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異次元世界征服〜ユグドラシルと五つの世界〜  作者: 鶴山こなん
第一章 『全ての始まり』
17/28

〜第16〜 帰宅

 遠い北海道から全速力で飛ぶこと数時間。

 久しぶりの我が家である。


 ハァハァ、ものすごく疲れた‥‥。

 墜落ギリギリセーフ‥‥‥。


 家に到着したのは夕日が完全に隠れる手前。重くダルい体を頑張って動かし、普段より重く感じる自宅の扉を開けると、いつものようにお母さんが出迎えてくれた。本体である私にとっては久々のお母さんとの再会だ。すごく安心する。


「おかえりなさい」

「‥‥‥ただいま」


 お母さんの顔を見て安心したからか、危うく全身の力が抜けそうになる。しかしこんなところで倒れたらお母さんを困らせてしまう。お母さんの前では疲れなど微塵も感じさせないように振る舞わなければならない。お母さんから見れば、私はいつも通りのお散歩から帰ってきたと思われているはず。だからいきなり倒れてその理由を問われても「日本全国、津々浦々旅してましたぁ」なんて答えられる訳がない。


 意地でも自力で寝床に行くぞ!

 ‥‥‥でもなんだか、段々全身が痺れ始めてきたな。


この凄まじいダルさと睡魔から察するに、これはいつもの進化をする前兆だろう。旅の疲れと相まってかなりキツイ。眷属作りの際、沢山純力玉を作って血を大量に消費したため貧血だから尚更だ。


 玄関で靴を脱ぎ、自室に向かおうと廊下を歩く際、心配そうに私を見ていたお母さんがスンスンと私から漂う海の香りに気が付いたらしく、不思議そうな顔をして首を傾げていたのが見えた。


 ここまで出来たら後は寝るだけだ。寝る時間としては普段より早いがまぁいいだろう。お母さんに夕飯はいらないのか心配そうな顔で聞かれたが、お腹は減ってないから明日食べる、と言ってラップをかけて保存してもらう。


 自室に戻り、さぁベットにダーイブ!久々にフカフカで暖かいベットに倒れる様にして横になる。そして目を閉じると共に私の意識はスっと闇へと消えていった。




 夢を見た。


 以前、灰翼悪魔青年の記憶を見た時と同じ様に、今回は昨日倒したジャックの記憶だ。白い霧が辺りを包み、霧が晴れるとそこは薄暗い裏路地。ジャックは何やらカメラ片手にコソコソと物音を立てないよう物陰で静かにうずくまっている。


 ‥‥‥何してんの?


 ジリジリと少しずつ物陰から物陰へ移動していき、ジャックが止まったのは錆だらけの古いトタンでできた小屋の前。ジャックは壁に空いた小さな穴からそーっと小屋の中を覗き込む。中には柄の悪そうな全身タトゥーだらけのイカつい大男と青年がいた。


 そのまま見ていると青年がタトゥー男にお金を手渡した。お金を受け取ったタトゥー男は満足そうに頷きながら青年に小さめの袋を手渡す。よく見てみると袋の中には注射針と白い粉が見える。


 これは‥‥‥違法ドラッグの売買現場!?


 私が気が付くと同時にジャックはカメラを構え、素早い動きでシャッターを切り二人を撮らえると、来た道を「HAHAHAHA!」と笑いながら猛ダッシュでその場を逃走。その時のジャックは不思議な高揚感とスリル感に興奮してアドレナリンがドバドバ出ていそうなテンションだった。


 また霧が掛かって場面は切り替わる。


 ジャックは警察の人に頭を撫でられている。そして彼の両親と思わしき男女は彼の事を誇らしそうな目で見つめていた。ジャックは違法ドラッグ密売現場を収めた写真を警察に渡し、それが証拠となり密売人やその関係者を捕まえる事が出来たらしい。彼はこの時には既に記者として立派に活動していたのだ。


 これがきっかけでジャックは学校でモテモテ。顔も綺麗なので女の子がホイホイ近寄って来る。私がこうして見ている間も、彼の口角はずっと上がりっぱなしだった。


 霧がかかり、場面が切り替わる。


 ジャックの薔薇色学園生活は卒業を迎えると共に終わりを告げた。モテモテ生活が終わるとジャックは仕事を探す様になる。しかし、どういう訳か仕事はなかなか見つからない。どうやら学生の時に知り合った女の子の誰かに妙な難癖を付けられて仕事探しを妨害されているらしい。


