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異次元世界征服〜ユグドラシルと五つの世界〜  作者: 鶴山こなん
第一章 『全ての始まり』
11/28

〜第10〜 私の番

 高校三年春 私十七歳。

 ついに私は最終学年、高校生活最後の年になってしまった。


 この学校では中学の時と違って、青春物語の様な甘酸っぱい経験こそ一度もなかったが、それでも私にとっては平和で静かで穏やかな高校生活を過ごす事ができた。多分卒業式ではそんな穏やかで楽しかった日々を思い出して泣くかも知れない。


 そんな事はさておき、相変わらず私は純力と飛行の練習を続ける日々を過ごしており、天悪戦争の状況も私が巻き込まれたあの一件以来、特に魔人による目立った被害は起きておらず、最近ではメディアに取り上げられる事もほぼ無くなった。天使と悪魔の戦いも少しは落ち着いた様に思える。


 スピリットさんにも「この状況どう思う?」みたいな事を聞いてみたが(そんな事気にしなくても、日々の練習を怠らなければ何も心配いりませんよ)と、言われるだけで特に指示やアドバイスは貰えなかった。何だか嫌な予感はするが、確かにスピリットさんの言う通り今私がすべき事は特に敵に注意する以外にないし、それに普通の学生を謳歌している今の私には天使と悪魔の事など気にしている暇は無い。今は進路の事を考える時期なのだ。


 中学の時も同じだったが、特にやりたい事もない。また無難に普通の大学にでも行こうかな。




 学校から帰宅し自室に戻ると、誰かが窓をコンコンと叩いた。私に用事のある動物達はこうして直接会いに来てくれるのだ。シャッとカーテンを開けるとそこには一羽の(カラス)君がいた。彼は私が「二つ星」に進化した影響で一回り体が大きくなり、目と羽の一部が銀色になっている。


 窓を開けると烏君は私の勉強机の上に飛び乗り、軽い挨拶を交わしてからカカっと話し始めた。


「アルジ様、お話がございまス」

「どしたの?」

「何ヤら怪シい奴を発見シました。かの者からは何ダか嫌な感じがしまシた。多分、アルジ様と同じ力を使えル者だと思イます」


 何だか嫌な感じがする人間‥‥?

 えーと、嫌な感じがする人間で私と同じ力が使えるだから、魔人か!


 この烏君自身が何かできる訳ではないので、その魔人を視界に入れただけだと思うが、体の中は私の純力で満ちている。攻撃などされていたら大変だ。


「何か痛い事とかされた?」


 私が心配してモフモフしながら問うと、烏君はクケッと頭を振って小さく鳴いた。


「特に何もされテはいませんが、トにかく何だか嫌な感じがするのでス」


 ‥‥そっか、厳しい自然界で生きて来た彼だからこそ察知できた事なのだろう。烏君は私の身を案じて、わざわざその事を伝えに来てくれたのだ。私は彼の頭を撫でながら心配して伝えに来てくれた事に感謝を述べ、それと同時に烏君が見たという怪しい人物の記憶を見せてもらう。


 電信柱に止まった烏君の目に映ったのは若い青年。静かに道を歩いている彼からは、ほんの少し純力が漏れているようで周りが蜃気楼の様に歪んで見える。これほどまでに純力が滲み出ているのは、かなり力を溜め込んでいる証拠だ。


 悪魔か?天使か?

 いや、どちらでもなさそうだ。


 そんな事を考えながらそのまま観察を続けていると、歩いていた男の動きが止まる。彼がゆっくり首を動かし振り向いたその時、私と目が合った。


「うわっ」


 彼と目が合った途端ゾワッとした私は、その時点で記憶を見るのをやめてしまった。いや、正しくはこの烏君と目が合っただけで直接私に害はないが、何となくこのまま見続けるのも億劫になったのでもういい。再度記憶を見せてもらった事の感謝を烏君に伝えると、マッサージしてもらって満足顔の烏君は元気に飛び去って行った。


 ふむ‥‥‥。


 烏君の縄張りは私の家から少し離れた所にあるが、同じ都内にいる事には変わり無い。


 最近はメディアにも魔人の情報は流れてこなくなり、私も自主的に集めなくなったこのタイミングで突然入って来た烏君からの速報。しかも海外ならばいざ知らず、同じ都内で飛べば一瞬の距離に居ると分かったからには無視する訳にもいかない。攻撃云々はさておき、記憶から少しくらいは得られる情報もあるはずだ。


 私は目を閉じて、先程の記憶を思い出してみる。

 彼の眼は金木犀色。顔立ちは誰が見ても美青年で、髪はストレートの黒髪で日本人っぽい。


 ん?


