〜第15〜 日本全国トモダチ作りの旅(後編
「ありがとぉございましたー」
念願の本場の沖縄そばを食べ終え満面の笑みで店を出た。豚骨の出汁がよく沁みてて実に美味だった。この戦いのほとぼりが冷めたらまた来よっと。そう一息ついて、私は森に向かって飛び上がる。実は、沖縄を最初の目的地にしたのには二つ理由があるのだ。
理由一つ目。絶滅危惧種ヤンバルクイナに会いに行くためだ。絶滅危惧種、知っての通り絶滅寸前の生き物の事を指すが私に力を分け与えられた生き物は寿命、体力、知能、などが大幅に上がり簡単に死ななくなる。車に轢かれてもイタズラされても完全ミンチにでもされない限り死ぬ事はない。今ここでヤンバルクイナ君を眷属にしておけば、少しでも絶滅の危機から救えるのではないかと思ったのだ。
そして理由二つ目。土地の主を作る事だ。これは眷属が沢山増えてきて気付いた事なのだが、1つの地域にこの様に強く賢くなった動物が複数存在していると、リーダー的な個体が必要になる。眷属になった生き物達は人間以外の生き物となら種族関係なくコミュニケーションが取れるようになるが、そうなると無秩序状態となり他に悪い影響を与える危険性がある。そこで、地域ごとにそれらを取りまとめる主の存在が必要になる。
それを踏まえてヤンバルクイナは、ここ沖縄の生き物で有名な生き物は?と聞かれたら、皆が口を揃えてヤンバルクイナ!と言うくらい有名な鳥だ。沖縄を代表する生き物に相応しい。この子には是非この沖縄の地の主になってもらいたい。‥‥‥というのは建前で、本音はただ沖縄にしか存在しないと言われているヤンバルクイナ、せっかくだから一目くらいは見てみたいじゃん。
そういうわけで、私は千里眼でヤンバルクイナを探す。割とすんなりヤンバルクイナを発見する事が出来たので、ここから一番近くのヤンバル君の元へバビューンとひとっ飛びした。
程なくして対象を視認したので静かに降り立ち、翼はしまって徒歩でゆっくり近づく。向こうもこちらに気付いているが、けれども警戒している様子は無い。私は やぁ、と声を掛けるとヤンバル君は目を丸くしてその場に固まってしまった。
そうして手の届く範囲まで近づくと、優しく撫でながらヤンバル君を安心させる。大人しく撫でられ、緊張が溶けたのかヤンバル君が目を細めて気持ちよさそうな顔になる。その様子を見て私はいつもの純力玉を与えて頭を撫でながら目覚めさせた。
「アナタはダレですか?」
「私はただの生き物好きな人だよ」
話が出来るようになり緊張が解けると、今の気分やらいつもの生活やら色んな話をしてくれた。そして暫く話をした後、ヤンバル君は私に感謝を伝えてサッとその場を立ち去った。私も沖縄でやりたい事は全てやったので、そろそろ他の地に移動しようと思う。
そして私は、本土に戻るためまた飛んだ。
本土の地に降り立った頃にはすっかり日は落ちていて、辺りはすっかり暗くなっていた。普通ならここで宿に泊まったりする必要があるのだろうが、私は夜目が効くのでそんな事は気にしない。逆に人目が少なくなる夜が一番動きやすいのだ。全回復した私はこれからほぼ睡眠なしのノンストップで眷属を増やす旅をする。
そんな感じで、県から県に移動する度に動物たちに呼びかけ眷属を作って回った。旅の間は特に目立った問題も発生せず、二日かけて西日本の地域全てに眷属と主を作ることが出来た。
うん、順調だね。
分身ちゃんもいつも通り過ごしてくれてるみたいだし。
と、思いきや。
この旅もいよいよ後半に差し掛かったところで、分身ちゃんから念話で連絡が届く。
「魔人三人を瞬殺した強い魔人がいる。本体も警戒してね」
「え、何それこわい」
どうやら、三人とも同一人物に殺されているらしい。千里眼で死因を確認したくとも、毎回途中で真っ暗になって見えなくなってしまうのだそうだ。本気で認識阻害をフル活用してコソコソ旅をしている私はともかく、少し分身ちゃんが心配だ。
とはいえ、今の私がするべき事は決まっている。出来る限り沢山の眷属を作って情報網を広げつつ、他の魔人に見つからない様に認識阻害をフル活用して身を隠し続ける。もしかしたら分身ちゃんが倒してくれるかもしれないし、私はこのまま出来る限り余計な事はせず静かにしているしかない。この調子で情報網を広げて行けばきっと何かの役に立つだろうし、まだ生きている魔人についても何か情報が掴めるかもしれない。
さて、残りの東日本にもバリバリ眷属を作っていこう。私は引き続き眷属を作るため、あちこち飛び回った。
眷属作りもいよいよ大詰め。私は北海道の函館に舞い降りた。
ふぅ、ここ二日間ノンストップで飛んで来たから流石に少し疲労を感じる。青森から津軽海峡を越える際に結構な純力を消費した。ここらで少し休憩を挟んでも良いだろう。眷属作りで結構な数の純力玉を作ってきたため、また少し貧血気味でもある。所持金もまだ少しあるし丁度いい。軽く食事をして近くの格安ネットカフェで一日過ごした。しれっとこの辺の生き物達も眷属にしておく。
丸一日休めた事でしっかり回復できた。
貧血の方も治ったので体調はバッチリ。
これで広い北海道を飛び回っても大丈夫だろう。
さぁ、張り切ってラストスパート頑張ろう!