 まぁ、あれだけ沢山の女の子達と遊んでいたら、一人や二人くらい恨みを買っていても不思議はないと思う。


 ‥‥‥モテる男も苦労する時があるんだね。


 今回のジャックは、心無しか少しゲッソリしている様にも見えるし、学生の時と違って全然笑わない。とぼとぼと冬の雪降るニューヨークの夜道を歩いている彼は、疲れ切っている顔をしている。


 そして、遂にその時が来た。


 彼は、小さなゴミの山の中に紛れ込んでいる透明な謎の石を見つけ、それに見入られ触れたジャックは異世界の力を手に入れたのだった。


 それからのジャックはすごかった。

 自分の体が驚くほど強くなり刃物も銃弾も効かないと分かるやいなや、自ら怪しい組織に近づくと、捨て身にも近いやり方でマフィアというマフィアに突っ込んで行った。それはもう楽しそうに。


 やり方が過激で目立つものだから、当然警察沙汰になる程の大騒ぎになる事も少なくないが、その度に彼は無傷で生還。その後はポリス達にマフィア組織の情報を提供したり、それ以外の活動になると街の治安維持に務めるなどして街全体に多大な貢献をしていく。そして、いつしか彼は正義のヒーロー「ジャックマン」なんて呼ばれる様になった。


 霧が掛かる。


 ジャックマンと呼ばれる様になってから数年経つと、彼は表社会だけでなく裏社会でも有名になっていた。


 ここ数年、彼は数々のマフィア組織に突撃を繰り返し、パッと見もう怪しい組織は無くなったかに思えたが、現実はそう甘くない。一流ジャーナリストである彼でも、流石に彼一人の力では情報を掴むことが難しくなってしまったのだ。


 場所が分からなければ突撃したくてもできない。


 彼が行きつけの酒場で、その問題を解決出来ずに頭を抱えていると、スッと静かに彼の隣に座る人物がいた。その人物とは、以前彼に命を救われたと言う女性だった。話し相手を見つけたジャックは酒の勢いで自分の抱える悩みを打ち明ける。するとその話を聞いた彼女は、とある提案をした。


「もう表社会だけで情報は集まらないわ。なら、今度は裏の住人に頼れば良いのよ」


 そしてなんやかんやあり、裏社会で知り合った者達や情報提供してジャック本人に恩のある者達の人脈やコネを最大限使い、彼はハッキング組織との繋がりを得た。その組織のアジトの壁には大小様々なモニターが設置されており、なんだか悪巧みしてそうな胡散臭い政治家っぽい人までいる。ジャックは早速札束がぎっちり詰められたアタッシュケースを彼らに開けて見せると、早速何か取引を始めた。


 そうして、このような優秀なハッカー達と手を組んだことによって、彼の元には今まで以上に凄い情報から大した事ない情報まで簡単にポンポン手に入る様になったのだった。画面に視線を戻すと、それぞれ何処かの道や誰かの家の中まで色々映っている。プライバシーもへったくれもない。


 ははぁ〜なるほど、そりゃ見つかる訳だ。


 ジャックが私を見つけた理由が判明したところで、ジャックは画面の一つを指さした。そこに写っているのは夜中コンビニでプリンを買ってご機嫌な私だ。彼は私を写した写真やら動画から、住んでいる国や住所、そしてその時買ったプリンの製造会社まで、私に関する事は何でも細かく調べあげていく。


 ‥‥‥プリンの情報いるかコレ?


 そして彼は私の元に辿り着いた。

 あとは知っての通り、ジャックは私の分身体を殺したことで、本体である私の怒りを買い、その反撃として不意をつかれ命を落す。


 そして、私は目を覚ました。




 目覚めると、眠る前まであった体のダルさと痺れはスッキリと無くなっており、上体を起こしてひと息ついた所でスピリットさんの声が頭に響く。


(おはようございます優蘭様。彼を倒した事で、彼の経験値や純力をそのまま吸収する事ができました。そのため、優蘭様は二つ星から三、四、五を大きく越えて現在六つ星となっています。以前とは比べ物にならない程に何倍も力が増しているでしょうし、体の方も完全体に近づいた事で全体的に非常に強くなっている筈です。以前の体とは全くの別物ですから、一度何処かで身体の調子を確認してみた方が良いかと思います)


 そうスピリットさんからの報告を聞いた私は、視線を下げて両手を見つめた。


 ‥‥‥うん。言われてみれば確かに身体の調子が良くなっただけでなく、純力の方も体中の巡りが良くなっている気がする。漫画でよくある「力がみなぎって来た!」というのはこういう状態の事を言うのだろうか?