 よくみると、黒い上品なスーツを着たダンディなおじ様が荷物を持って青年の斜め後ろをついて歩いている。普通のおじさんでも普段からあのような上品な立ち居振る舞いはできない。一流の執事か何かだろうか?‥‥執事付きのお金持ちのお坊ちゃんかな。


 何はともあれ、私もこの人には何か嫌なものを感じた。警戒しておくに越した事はないので、定期的に千里眼で様子を見るなり、動物達に頼んで遠くから監視してもらうなどの対策はしておこう。それにしてもあの顔立ちと雰囲気、どこかの誰かに似ている気がする。


 誰だっけな‥‥?


 どちらにしろこの人とは関わりたくないと思った。




 それから数日後、今日は休日で学校はなく良いお散歩日和だ。ずっと大学受験に向けて勉強をしていたので、気分転換に友達の動物達と戯れ癒されようと思い、いつもの河川敷に来ていた。


「うん、やっぱりこんな良い天気の日にずっと部屋の中に篭っているのは勿体無いよね。さて、動物達を呼ぶとしますか‥‥スーッ」


 そう大きな声で呼び掛けようと、深く息を吸った次の瞬間。


 『『今、生き残りし大樹の子らよ』』

 『『天使と悪魔は死んだ』』

 『『さあ、次は君らの番だ』』


 うぇっ‥‥!?


 突如として何処からともなく脳内に声が大きく響き、その直後全身が稲妻に打たれたかのような衝撃に襲われ、たまらず足の力が抜けて膝から崩れ落ちる。そして地面に膝を付くと同時に、私を含めた十人の顔が一気に頭に流れ込んで来た。一人は烏君の記憶で見た男性だったが、他は面識の無い人達ばかりで歳も国も皆バラバラ。


 頭に直接響いた声は、いつものスピリットさんの声ではなく、男女含め何人もの人が声を合わせたような、しかし全てにおいて強烈な威圧感があった。


 強烈な威圧を受けた私は、声が聞こえなくなっても暫くは全身の痺れと早くなった鼓動が治らず、芝生の上に座り込んだままだったが、その威圧感がなくなると苦しかった胸を押さえたままゆっくり立ち上がる。そして呼吸を整えつつ額に浮かんでいた汗を拭いながら、ただただ困惑した。


 ‥‥‥なんだ、今のは!?

 今まで感じた事もないような圧倒的威圧感。

 スピリットさんの声ではなかった。

 それに、天使と悪魔は死んだって?

 その後に見せられたあの人達は誰??

 大樹の子って何‥‥!?

 いきなり過ぎて訳分からんっ!


(遂に、その時が来てしまいましたね‥‥)


 スピリットさんが深刻そうな声で、そう呟いた。


 ハッ!!『その時』って以前からスピリットさんからやんわりとしか説明してもらっていないが、要は天使と悪魔達のように、次は第三者で傍観してきた私たちが殺し合いをする番だ、という事か?!


 ‥‥でも腑に落ちない。

 天使と悪魔が殺し合っていた理由は、天使は悪行の限りを尽くす悪魔を殺すため。悪魔は純力という力を悪用し、その邪魔をする天使を殺すため。しかし私たち第三者が殺し合わなくてはならない理由は無いと思う。‥‥やはりその理由はスピリットさんに聞かなければ分からない。スピリットさんにも事情があるからと今まで深掘りして来なかったが、これは良い加減色々聞かせてもらいたい!


「ねぇスピリットさん、色々聞かせてもらえるんだよね?」


 そう少し強めの口調で言うと(話が長くなるので、自宅に帰ってから)と言われたので、すぐさま散歩を切り上げ、家に帰ることにした。


 帰宅するとすぐ自室に戻るとベットに腰掛け、そして話を聞く準備は整った。これでもう、どんな長話でも聞けるはずだ。


 さぁ話してもらおうか!


