて見える。瞬く間に石は自らの血の色に染まり、今度は虹色の薄い光に包まれた。


 何かを思考する暇も無い。


 石の変化が終わると、今度は触れていた指先に吸い込まれるように石は原型を歪ませ、液体でも気体でもないソレは体内の血管の流れに乗って指先から始まり、その痛みは全身に痛みを広げ、焼けるような痺れとなって体の所々を細かく痙攣させる。


 時間にして一瞬。

 今まで感じたことが無いほどに心臓の鼓動は早く、落雷に打たれたかのように全身が強く痺れている。


 思考が全く追いつかない。

 一体何があった??

 一瞬すぎて訳が分からない。


 肩で息をしながら、働かない頭を動かすにもどこから考えたら良いものか。私は無意識に今だ焼けるような痺れの残っている指先に視線を移す。


 触れていた指先は少し赤くなっているが、手に持っていたはずの石は無い。しかし今、目には見えないが無くなった訳では無い事を私は知っている。痺れが引いてきた手をゆっくり胸に当てると、心臓の鼓動と一緒に、確かに()()を感じる。不思議な事に、今まで体の中には無かった異物を体が受け入れ始めたのか、徐々に全身の痺れは引いていく。


 これが自分にとって良い事なのか悪い事なのかなんて分からないが、予期せぬ出来事が起こったことだけは確かだ。心臓は未だ早く鼓動しているが、それ以外は徐々に痺れも痙攣も治まってきて、息も絶え絶えだったのが今では少し苦しい程度で、これも時期に苦しくなくなると思われる。


 これは絶対病気とかでは無い気がする。病院に行って「なんか寄生されたんですよ!」と言いながら駆け込んだとしても診てすら貰えないだろうし、現物が手元ではなく体内に入ってしまったのならば、もう証拠として見せることも叶わない。


 ‥‥‥どうしようも無い。

 ずっとこうして両膝を地面に付けていても仕方がない。それにちょっと身体がダルくなってきたし。


 気を取り直すために、一旦目を閉じてゆっくり五回深呼吸をして体に酸素を取り込む。酸素が体に染み渡ったとしても、分からない事には変わりない。そんな自分の口から出た言葉など「なに?今の?」しかなかった。




 先ほどの謎の石による痛みや痺れはなくなり、少しダルさが残るだけとなったが、元々土手から転げ落ちた時の傷や痛みはそのままだ。しかし、私はこれより酷い痛みを知っている。学校の階段で頭から落とされた時よりはマシなので、問題なく家までは辿り着く事はできた。


 早速家に入ろうと扉に手を伸ばすが、その扉を開ける前に今回のいじめによる被害チェックをする。私のお母さんはとても過保護で優しいので、毎回玄関まで出迎えに来てくれるのだ。私は週一で何かしら怪我をして帰るので、心配かけまくりなのである。


 ‥‥‥いじめに関しては気にしなくても良いんだけどねぇ。


 中学なんて三年間普通に真面目に過ごしていれば成績には響かないし、私が恐れている事は怪我をする事よりも進学など普通に一般的な生活が出来なくなることなので、いじめられようが何されようが耐えればOK。奴らは愚かだが、人を殺す程馬鹿ではない。


 まぁ、正当防衛とかハッキリした大義名分があれば一発殴るくらいしたいけどね?


 そんなこんなで、いじめられた日は決まって家に入る前にこうして見た目の酷さ加減でお母さんにする言い訳や、後で自分でやる服の修繕部位の確認をする。


 ‥‥‥ふむ。


 制服は結構しっかりとした布でできているらしく、汚れた以外に問題はない。ワイシャツは少し擦り切れてしまったが、これも縫えば大丈夫。服以外だと、肌の出ている手や顔、膝下なんかは擦り剥いたり葉っぱや棘で切ったりしていて所々血が滲んでヒリヒリするが、これも消毒して絆創膏貼れば良いだろう。


 よし、問題なし!


 無傷同然の私は、普通に「ただいま」と言って扉を開けるが、今日はお母さんの出迎えはない。そういえばこの時間はいつもパートに出ているんだったか。私がずっと小さい頃にお父さんが亡くなり、それからずっと、私とお母さんはこのアパートで二人暮らしをしている。


 お母さんが不在なのは好都合。

 今のうちに服を洗濯して傷の手当てを済ませてしまおう。


 私は、自分の部屋に戻ると荷物を下ろし、部屋着に着替え、汚れた制服を洗い、ベランダに干してから、大きめの傷口だけ絆創膏を貼った。細かい傷は洗って消毒さえしていればすぐ塞がるので、これで終了だ。ワイシャツは、乾いてからやるので今は放置で良い。


 ふぅ、とりあえず今やれる事は終わった。

 今やるべき事を全てクリアした事で暇になる。


 ゲームでもしようか‥‥‥。

 あ、そう言えばこの間買った漫画をまだ読んでない!


 服が乾くまでの暇つぶしに漫画を読む事にした私は、机の上に置いてあった漫画を手にベットに腰掛ける。すると途端、今までの比ではない猛烈なダルさと痺れが全身を襲った。先程と違って、新たに追加された頭痛と発熱も合間って漫画を読むどころの話ではない。鼓動も早くなり、胸が、心臓が猛烈に熱い。


「うぅ‥‥‥」


 このタイミングを測ったような突発的なこの症状、絶対に病気とは何か違う。原因は明らかに先程触った謎の石なのだろうが、この状況で一体どうしろと!?


 もうだめだ。ダルすぎて頭が働かない。

 私は倒れるようにしてベットに横たわった。

 幸いにも明日から休日で学校はないし予定もない。

 

 ‥‥‥よし、寝よう。


 人間が体調を崩した時にできる事なんて寝るくらいしか無い。突然の事で持っていた漫画を床に落としてしまったが、それを拾うのも億劫だ。


 私は全身の力を抜いてゆっくり目を閉じると、意識はすぐに深い闇の中へと沈んでいった。

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