 それに、二つ星だったのにいきなり六つ星だって??


 いくら何でもそれはちょっと飛び級しすぎじゃないか?とも思ったが、それだけジャックは力を溜め込んでいたという事なのだろう。


 今までの経験上、ランクが一つ上るだけでもかなりの変化がある。それなのにいきなり二から六にランクアップしてしまったら、自分でもどれほどの力が増したのか想像もつかない。これまでのような使い方ではダメかもしれない。普通の人間相手に触る時など、手加減を知っていないと無駄に傷付けてしまう事になりかねない。


「そだね、後で河川敷に行って色々試してみようか」


 起きたばかりで頭が働かない。

 部屋のカーテンを開くと外はまだ薄暗い。空は暗い紺色から薄い黄色のグラデーションで、ちょうど太陽が顔を出したくらいだろう。今回はそれ程長い時間寝た訳では無さそうだ。軽く伸びをしたりして体を慣らしたあと、自室を出て顔を洗いに洗面所に向かった。


 洗面台の鏡で自分を見る。見た目は本当に普通の人。しかし中身は「純力」と言う凄まじい力を扱う魔人だ。朝早くてお母さんが起きて来るのにはまだ時間がある。チラッと魔人モードになって目の色やら、変化しているであろう所を確認するくらいは出来るだろう。


 私は目を閉じて体に純力を巡らせる。


 左目は鮮血の赤、猩々緋色に変わっており、普通の人が見たら背筋が凍りそうな威圧感がある。


 ‥‥‥なんか鬼みたい。


 体も見ておこうと左袖を肩の辺りまで捲った。そしてほんの少し純力を流すといつものように白く淡く光る筋が浮かび上がり、爪は尖っている。しかし以前とは少し違うようで、肩から指先まで左腕全体が真っ黒に色が変わっている。触り心地も普通のスベスベ柔らか肌とは違い、滑らかでスルスルとした感触だ。純力を流していない右手も捲って比較してみると、変化した左腕は完全に人間の腕には見えない。完全に鬼の手、と言うに相応しい見た目をしている。


 わぁお、腕が真っ黒になったよ‥‥‥。


 顔を上げて鏡で自分の顔を見ると額から二本黒くて細い角が生えていた。その角にも純力が流れているらしく、光る筋が伸びている。頬にも鎖骨から目元にかけて光る筋が伸びていた。


 ‥‥‥これはアレだ。

 傍から見たら完全に鬼か悪魔を連想させる見た目だ。


 以前と比べてかなり人外感が増しているし、うっかりこの姿を見られたりでもしたら即銃口を向けられそうだ。絶対に見られてはいけないっ!


 私は魔人モードを解除して人の姿に戻すと、自室に戻った。


 自室に戻った後暇になったので、私は二度寝をするべく再び寝床に横になる。しかし、もう完全に目が覚めてしまい全然眠れそうにない。スピリットさんには、朝食前の運動などいかがですか?と朝の散歩を勧められたが、それは却下だ。


 ‥‥‥久々にお母さんのご飯が食べたい。


 昨日は進化の合図である全身の強烈な痺れや倦怠感、加えて猛烈な睡魔に見舞われ、食事する余裕がなかったために夕食を食べ損ねたのだ。日本全国津々浦々旅をして美味しいものは色々食べたつもりだが、たまにお母さんのご飯が恋しくなる事もあった。


 昨日の残り物と朝ごはん、両方食べるんだ!




 今、私はスキップをしながらいつもの河川敷に向かっている。久々にお母さんのホカホカご飯を味わえたので非常に幸せである。いつどこで誰が襲って来るのか分からない危険な状況だが、こんな時くらいルンルン気分でいてもバチは当たらないよねぇ?


 程なくしてお気に入りの河川敷の橋の下に到着。


 まず何をしようか?

 とりあえず久々にこの辺りに住む眷属達を呼んで話を聞いてみよう。私の進化に伴ってなにか変わった事の一つや二つあるはずだ。私は、人が周りにいない事を確認してから大きめの声で呼びかけた。


「みんなぁー!おいでー!」


 程なくして草むらから、木の上から、物陰から色んな所から十匹程出て来てくれた。皆私と久しぶりに会ったので、それぞれ嬉しそうに声を掛けてくれる。動物達は次第に数が増えてきて、ちょっと騒がしくなってきた。


 今回は一応何か変化や被害などの話がしたいので、一度皆に聞き耳を立てて欲しい。私が少し注意をしようと「あ、ちょっと」と言いかけたところで、私と動物達との間にふわりと大きな鳶が舞い降りて来た。


 あれ‥‥‥!?