「どんなに長くなっても良いから、きちんと話し聞かせてね」


 そう私が促すと、スピリットさんはゆっくりと話し始めた。




(あれは、今から八年前。優蘭様が異世界の力を得る三年前です。あの日、この世界に一万個の心操石(コア)が世界中にばら撒かれました。心操石(コア)はどれも人通りの多い場所に、この世界の人々に拾われる事を目的として落とされました)


 八年前?私が拾うよりずっと前から既に天悪戦争は始まっていたのか。あれ?でも実際に天悪戦争が始まった時期と、私が心想石を拾うまでの間に随分時間が空いてるね。


「スピリットさんが三年間も拾われなかったのは何故?人の目に入りやすい場所に落ちたのなら、直ぐに拾ってもらえたのでは?」

(私は運悪く川の近くに落とされた上に中々見つけてもらえず、いつしか流されてしまったのでしょう。本来ならば、もっと早く誰かの手に渡っていたと思います)


 あぁ、なるほど。

 だから初めて石を見つけた時、泥と砂で汚れてたのか。

 

「って言うか待って、心操石(コア)が一万個も落とされたって?なんでそんなに‥‥もしそれが本当だとしたら、今頃もっと沢山の魔人が居るはずじゃ?」


 一万個、改めて聞くと馬鹿げた数だ。魔人一人いるだけでも大変なのに、それが強い者から弱い者合わせて一万人。同じ魔人である私に言えたことでは無いが、その内の半分以上は天使と悪魔となって暴れ回ったのだから、被害は私が思っていたよりも酷いに違いあるまい。もしかしたら私が知らないだけで、既に何処かの国一つ消し炭になっているかも知れない。


 そう青ざめながらスピリットさんの回答を待っていると(これには理由があります)と前置きをしてから言った。


(確かに一万個の心操石(コア)は落とされ多くの人々の手に渡りましたが、しかし誰しも優蘭様のように順応出来る訳では無いのです)


 ここで第一関門。

 触れた人物が、異世界の力に耐えられるかどうか。


(異次元の力、純力は知っての通り極めて大きな力です。あの時、心操石(コア)に触れた半分以上の人は心操石に触れた瞬間体を襲うあの激痛に耐えきれなかったり、静電気のように一度に大量の純力が体に流れ込むので、その流れて来た純力を受け止めきれず体が破裂したり、触れた瞬間に死んでしまう人の方が多いのです)


 えっ‥‥‥。


 それを聞いた私は、心操石(コア)に触れた時を思い出して青ざめた。もし運が悪かったら、私もあの時に死んでいたという事だろうか?冷や汗が背中を湿らせていく感覚を味わいながら両手を見つめる。そう言えば、確かに私が心操石(コア)に触れた時は物凄く痛かったし、気を抜いたら意識を失うと思って必死で全身に力を入れていた。でもまさかそれ程の物だったとは。それに耐えられた私って意外とすごかった説?


 私が首を傾げていると、スピリットさんは解説を続ける。


(これを乗り越えた方には、第二関門が待っています)


 それは、この力を掌握出来るかどうか。


 先程の純力吸収に伴う激痛に耐える事が出来ても、まだ安心できない。今度は体に入った純力を我が物に出来るかどうか。手に入れたばかりの純力は、新品の粘土のような物だから質も形も人によってバラバラ。しかし、どんな物であろうと質を変え、扱えるように出来るかどうかは手にした本人次第。


(純力を取り込んだ後に発熱したのは、無意識に精神が純力を自分の型に収まるよう、押さえ付け抵抗していたからです。優蘭様は見事一晩でやってのけましたね)


 ほぉう‥‥‥?


 そう言われて思い出してみれば確かにあの日の夜、夢の中で暴れ回る「何か」をこねくり回して、押さえつけようと頑張った気がする。


 ん?

 でもそれって夢の中でしょ?

 意識ないのにどうやってやったんだっけ?


