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異次元世界征服〜ユグドラシルと五つの世界〜  作者: 鶴山こなん
第一章 『全ての始まり』
12/28

〜第11〜 遭遇

 超威圧脳内アナウンスが響いてから一ヶ月経ちました。現在の戦況はというと、あれから十人中三人が死に、私含め残り七人となりました。死んだ三人がどのような最後を迎えたのか、千里眼を通してリアルタイムで観戦していた私は知っている。


 私が千里眼で覗いた時には既に魔人三人が集まっており何か話し合いをしていたらしく、しばらくの間言葉を交わしていた。私にとって敵である彼らが一体何を話し合っているのかとても気になったが、その場にいた鳥の聴力では残念ながら聞き取れなかった。


 話し合いばかりで特に動きの無い光景をずっと見ているのが辛くなってきた頃事態は動き出す。静かな雰囲気の話し合いは徐々に罵声が飛び交うようになり、遂には激しい三つ巴の戦いにまで発展した。


 どうやら、始めは三人が結託して他の魔人を倒すつもりだったようだが、少女が二人の納得の行かない条件を出した事で揉め事になったらしい。強力な力を有する魔人三人の揉め事は、言葉通りの揉め事では収まらない。結果十時間にも渡る長期戦で辺り一体は焼け野原。最終的には一人の少女が残りの二人を巻き込んで自爆。結果としてこの戦いで軽く山二つ分が消し飛んだのだった。


 被害の大きさはこのTVの報道を見てから知ったので、私もこの三人の様に死ぬかも知れないと思うとゾッとした。




 そしてまた少し時は飛んで数ヶ月後の日差しの強いとある日、気楽に半袖とジャージを着ていつものようにお気に入りの土手を歩きながら考え事をしていた。


 あの少女大規模自爆事件があってから他の魔人達は更に慎重に動いているらしい。この事件以来これといったメディアに取り上げられるような大きな被害は起こっていないため、一般の目線ではもう魔人戦争は終わったかに思えるがそれは違う。慎重とは言っても思いの外進展は早いようで、今現在生き残っている魔人の数は私込みで四人。つまりあの事件後また新たに三人死んでいるのだ。


 これがそれぞれ三人とも普通に戦ってそれぞれ勝手に死んだのなら何も問題ない。私にとっては敵が三人減って危険に巻き込まれる確率は下がるだけだから。しかし今回の三人の死には不審な点が存在する。これを見逃せば将来的に困るのは私だ。不安要素が見つかったのなら今できる対策を考えねばならない。


 死んだ三人に共通する事として挙げられる点は二つ。一つは最終的な死因が不明である事、二つ目はそれらしい魔人同士の戦闘をするまでもなくあっさり殺されている事。


 私は千里眼をフル活用して世界中のありとあらゆる光景を見ることが出来る。天悪戦争から第三者同士の戦いに突入してからは特に、少しでも純力の反応を察知すれば直ぐ覗ける状態にしてあるが、それでも三回ともまともな情報を得る前に決着が付いてしまう。


 毎回なぜか途中で視界が真っ暗になって見えなくなっちゃうんだよね。対策を考えるには圧倒的情報不足。それでもこれらの事から導き出せる答えがあるとすれば‥‥。


「余裕で魔人三人を瞬殺出来る化け物がいるって事だ」


 ‥‥無理じゃん、絶対余裕で殺されるやつやん。


 ちなみにその三人を葬った相手が長身の男である事だけは分かっているが、見た目だけではその人がどんな術を使い、どんな戦い方をするのか分からない。百歩譲ってせめて何処で戦って何処で死んだかくらいの情報は欲しかった。少しでも場所が絞れれば、その土地の動物たちに観察のお願いが出来るのだが。日本ならともかく、海外となると規模が広過ぎて難しい。


 千里眼で危険を察知しなるべく見つからないようコソコソ行動していて碌な実践経験の無い私にはその人に勝てるようなビジョンが全く想像出来ない。万一その人に見つかってしまった時の対策案も無い。さて、どうしたもんか‥‥。