 それにしてもデカくない?


 とても大きな鳶が舞い降りて来る様子を見て、皆は一斉に口を閉ざす。


「アルジ様を困らせテはいけまセンよ」


 そう言って鳶は私に向き直ると、皆を代表して頭を少し下げ、挨拶の言葉を述べてくれた。


「アルジさま、ご無沙汰しテおりマス。先程は皆が迷惑をかけてシマイ、申し訳ありマセン」

「だ、大丈夫だよありがとう。君も皆も元気そうで良かった」


 鳶君のおかげでようやく落ち着いて皆と話が出来る状況になった。私は早速皆に私が進化した事による被害や変化がないか質問した。するとやはり皆身体に異変があったらしく「体が前より丈夫にナったヨ!」「毛が輝くようなステキな色になりましたワっ」などなど、良い意味での変化が多いようだ。


 確かに皆をパッと見た時一番に気付いた事は、身体の大きさが一回り大きくなっていたり、体の一部が銀色や金色に変わっていた事だ。その中でも一際目立って分かりやすかったのは、私の側に控えているこの鳶君だろう。最初に見た時よりも遥かに体が大きくなり、貫禄を感じる。この地域の主になっているようだ。


 私が強くなるに伴って他の眷属達も強くなっているのを知ると、友達として嬉しいものがある。また化け物になってしまったと少し不安な気持ちになっていたが、こうして喜んで感謝してくれるこの子達を見ていたらそんな気持ちも薄れてきた。


 しかし、それでもどうしても気になる事がある。


 今そばに居るこの子達、そこら辺にいる普通の生き物と比べたらめっちゃデカいのだ。通常の個体より頭五個分の差がある。これだけ大きいと普段狩りをして生きている彼らにとっては不利だし、体の一部が銀色になっていて、光に照らされるとギラギラするので尚更目立っている。


「大きくなって、目立って不便だと思った事はない?」


 私が問うと彼らは「全然?」「全く!」「これっぽっちモ!」と元気よく答えてくれた。理由は彼らを代表して隣に居る鳶君が答えてくれる。


「主よ、我ラは主が強くナられたと同時に、主のお力の一部を授かったのです」

「力の一部‥‥?」

「自分の気配を消シ、相手に見つかリずらくする術デス」


 自分の気配を消して、相手に見つかりずらくする‥‥‥。

 『認識阻害』か!


 私は鳶君の頭を撫でるついでに彼の脳裏に焼き付く能力や記憶を覗かせてもらう。


 ‥‥‥あ、ホントだ。

 確かに「認識阻害」という文字が見える。


「ここにいる皆、その見つかりずらくする術が使えるの?」

「ソだヨ!」

「前よりモ人間の食べ物をくスねるのがラクになりまシたワん」


 ‥‥‥何やら前よりもイタズラしやすくなったと教えてくれる悪い子も居るみたいだが、そこは「コラコラ!」と少しの注意だけにしておく。


 術が使えるようになった事以外に何か問題はなかったか聞いたが、それ以外は特に無いそうだ。カラス君によると鳶君の指導の元、強くなり出来ることが増えた彼らは普通の動物達を悪い人間から守る活動を始めたらしい。


 他にも頭も賢くなっているため新しい食べ物の探し方を模索中だったり、意外とこの状況を楽しんでいるようだった。


「そっかぁ、私のせいで皆に迷惑かけてるんじゃないかって心配だったけど、そんな必要なかったね」


 動物達は皆優しい。

 私がこの中でいちばん強く、主として君臨しているから従っているのではなく、本心から親しみを込めて接してくれているのが分かる。


 ‥‥‥私が死んだらこの子達も道連れにしてしまう。

 これは何が何でも死ねない。


 死にたくない理由がもう一つ増えた。

 恐らく、今生き残っている私以外の魔人達はとてつもない強者のはず。最終的に生き残れるのは一人だけ。ならば、今は自分の新しく強くなったこの身体に慣れなくてはいけない。


 今出来る事を精一杯やる!

 さ、まずは準備体操からやろう!

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