「無意識って難しくない?正直あの時はぐっすり寝てて何も考えてなかった。寝てたら何も出来ないのでは」


 先程とは反対の方に軽く首を傾げて聞くと、何となくスピリットさんが首を横に振った様な気がした。


(いいえ、無意識下で出来なければなりません。心臓が無意識に血を身体中に循環させているように、純力も無意識下で身体を循環できなければ、自分の好きなように扱う事などまず出来ません。純力の使い方は魔法のように誰かに教わる事はできません。同じものが一つとして無いからこそ、自分の本能で争うしか無いのです)


 確かに、同じものが一つとして存在しないのなら自分でやるしかない。しかし先程の第一関門の様に誰しも上手く出来るわけではないだろう。


「もし、それに失敗したらどうなる?」

(触れた時に体が耐えきれているので即死はしませんが、精神が負けているので廃人の様になり、じわじわと死んでいく者や、植物状態となって二度と目を覚まさなかったり、理性を無くして暴れ回り、最終的には身体が限界を迎えて朽ち果てるのがほとんどです)

「あ、だから私が目覚めた時、無事に目覚めて良かった、って言ってたのね」

(そうです。あの時、優蘭様が純力を完全に我が物に出来たからこそ、私も目覚める事が出来たのです)


 あぁ‥‥‥。


 純力の扱いに慣れ、この力で遊びまくっていた私にとって純力は身近にあって当然な物だと思っていたが、改めてこうして話を聞かされると、この力はとても強力で恐ろしい力だということを再認識させられる。危ない、忘れかけてた。一瞬触れて体に入れただけで、柔らかく脆い人間は簡単に心身共に壊れる。そうだ。こんな人知を超えた力、そうそう誰にでも扱える様な代物じゃない。


 なぜ、何の特徴もない一般人の私がこの様な力を得ることが出来たのか。そして、なぜこれといった代償もなく扱う事が出来ているのか、が気になっていたが特に難しい理由は無く、単純に力を使いこなす事が出来るのはそれなりの条件が私に備わっていたからだった。


(見事純力を掌握できた方は、第三関門に進みます)


 純力の影響で身体が進化し、出来ることが大幅に増えたのだから、その身体と純力を皆本格的に使い始める。そこで問題となるのが「天使と悪魔」。


(人間とは愚かな生き物ですので、当然のように人々に害を与え破壊の限りを尽くす者が現れます。しかし我々の目的はそんな破壊神を生み出す事では無いので失格です。悪魔とは反対に、良い事をする天使は無害ではあります。しかし、人より正義感の強すぎる彼らはいざという時に冷静な判断が下せません。そのため悪魔を見た彼らは本能的に悪魔殺しに全力を注ぎ、自滅にも近い死に方をするのです。悪者と戦う度に死んでしまっては困ります。よって天使の皆さんも失格です)


 ん、失格?

 何その引っかかる言い方。


「んー、ちょっと待って。一旦頭で整理させて」


 私は一度スピリットさんの話を止めて冷静に考える時間を作る。思った以上に情報量が多い。これはきちんと理解しておかなければならない話だ。一旦ここで整理しなくては‥‥!


 えーと、まずせっかく一万個という膨大な数の心操石(コア)を人々に与えたのに、その大半は触った瞬間に死んでいる。生き残ったとしても、その後の第二第三関門で更に死ぬ。先程のスピリットさんの言い草だと、各関門事に大勢死ぬのが分かっていた様な言い方だ。それに純力を上手く使えているはずの天使と悪魔が失格とはどういう事か?どう考えても沢山いる所から段階を踏んで篩いにかけている様にしか思えない。


 条件、基準に合わない者を除外する。

 これって‥‥。


「これは、何かの選別だったりする?」


 私が一旦冷静に考えた末に導き出した答えを述べると、スピリットさんは小さくこぼすように(そうです)と答えた。今の所生き残っているのは、純力を上手く扱う事ができて天使と悪魔とは違い、力を使う際冷静になって応用出来る者達だ。確かに自分で言うのもアレだが、ここまで来ると優秀である事は間違いない。


 ‥‥え?

 なら尚更何故そんな貴重な人材同士で殺し合う必要がある?せっかくここまで選別してきたのに、更に殺し合っては元も子もないじゃないか。


 あ、そうか。ここからが本題だ。


「なぜ、第三者同士が殺し合わなくてはいけないの?」


 私が改めてそう問うと、スピリットさんは声に力を込めて答えた。


(それは、異世界に行く為の権利を得られるのは一人だけだからです)


 異世界へ行く為の権利・・・?