 考え込んで溜息をついた次の瞬間、危険を感知した。


 私は常に自分を中心に半径十kmに球状のレーダーの様なものを展開している。それが反応したという事は、自分と同じ「純力」を持つ者が近くに居るという事だ。私は瞬時にその対象の方角に振り向いて千里眼を発動させる。眼光の鋭いその人の視線は完全に進行方向直線上にいる私に向けられていて、一度鷲のように立派な黒い翼をはためかせれば周囲の空気を巻き込み、雲を引き裂きながら凄い速さで突っ込んでくる彼が見えた。


 噂をすれば何とやら。

 ‥‥‥やばい。

 「その人」がこっちに来てる。

 なんでバレてんの!?

 これはまずい、非常〜にまずい。


 即座に翼を広げると全速力で飛んで逃げる。幸いにも飛行速度は私の方が速いようで中々追いついてくる気配は無い。


 逃げるが勝ちだ‥‥!


 時間は掛かるかもしれないがこのまま距離を離して何とか振り切ってやろうと全身に力を込めた次の刹那。その人は突如私のすぐ右隣に出現し、ガシッと右肩を掴まれた。咄嗟に右手を拳に変えると、そのまま体を右に捻って思いきり腕全体を横に薙ぐ。


 彼は私の横薙ぎをサラリと躱すと、少し距離を置いてホバリングして停止した。ここまで距離が縮まってしまったらもう振り切って逃げる事はできない。私はその人と初めて相対すると、何かしら攻撃が来ても良いよう臨戦態勢をとる。


 改めてこうして見ると、彼は私の思っていたよりも若い事がわかった。歳は三十代くらい。顔は整っていて眉毛はキリッと細く、魔人特有の左目は赤に近いオレンジ色、目は垂れ目気味で大人の色っぽさがある。体格は細く見えるが、服の上からも分かるくらいには筋肉がついているようだ。サラサラと風に揺れる金髪も相まって、何とも言えぬ上品さを醸し出していた。


 強さの方は翼の星の数を見れば分かる。

 翼は漆黒で両翼ともに銀色の羽根が四枚ずつあるので、四つ星である事が分かった。


 うん、今の私が二つ星なので‥‥。

 コレやっぱり詰みじゃない?


 そう思った瞬間ヒヤリとした汗が頬から顎を伝って落ちる。少しでも長く生きる為にどうやってこの場をやり過ごそうか、頭を猛烈にフル回転させる。


 地上には降りられない。

 私とて二つ星になれるくらいの実力と力は持っているつもりだ。だから抵抗の一つや二つ出来るかも知れないが、地上で本気でやり合えば町一つ消し飛ぶ可能性がある。ここは田舎なので特に重要な建物や人口が密集している訳ではないが、私のお気に入りの河川敷や友達の動物達が多く暮らすエリアで、私の住むアパートもこの範囲内にある。戦闘中にジリジリ少しずつでも戦闘場所をズラす事ができればそれが一番良いが本格的な戦闘など初めてだし、そんな器用な事できる気がしない。戦うなら少なくともこれ以上高度を下げないよう、空中戦一択だ。


 そんなことを考えていると、唐突に男は話し出す。


「いやぁ、君飛ぶの速いね!お兄さん驚いちゃった」


 ‥‥‥ん?


「それにしても、残っている二つ星の強者がまさかこんな若い少女だったなんて驚きだね。こんな子を殺さなければならないと思うと、些か悲しい気持ちになるよ」


 そう流暢な日本語でわざとらしく溜息混じりに呟いた彼はフッとその目に私を映す。視線を向けられた私は背中に何か気持ち悪い物を感じて全身に鳥肌が立った。


「あぁ僕ばっかり話してすまない、殺す前に自己紹介しないとね。僕はジャック」


 ‥‥‥なんだコイツ?

 今から殺す相手に自己紹介なんて、一体何を考えてる?