‥‥‥次はどこに行こうか?
北海道は人里よりも山や山脈のような自然が多く、一度呼べば一気に五十匹以上来てくれる事もあった。途中行ってみたかった十勝に寄り道してアイスを食べたり、牧場にいる動物達と少し触れ合ったりした。
そして楽しい日本友達探しの旅もここ知床でラストだ。知床は滅多に人間が立ち入らない日本では数少ない本物の生き物達の楽園だ。携帯も圏外になってしまい使い物にならない。そして、私が森林の中で動物達を呼ぶと沢山のヒグマやシカ、シマフクロウなどの生き物達を眷属にした。
はぁ、終わった‥‥‥。
森林から離れて海辺に移動すると、根室海峡を眺めながらの岩の上でお弁当を食べながら余韻に浸る。こんなに沢山の動物達と触れ合い、充実した旅が出来るだなんて誰が想像出来ただろうか。これはもはやご褒美旅だとも思えて来た。はぁ、と溜息をつくと何処からともなくピーッ と何かの鳴き声が聞こえて来た。
‥‥‥鳥かな?
言葉として聞き取れないので、私の眷属になっていない動物の鳴き声である。だとしても必ず眷属にしなければならない訳でもないし気にする必要は無い。気にせずモシャモシャとお弁当のご飯を頬張ると、また同じ声が聞こえて来る。今度は割と大きめの鳴き声で私に向けて感情を飛ばして来ている事に気が付いた。
ん、誰だ‥‥?
お弁当を急いで食べ切ると、声の主を探すために私を中心に球状に純力を巡らせる。すると私が立っている岩から少し離れた海岸ギリギリの位置に反応がある。視線をそちらに向けると、そこには二頭のシャチがいた。この旅で一番の驚きだ。
しゃ、シャチ!?
え、シャチって日本に来るんだ‥‥。
こんなに海岸スレスレに近づいて、打ち上げられてしまったらどうするつもりなのか。シャチはまた私に向かってピーッと鳴いた。
‥‥‥もしかして呼ばれてる?
翼を広げてシャチの近くの岩に飛び移る。私が近くに来ると二頭は頭を出してフンフン潮を吹く。何か伝えている様にも見えるが、このままでは感情しか伝わらない。私は、話ができる様に純力玉を二頭の口に放り込むと、少しして二頭の言葉が分かるようになった。二頭は焦って藁にもすがる思いで人間である私に助けを求めていたらしい。
「キテ!助けテ!」
「どしたの?」
「ナカマが、陸に!」
そう言って泳ぎ始めた二頭に着いていくと、また少し離れた海岸に一頭の若いシャチが陸に打ち上げられていた。胸ビレと尾ビレをバタバタとさせて頭の上の呼吸孔をフンフンさせて苦しそうにもがいている。ずっともがき続けていたのだろう、所々擦りむいてお腹の白い肌が血で赤くなっている。
「ありゃま、可哀想に」
人間が近づいてきたことに気付いて、更に焦って暴れ始めた。それを見て二頭は打ち上げられないよう気を付けながら、心配そうに私と苦しそうにもがいているシャチを見守っている。
ほぉーい!っと力任せに海へ放り投げる事も出来るが、出来るだけ優しく海に返してやりたい。私はドウドウ、と落ち着かせるために頭にそっと手を置いた。表面は硬めのゴムのようで湿っていてツルツルしている。少しの間優しく撫でながら純力を少しづつ流し、傷を癒した。痛みが和らぎ私に敵意が無いと分かったシャチは、大人しく私にされるがままになる。
程なくして傷は消え、落ち着きを取り戻した様子を見てそろそろシャチを海に返す時が来た。ここから波打ち際までの間に大きめの流木がある。これが邪魔して海に帰れなかったようだ。私は流木を持って邪魔にならない所にどかす。あとは普通に海までシャチを転がせば良い。
