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対処的サイドバイサイド13

43

 牛の姿を思い出す。弱座に気絶させられたあの時に見たのが、最新だったろうか。

 ふん、いやいや、楽しかった思い出があるくらいなら、未来を見ていたいものだけれど、記憶っていうのは、人間っていうのはそうそう巧くは出来ていないんだよ。


……

「そんな事で良いんすか。そんな二つで?」


「あぁ、そんな事で良い」

 僕は、働き者の彼女に対して、その二つ、聞きたい一つとやってもらいたい一つを話す。


「聞きたい一つってのは、もうここでさっと教えてしまっても良いんすよね。そもそも、本人に聞けば、良いだけの話なのに」


「それはそうだけれどね。本人から聞くよりも、第三者から聞く方が、信用あるからね」


「嫌な信用の話っすね。大人の嫌な所を煎じた子供みたいっすね」

 何とでもいうが良いさ、しがない僕はそんな程度で凹たれたりはしないのでね。イェーイ。


「まぁ、別に良いんすけど、聞きたい一つ『団子ちゃんの雇用期間』っすよね」


「あぁ、そうだ」


「ふん、『団子ちゃんの雇用期間』そんな事を聞いて何になるのか知らないっすけど。京介さん、団子ちゃんのストーカーだったりするっすか?」

 ストーカーじゃ無い。確かに、今の現状だけ、取り上げてみれば、見ず知らずの未成年の就業状況を調べようとしている変人なのだけれど、断じて違います。僕はストーカーじゃ無い。


「本気にした顔しないで下さいっすよ、京介さん。えーっと何でしだっけ、団子ちゃんの雇用期間っすよね」

「彼女が、ここへやって来たのは、よく覚えてるっすよ。落武者のような流れ者の姿、雨降りの中で、ガンガンと扉を叩くそれを招き入れたのは私だったっすから」


「……やはり、彼女は、団子ちゃんは、カエラちゃんよりも後にここへ来たんだよね」


「そうっすよ。私が来てから、ざっと一週間って所じゃ無いっすかね」

「それからは、鉄黒錠さんに女将から話が通って、最終的に受け入れられてって感じっす」


「なるほどな。分かったよ」


「それなら良かったっす。団子ちゃんの雇用期間が重要とはそう思えないっすけど。もしかして、団子ちゃんが犯人なんすか?」


「いや、それはどうだろうね」


「はぐらかすんすか?」


「明日まで、待ってなよ。明日になれば、およそ問題は解決に向かう」

 そうやって自信満々に言ってしまう僕に、訝しげな表情を向けるのは酷く正しい対応。明日には、解き明かされるその確信があるし、そうでなくては困る。


「期待してるっすよ」

そう、期待していなそうに働き者は言った。


「あ!そうだ。もう一つ、付け足しても良いかな。条件っていうか、約束というか」


「まぁ、良いっすよ。別にもう約束を反故にするような軽い女じゃ無いっすし」


「じゃあ、そんな良い女の子にもう一つ頼み事をするとするけれど、団子ちゃん、彼女にももう明日には事件は解き明かされるし、もう人はおよそ死なないとそう伝えてくれないか」


「ん?つまりそれって言うのは」


「そうだ。自由行動の制限撤廃。無茶苦茶だと言われればそうかも知れないが、女将にも、ボディーガードにも言ってる。流れて、銀色作家に行き渡ってもいるはずだ」

「偉そうな探偵の、ずるい行動制限のそれはもう終わり。僕みたいな奴に制限されるのは人生の不徳と言えるしね」


「悲観的というか、自暴自棄って感じに聞こえるっすけど、本当に大丈夫なんすか。怖いんすけど」


「直感に頼りなよ。『三辻』の伝道師さん」


「私が三辻嫌いなのを知ってて、そういう言い方するんすね。罰当たるっすよ」


 笑える返答。罰、もう十分に当たっているが。ここまで、僕の自殺計画をめちゃくちゃにされて、気持ちまで害されて、罰と言わずして何とする。

 ちゃんと、向き合ってやるさ。犯人には相応を。


「じゃあ、君にはその頼み事を聞いてもらうよ。一つと、また一つ」

「女将は風呂の準備に移っているだろうから……と君には不要か」


「不要っすね。ことそういう事に関しては、外さない。ちゃんと手に入れてくるっすよ」

「『電気使用量の明細』」


「直近、半年分を頼む。一年でも良いけれど、半年は欲しい」


「任せて欲しいっす」

 快活に、まさに恩仇と呼ばれる盗みを働きものは受け入れる。


代わって。「けれど」、そう、頭に働き者は付けて思いついたように話しを連続する。


「けれど、私的には分からないんすけど、私は直感は外さないっすからね。本当に解決されると思っているんすけどね」

「そうすると、変なんすよね。京介さん、あなたは弱座様様を犯人から救い上げるって話っすけど、直感が抵抗するんすよね」

「あのお方が犯人では無いって、言うのなら、私の直感は、『人を殺す直感』は外れたって事になるんすかね」

そう、働き者は疑問を呈する。


 もし、確かに、100%を引き寄せる人間が居たとすれば、ここに存在する僕と言う人間は間違いなくこの秋足カエラという人間を指し示すだろう。

 

 それほどまでの信用度と、経験がある。が、そう殺人の直感、これが信用度と相反するものであるのもまた事実。

 

 弱座が犯人で無いと確信する事は、自己矛盾を孕むが。


「いや、君の直感は正しく『弱座は人を殺す』。間違いなく、絶対に近々人を殺す。善性を、流儀を持って殺す。弱座の名の下に完全無欠に、完全無血に」


……

 悶々と湯気立つその空間に入るのは2度目であるが、ここでの生活というのが、やけに重厚すぎてそんな風にはあまり思えない。

 

 伊能忠方のように、滑る床の端から端まで、足裏合わせて、2歩3歩。その偉人は、確か49歳とか言ったか。スタートアップには悩める歳だけれど、それを思えば僕のような人間も少しばかり、やる気になると言うもので。


「おや、浮向さん。今日も風呂で一緒になってしまいましたね」

そんな掛け声と共に、極小の水滴を掻っ切りボディーガードは、入室した。


 



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