「ほら、君の名前は?」

「‥‥‥優蘭です」


 私が名乗ると、ジャックは嬉しそうに頷いた。


「そうかユランと言うのか、良い名前だね。それにしてもその歳で二つ星とは凄いじゃないか!うんうん、さぞ面白い戦いになりそうだ」


 やめてくれ、こっちは今にも殺されるんじゃないかとハラハラしてるんだ、こんな状態長引かせてもしょうがない。さっさと殺すか殺されよう。‥‥それにしても謎だ。なぜ私の場所が分かったのだろう?今なら一つや二つ聞き出せるかも知れない。私は絶え間なく喋り続けるジャックに質問があると呟いた。それに気付いたジャックは小さく頷いて口を閉じてくれる。


「どうして私の場所が分かったんですか?手の内を明かす様であまり言いたくは無いけど、私は誰に見られても記憶に残らない術で身を隠していました。力も漏れ出ていない筈だから、私の純力を感知できたとも思えない。あの声が響いた時に私の顔を知ったとしても、正確な場所まで特定出来るとは思えない」


 そう問うと、ジャックはウンウンと何かに納得した顔をして答えた。


「君を探すのは今までの人生で一番苦労したよ。誰にも記憶されないか、なるほどね。どおりで人海戦術が効かなかった訳だ。良いだろう教えてあげようっ!実は僕ジャーナリストでね、仕事柄世界中の情報屋と繋がりがある。最初は君の顔の似顔絵を描いて情報屋達に探させたんだけど似た様な顔は世界中にいてね、君本人はいつまで経っても見つからない」


 そう過去の事を思い出しながら顎に手を当てて話を続ける。


「他の魔人達は人海戦術なんて使わなくとも純力パワーを辿れば簡単に見つかった。だけど君の純力パワーは何処に行っても微塵も感じられないし、手掛かりは全くと言って良い程無かったね」


 ほう‥‥。


「で、普通の情報屋では話にならないから、名前は言えない組織に大金叩いて凄腕のハッカー達を雇ったのさ!一瞬だったけど君は日本人で目立つ様な特徴が無いのは知っていたからね。でも君みたいな夜中にスマホいじってそうな子なら少しは範囲が絞れると踏んだのさ、HAHAHA!」


 ‥‥影が薄くて特徴の無いヤツで悪かったな。


 夜中に飛行遊びをした後スマホをいじっているのは事実だ。あの一瞬見えただけの私の顔から、よくそこまでの事を見抜いたものだ。ジャーナリストの目は伊達では無いと言う事か。


「で、君の容姿に似た少女が夜中コンビニに行ってるのを防犯カメラが捕らえたってわけ。バッチリ映ってるのにみんな気付かないんだもの、危うく見逃す所だったよ」


 ‥‥っち、まじかぁ。

 純力とか関係なく地道でアナログな方法で見つけたってか、そりゃ見つかるわ。夜中の運動後に癒しのプリン買いに行くのはマズかったかぁ。


「ま、その努力の甲斐あって君を見つける事が出来た。今こうして会えて僕は幸せだね!」


 そう言うと優雅に目を輝かせ、シュピっと私を指差しながら気持ち悪い笑顔で見つめられた。‥‥私は会いたくなかったし今不幸なんですけど。そう心の中でツッコミを入れていると彼はスッと姿勢を正し、私の目を真っ直ぐ見て表情を消した。雰囲気が変わり辺りの空気が冷たくなって来るのを感じて私も慌てて臨戦体制をとる。


「君も知っているんだろう?僕が三人を葬った奴だって。でも君は僕の戦い方を知らない。そうだね?」


 私は今一番知りたかった事を言われて表情を曇らせる。私が何も言わない事を無知と捉えた彼は少し安心したようにフッと口角を上げて叫んだ。


「なら良かったね、今その謎の答え合わせが出来てっ!」


 そう勢い良く叫んだと同時に彼は腕をブンと振って私目掛けて何か投げた。いきなり凄まじい速度で飛んで来たことに驚きつつ、ギリギリで体を傾けてそれを回避。回避した「何か」は一瞬で雲の中に溶けて消えた。とてつもない速さで一瞬で消えてしまったが、私の研ぎ澄まされた動体視力はピンポン球程に小さい「何か」をしっかり捉えていた。


 ただの、水の玉?