よいしょよいしょ、とシャチは大人しく転がされ、シャチの体が半分以上水に浸かった所で軽く押してやると、シャチは尾ビレを動かして泳いで仲間の二頭の元へ無事戻る事が出来た。見守っていた二頭のシャチは、仲間が無事に帰って来れた事に安堵して私に感謝を伝えると、足早に沖に消えて行った。
シャチという大物と話ができる様になったんだ。折角ならもう少しくらい話をしたかったが、野生に生きる彼らを無理に引き止めることは出来ない。今回は野性のシャチに触れられただけで十分貴重な体験である事に変わりは無い。
うん、仕方ない仕方ない。
うんうんと頷き、岩場に置いたままの荷物やお弁当箱を片付けると、突然頭にピリッと痺れが走り、それに続けてスピリットさんの声が響く。
(分身体と敵が接触しました)
‥‥‥遂に見つかってしまったか。
私は眉間に皺を寄せ、千里眼で分身ちゃんの目を通して状況を確認する。
‥‥‥うわ、相手四つ星か。
格上だなぁ‥‥。
分身ちゃんは全速力で逃げて距離を稼ごうとしている。速さは分身ちゃんの方が早いようで、敵から少しずつだが距離を離していく。そのまま行方を眩ませられればいいが、そうは問屋が卸さない。分身ちゃんは突然止まった。いや、止められた。いつの間にか分身ちゃんの肩に手が乗せられている。
やっぱり振り切るのは難しいよな‥‥。
なんとか男の手を振り払うと、少し距離を離して分身ちゃんは臨戦体制をとった。逃げられないと判断したらしい。敵は四つ星、私は二つ星。その場に居るのは本体である私ではなく分身体だ。見た目は二つ星でも、本来の力は本体よりも少し劣る。
‥‥‥これは、ほぼ確実に分身ちゃんが壊されちゃうね。
私はそう悟って悲しい気持ちが胸に溜まってくる。そうして小さく溜息を繰り返していると、分身ちゃんと男が会話を始めた。
ふむふむ‥‥‥ん、なにぃ?!
ハッカー集団を雇って夜中コンビニに行っている所を見つけただと?戦犯は私だったか‥‥ホントごめん、分身ちゃん。
そして戦闘が始まった。
ジャックは空中に無数の水玉を作り出し、それを分身ちゃんに当てようとしている。しかし分身ちゃんとて動きは素早い。飛行時の癖もそのままで分身ちゃんはトリッキーでキレのある繊細な動きで、巧みに攻撃を躱していく。そしてしばらくそのやり取りが続くと、余裕に満ち溢れていたジャックの表情はみるみる焦りの色に変ってきた。すっかり余裕の色が消えたジャックが『深海雨』と叫ぶと、先程とは比べ物にならないほどの無数の水玉を作り出し、勢い良く分身ちゃんに飛ばしてくる。
あぁ‥‥これは避けきれない。
なんとか攻撃を避け続けていた分身ちゃんも流石にこの数では避けきれず、遂に攻撃が当たってしまった。攻撃が当たった途端目の前が真っ暗になり見えなくなった。分身ちゃんも他の奴らと同じ手に掛かってしまったらしい。
真っ暗になったとしても分身ちゃんがまだ死んでいないのは、本体である私と分身ちゃんとの繋がりが切れていないので分かる。しかし千里眼で見ているだけでは状況が全くわからない。私が腕を組んでムムムと心配に思っていると「ごめん」と分身ちゃんから念話が飛んできた。
分身ちゃんっ!!
念話ではあるがそこには少しの悲しみと焦り、悔しさなどの感情が含まれている。分身ちゃんは焦っている様な声色で言葉を続ける。
「ごめん、この身体壊れる」
「今どうなっているのか説明できそう?」
「うん、どうやら深海に飛ばされちゃったっぽいんだよね。ジャックの技って相手を深海に飛ばすものらしい。それで、スピリットさんに聞いたらここ水深八千メートル辺りだって。水圧強すぎてもうすぐ身体強化に使ってた純力切れて死ぬわ」
‥‥‥深海??