 そう言われて私はハッとした。私が初めてスピリットさんと話したあの日、彼女は言っていた。『長らく道は閉されていた。今の貴方にはその道を開く力も資格も無いので行く事はできない』と。混乱して固まっている私を置いて、スピリットさんは続ける。


(これは、異世界とこの世界を繋ぐ扉の鍵を得る、権利を賭けた戦いです。この鍵を得るにふさわしい者、すなわち最後まで生き残った者が決まるまで、この戦いは続きます)


 ‥‥‥え?


「ちょっと待って、それはおかしいよ。スピリットさん言ってたじゃん、私には力も権利も無いって。私は対象外なんじゃないの?」

(あの時とは状況が違いますし、何よりここまで生き残ったではありませんか)


 ‥‥そんな馬鹿な。


 確かに、あの日私はスピリットさんから異世界の存在を聞かされ、一度は行ってみたいと思った事はある。しかし、人の命を奪ってまで行きたいと思ったことは無い。


 ‥‥‥辞退。

 そうだ、今のままで私は十分幸せだ。

 こんな危険な権利なんて誰かに譲ってしまえば良い。


「こんな権利いらない。辞退すれば、殺されずに済むよね?」

(いえ、残念ながら優蘭様はそれを手放す事は出来ません。もし貴方の言う辞退が「誰かに譲る」という意味なら、それは自害を意味します)


 ひぇっ‥‥‥。 

 断じて死にたくはない。

 やっと人生楽しくなってきたんだ。

 動物達という友達もできた。

 こんな道半ばで死にたくはないっ!


 とは言っても、今生き残っているのはあの激化に燃えた天悪戦争を生き残ったガチの猛者達。そんな中コソコソして何の努力もしていないゴミカスの私が勝ち抜けるなんて、そんな奇跡起きる訳がない。人生終了である。


「ハハッ‥‥今のうちに死に際の名ゼリフでも考えておくかぁ」

(今からそんな弱気になってどうするのです。優蘭様が死んでしまったら、私も消滅してしまうではありませんか。今から作戦会議をするのです!)


 完全に真っ白に燃え尽きた気分でいる私と違って、スピリットさんは何故かやる気に満ちているご様子。


「私がこの厳しい戦いで勝ち抜けるとでも?」

(絶対に、とは言い切れませんが、勝てる可能性は十分にあると私は思います。なぜなら‥‥)


 スピリットさんの話によると、どうやら私は何気に有利な立場にいるらしい。あの強烈脳内アナウンスが頭に響いたその時から、私以外の魔人九人の位置が何となく分かるようになった。そのため現在、私以外の魔人達は自分の位置がバレることを危惧して、敵となる魔人を倒しに向かう。あるいはいつか襲いくる魔人から少しでも距離を取るために逃げる準備をするなど、各々何かしらの行動を起こし始めているものと考えられる。


 そんな中なぜ私が有利な立場にいるかと言うと、私の持つ「千里眼」と「認識阻害」の相性が抜群に良い事と、これらのスキル能力を常時発動していたお陰で、他の魔人達に私の位置がバレていない可能性は高く、しかも常に認識阻害が掛かってるおかげで、彼等に私の場所を知る術はないのだとか。


「なるほど、私は彼らの位置を把握する事ができる一方、彼らは私の位置を把握する事が出来ない。か、確かに有利かもね」


 スピリットさんのこの話をどこまで信用できるかは分からないが、少なくとも天悪戦争の時、至近距離に他の魔人がいても気付かれなかった実例がある。信憑性は無きにしも非ず、といったところだろうか。


(余計な事はせず普段通りに過ごし、いざという時だけ力を発揮するのが一番安全だと私は考えます)

「場所がバレていないのなら、また天悪戦争の時みたいに勝手に敵が減るのを期待するのもアリかな」


 いよいよ魔人戦争も大詰め。

 ここまで来たらもう後には戻れない。

 こうなったら開き直って今私に出来ることを精一杯やるしかないのだ。


「今、できる事‥‥」


 見つかる可能性は低いとはいえ、必ず見つからないとも限らない。万が一の為、私も覚悟を決めて予め考えていた対策と備えを実行する事にしよう。

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