 ‥‥いや考えるのは後だ。


 すぐさま視線を彼に戻すと意外な事に彼は「今のを避けるのか」と少し焦ったような顔をして次の攻撃を繰り出す。今度は一度に沢山の握り拳くらいの水玉を作ると、ビシッと私に手を向けて再度飛ばしてくる。


 ん、この匂い‥‥海水?

 いや、こんな忙しい時に他の事を考えている暇は無い。


 機敏な動きで避け続けるが、この程度の玉避けるだけなら動体視力が優れている魔人ならば難なく出来る。こんな複雑でも何でもない攻撃で三人がやられるとは思えない。まだ何か隠してそうだ。


「はぁ‥‥はぁ、じゅ、準備体操は終わりだ」

「ん‥‥?」


 しばらく玉避けを続けていると、何故か顔色悪く息切れして辛そうにしている彼は、私からさらに距離をとった。すると次の瞬間。


深海雨(デープシー・レイン)!』


 ‥‥と叫んだ。その言葉を合図に生み出される無数の水玉は彼の周りだけでなく私の周りにも作られ、あっという間に逃げ道を塞がれてしまった。


 あ、コレもしかしなくても必殺技ってやつですね!?


 水玉の生成が終わると彼は私をキッと睨んで手をこちらに向ける。そしてそれらは一斉に動き出し、あちこち複雑に乱れ飛ぶ。先程とは速さも数も桁違いだ。流石にコレを全て避けるのは無理。私の目は優秀で早く動くものはスローモーションの様にゆっくり見る事もできるが、目では追えても体で避けられるかは別問題。それに先程から防戦一方で、私からはまだ何も反撃出来ていない。一発くらいパンチを喰らわせたいが、この無数の水玉は避けても避けても数は減らないし、そもそも水玉が邪魔で近付けない。私の集中力にも限界はある。


 とりあえず試しに前にも使った事のある弓矢を作って五本、彼を狙って射った。しかし当然の事ながらそれらは難なく避けられ、雲の中に消えていく。やはり玉を避けながら狙って射るのは無理だな、そう考え別の物を作ろうとしたその時。脹ら脛(ふくらはぎ)に水玉が当たってしまった。


「あ」


 次の瞬間、目の前が真っ暗になった。それと同時に体の中に大量の海水が流れ込み呼吸が出来なくなる。耳の鼓膜も破れ、全身全方位から押し潰されるような激痛が走り、一瞬で凍りそうな程冷たい水に身体が包まれた事により急激に体温が奪われていく。極めて強い圧力が掛かっている事もあり、あっという間に全身が動かせなくなってしまった。気を抜くと水圧でぺしゃんこにされてしまいそうだ。ただ、幸いな事に咄嗟に純力を全身に巡らせて身体強化をする事が出来たため、一瞬で潰れ死ぬのは回避できたらしい。


 一瞬の事で何が起こったのか分からない。視界は真っ暗、と言うより今目蓋を開けたら目玉が飛び出そうで開けられない。今ある情報は、暗闇、海水、強い水圧、凍りそうなくらい寒い、と言う事。細かい事は分からないが、これらの情報で思い浮かぶ場所は一つしか無い。‥‥どうやら私は『深海』に飛ばされてしまったらしい。


 やばいっ!


 自慢の目で周りを見ようとしても首が回らないどころか、身体中動かそうとしてもびくともしない。耳も鼓膜が破れているので何も聞こえない。鼻も効かない。全身潰れないように純力を巡らせるので精一杯だ。五感全滅。


 はっ!待つんだ私よ!

 

 このタイミングでパニックになってどうする。体は動かなくて役に立たないけど脳は何とか無事なのだから、冷静になってどうすれば良いか考えようじゃないか。


 ‥‥‥‥どうしよ。

 あ、この状況で一つ思い出した。



◎◎◎



 あれは、まだ私の翼が真っ白だった頃。


 巨大な台風が過ぎた後いつもの河川敷で夜中の飛行練習をしている時、当時まだ飛ぶのが下手で低水路に落ちた事がある。川に落ちて直ぐ陸に上がるか飛ぼうと踠くが、台風が過ぎて間もない川の流れる力は凄まじく、あっという間に流れに揉まれて川底まで引き摺り込まれてしまった。川の中の岩に当たるわ大きめの魚にどつかれるわでボロボロになり、情けない事に死にかけた。