そうだったのか、どおりで何も見えないはずだ。
だが‥‥‥今となってはそんな事どうでも良い。
悲しみで冷たくなっていたのが、今は怒りで沸々と熱くなってきた。分身ちゃんは当初の目的通りヘイトを集め、私の代わりに戦いそして死ぬ。そのお陰で敵の情報を得る事が出来て私の役に立ってくれた。計画通りだ。
‥‥‥でも、でもだ。
これ、物凄く悲しいじゃん。
だって、私の子供同然の分身ちゃんが壊れてしまうのだから。分身ちゃんに私の感情が伝わったのか戸惑ってしまった。
「え、なんで怒ってる?あ、もう少しジャックにダメージ与えられたら良かったかな」
ハッと我に返った私は少し落ち着いて「分身ちゃんのせいじゃない」と首を横に振る。
「分身ちゃんは何も間違えて無いよ。私の代わりに普段の生活を過ごしてくれて、戦ってくれて、今敵の技がどういうものか情報をくれた。完璧だよ。それにジャックと私ではランク的にも大きな力の差がある。元より勝てるだなんて思ってない。私が怒っている相手はジャックの方だよ」
それを聞いた分身ちゃんは安心した様に少し笑うと、音声がブツブツ途切れ始めた。分身ちゃんの純力が間も無く底を付くのだろう。分身ちゃんは最後に一言声を出す。
「もう時期私は死ぬけど別に怖くないよ、だってまた作ってくれるの分かってるから」
またね、と言うと次の瞬間パチンッと分身ちゃんとの繋がりが切れ、スピリットさんからも(分身体の死亡を確認しました)と静かな声が頭に響いた。
‥‥‥絶対許さん。
私はカッと目を見開くと同時にジャックを千里眼で探す。奴を見つけるのに時間は掛からなかった。分身ちゃんと戦っていた上空、その場にとどまっている。私は今いる場所から少し開けた場所に移動するとジャックがいる方角を向く。
‥‥‥んんっ!?
何と呑気にスマホを見つめているではないか!
つくづく腹が立つ。でも、やるなら今のうちだ。
実はジャックから遠く離れたこの場所からでも攻撃出来る技を私は持っている。分身ちゃんを倒したと思って気を抜いている今のジャックは隙だらけだ。分身ちゃんが作ったこの機会、無駄にはしない。
私は純力で大きな弓を作り、矢には多めに血を加える。ここ北海道から遠く離れたジャックの所まで矢を届けなくてはならない。弓に更に力を流すと、体に光る赤い筋が服の上からでも透けて見え、その光の筋は指先まで到達する。怒りの感情が乗っているためか更に力が上乗せされていく。
左手で弓を握り右手で矢を引き絞りながら腰を低くし、右脚は地面に膝をつく。バチバチと電気の様なとてつもないエネルギーが火花を伴って矢に凝縮されていく。最大まで凝縮された矢は静かになり、淡く芯のところが光を帯びてゆらゆらと湯気の様にオーラが赤く揺らめいている。これで準備は整った。
私は分身ちゃんが殺された事に対して目一杯怒りの感情を乗せると、力一杯弓を引き絞り放った。
『怒りの制裁!!』
矢を放つと同時に台風の如く凄まじい風圧と、少しの衝撃波が辺りの草木をザワザワと揺らす。
「よくも私の可愛い分身を殺してくれたな、あの子を作る時どんだけ痛い思いをしたかお前に分かるかぁっ!!絶対許さんっ!分身ちゃんの仇だぁぁあっ!!」
私の怒りの咆哮と共に放った矢は、キィィーンっと鋭い音と共に一直線にジャック目掛けて稲妻の如く光の速さで遠くの空へと消えていった。矢が肉眼では見えなくなり純力を静めると、ドッと身体が重くなる。
(怒りの制裁、命中しました)
矢を放ってからスピリットさんの声が響いてくるまで二分も掛からなかった。私は改めて奴に千里眼を向けると、瓦礫の上に転がって痛そうに苦しんでいるジャックが見えた。どうやらしっかり心操石に当たったようだ。
ジャックは最後の最後に私、いや、その場にいる黒猫ちゃんに手を伸ばすと、赤に近いジャックの左眼は生気をなくし黒く濁って力尽きた。
《〜次元獣解禁〜》
ンンン〜?
今なんか聞こえた気がするな。
いや、そんな事より!
ジャックを倒した事により、冷静になった私はあることに気が付いた。今から急いで家に帰らなければならない!旅の間いつもの生活は分身ちゃんに任せていたが、その分身ちゃんが死んでしまった今、家には私がいない。早く帰らなければお母さんを心配させてしまう。
‥‥‥こ、これは一大事だ!
私は、残り少ない純力を使って猛スピードで家に帰った。
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