収束的ノーサイド2
…
河童を見た。つまりは、要約すると、要約をするとと言うか、反転言葉を尽くせば、存在しないものを見たと言う事だろうか。
こう言う言い方をすると、夢も希望もないけれど、ツチノコを捕まえましたって言うのと、同義なんだぜ。信じるか、信じないかで言うならば、猜疑心の塊の僕は信じれない。
「いや、本当なんだって。しかも、だからさ。見ただけじゃないんだって」
「写真を撮ったってのか?」
「それどころじゃないよ」
「動画を録った」
おっと、それは凄い。写真どころか、映像ってなると、編集は工程が増える、はてさてどうなのか。
大学生は、液晶を操作して、映像を動かし始めると、開始2秒の段階から画面を向ける。
「まぁ、夜で暗いし、夜灯も無ければ、証明は月明かりだけで、精密に撮れてるって感じでも無いけれど、いるでしょ?」
「いる」
画面の中央。固定されない腕の些細な揺れの中に、映る画面中央。河童ヶ池、この池の円の中をチャポンと音をあげて何かが、水に潜る瞬間がはっきりと映し出されていた。
「月を反射する皿ってのは流石に目視不可だけれど、長くて綺麗な黒髪が、顔にかかる感じなんて本物の、創作の、伝聞のままじゃない?」
「言わんとする事は分かるが。動画はこれだけかよ。5分間の撮っている内のたった一回だけ?」
「うん、5分間撮っている内のたった一回だけだよ。映り込んだのはね。一度潜ると、中々出てこないのか、かれこれ30分は粘ったけれど、もう出てこなかったからね」
「ね?ね?一度の呼吸で30分も潜るなんてそんなの人間にはあり得ないとそう思わない?」
「それはそうだろうが、例えば、そう鳥だったとか、鵜のような潜るタイプの鳥だったんじゃ無いか?」
「鳥。もちろん、考えなかった訳じゃ無いよ。あらゆる思いつく生物を片っ端から当てはめたけれどさ、しっくりこないというかさ。川鵜だって、そんなに長くは潜らない訳じゃん?」
「絶対何かしらの何かなのは間違いなく無い?」
映像で残っている限りは何かしらの何かなのは疑いようの無い事実なのだろうけれど、はてさてそれをUMAとして、未確認何かと認定して良い物か。
「そうか、つまり君は、自分の意見だけではこれに確信を持てないから同意を願いたいとそういう事かい?」
「やな言い方だね。協調性と強調性の問題みたいじゃん。いや、別に君の意見がなかろうとさ。この映像事実を持ってあたしは満足なんだけれどさ」
「何か京介君、一人で動いているよね」
「推理ってだけじゃなく」
ギクリ、そう脳が鳴った様なのは流石に幻覚の類の、見えない音の発生なのだろうけれど、いかんせん否定できない事実、自由行動が派手すぎたか。
「あたしが資料集めに奮闘している間に、どうやら展開は進んじゃったみたいだよね、ぐっと」
「あたし的にはさ。相棒として志願したからにはさ。その解決の一から十まで全てを見たかったところだけれど」
「記事にするためかい?」
「いや、まぁ違うのだけれどね」
「ナイショの話さ」
「ナイショの話?」
「ナイショの話、君があたしに内緒を持つ様にあたしだって君にナイショを持ってるって事だよね。お互い様だよ……ね?」
グッと、二つの瞳孔のレンズが彼女の顔に寄ると、やけに尋常では無い様な錯覚を覚える。異様な、やけに異様な感覚。
「まぁ、安心してよ。いくらあたしにナイショの話があろうとさ。ことの終わり次第まではあたしは君の最高のパートナーだからさ。ハイドに対するジキルだからさ」
最高のパートナーにジキルとハイドとは、人間心理の深きをつく様な風刺だけれど。ジキルを譲ってくれない辺りに、僕の、ハイドのパートナーと言った強さがあるように感じるが。
「僕はハイドって感じだけれど、お前はジキルって言うほど高名じゃなかろう。ジキル博士に謝れ」
「じゃあ、あたしは弁護士のアターソンって感じかな」
「あれは探偵役だろ?つまりは僕。お前は、そうだな。親戚のエンフィールドって感じだ」
「親戚のエンフィールドって言われると、なんか薄い役って感じるのはあたしだけかな。相棒って役なのに、それじゃあ、あたしが影の薄い奴みたいじゃん」
「やっぱり、例えるなら、ホームズに対するワトソンが無難かな」
ワトソンはそう自答すると、はたと表情をあっけらかんと切り変える。
「まぁ、エンフィールドだろうと、ワトソンだろうと、良いのだけれど、あたしはあたしだからね」
「ふん、その資料。君の考え、未だ分からない部分は多いけれど、信用しているから」
「最後まで頼むよ、京介君!」
「あぁ、任せておけよ。しがない男の最後の仕事だ」
即席コンビの言葉の返答試合。しっくりと終わりのタイミングの最後。しかし、それほど上手く事は運ばない。上手くいかないのが僕の癖で、間が悪いのが僕の人生なのだから。
バンっと大きな音が僕の言葉の後に間髪入れずに起こった。二人は黒い扉に体と視線を引き寄せられる。扉は容赦なく開け放たれて、捻られたノブはギュンと戻る。180°、すューとんと動き、動く木製の動きを目で追って、長方形の中の人物に目が映るまでにかかった時間は、2秒ほどもだったはずである。
木枠の人、働き者、秋足カエラ。
いつになく、焦燥で、余裕がない、何事か。
「失礼、失礼しますっすけれど、よく分からないんけれど、何っすかね」
言葉もカタコトに羅列は崩れる、ずれる。
「そんな顔して、そんなに汗かいて、焦ってどうしたのさ。カエラちゃんらしくないよ。何があったのさ。あたしが聞いてあげるから、落ち着いて」
そう言いながら、優しく大学生は働き者のそばに寄ろうと動く。
同時、働き者は足を動かした。そっと、二人の女性が、仲良しの女性同士が近づきあったから、抱擁でも事自然にする流れかと瞬間思ったが、違った。
働き者はコトコト動いて、大学生を通り過ぎると、僕の前に止まった。
止まって、言葉。
「あなたは何なんすか」
「何って?」
「予言を当てる。それは神の二択だと言うのに。それを、作り出したんすか?」
「何が?」
「あなたは何すか?死神か何かなんすか?」
「死神……物騒だな。そう言われて、喜ぶほど僕は若くないのだけれど、冗談なら…」
「冗談じゃないっすよ。現実っす」
「死んだんすよ。死にました。新たな死人が出たんすよ」
そう、働き者は冷たく発した。