 いくら身体能力が上がったとはいえ、身体の自由が奪われたら誰だって冷静さを失う。それは私も例外ではなく、ひたすら踠いていた事で無駄に体力を消耗し、遂には身体を動かすことが出来なくなった。時間は夜中。しかも台風の影響で水嵩は増えており、流れもいつにも増して強くて速かった。泥と砂利が巻き上げられ濁っていたから誰かに見つけて貰えることも無い。


 そう絶望し、私の意識は闇に堕ちて行く。

 ‥‥と、思っていた。


 川に落ちてからずっと水中にいるのにまだ息は苦しくならない。流され始めてから何分経ったのだろう?色々なものにぶつかって身体中痛いが、息を止めてから最低でも五分以上は経っているはず。


 少し冷静さを取り戻した私は、スピリットさんに聞いた。すると、彼女は意外な答えを返して来た。


(優蘭様が息を止めてから、十分は経っています)


 ‥‥十分!?


 確かにそこまで長く潜っていたなら流石に冷静になる。そういう訳で、冷静さを取り戻した私は何とか陸に上がる事に成功し、事なきを得たのだった。



◎◎◎



 懐かしい事を思い出したが、要は最低でも十分は考える時間があると言う事だ。今回は深海に飛ばされて直ぐに冷静になる事ができた。体は動かせなくとも、せめて頭は回しておこう。何か助かる方法を思い付くかもしれない。‥‥それにしても、ここはあそこからどのくらい離れているのだろう?


 スピリットさん?

 ここって深海なんだろうけど、水深どのくらい?


(そうですね、正確な位置は分かりませんが優蘭様に掛かっている圧力から計算するに、恐らく八千メートル前後と言ったところでしょうか)


 は‥‥八千!?

 そんなにっ!


(優蘭様は二つ星ですので、純力で体を強化すれば少しの間ならこの水圧にも耐えられます。しかし、この偉大なる大自然の力に抵抗するのは簡単な事ではありません。水圧が掛かる分、純力の消耗も激しいはずです)


 確かに、言われてみれば純力で体を強化してから凄まじい勢いで力を消費している。この量だと残り十分も持たない。今は純力で体を強化しているから体が完全に潰れずにいるが、これが切れたら一巻の終わりだ。恐らく私がここに飛ばされたのは、ジャックとか言う男の攻撃に当たってしまったからだ。


 ‥‥‥‥これ瞬間移動か何かだよね。


 ここでいつも常に展開している純力レーダーで少しだけ周りの索敵をしてみる。


 ‥‥生き物の反応無し。


 彼の純力を少し感じたが、これだけ薄ければ何の効果も無い。私をここに飛ばし拘束してからジャック本人が私にトドメを刺しに来るかとも思ったが、千里眼で彼を見れば私と彼が戦っていた場所からはあまり動いていない。


 でもまぁ、そりゃそうか。

 ここに来たら彼自身も動けなくなっちゃうし。


 と言う事は、私をここに送ったらそれで作戦終了と言うことだ。


 目的は私を殺す為、私がこの水圧に耐え切れず潰される事を待ってるのだろう。この方法なら術発動者は無傷のまま確実に相手を殺せる上に、被害も殆ど出さずに済む。これは強いし賢い戦い方だと思う。しかし今までの相手と違って私は瞬殺されていない。今もこうして助かる方法を考えているわけだが、敵である私にそのような時間を与えて良いのだろうか?ここまで生き残った四つ星さんにしてはちょっと詰めが甘い気もする。


 ‥‥その後もいろいろ考えてはみたものの、体を動かせない以上泳いで上に移動する事も出来なければ、周りに助けてくれそうな生物もいない。もう間も無く純力も尽きる。残念ながらこれ以上何か思いつく事はない。


 ‥‥‥仕方ない。どうしようも無い。

 苦渋の決断ではあるが、こうなったらこの方法しか無い。


 苦労して作ってくれたこの体、壊そう。


 今、準備していた保険が役に立つ時が来たのだ。

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