対処的サイドバイサイド12
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以下、浮向京介個人抜粋
黒い噂を中心として、鉄黒錠鉄鍵と繋がりを持っていたと十数年前に噂された法人、企業。
・三辻教会
・GAEグリードアンドエコロジー
・魔笛製薬
・小篠整体協会
・八百万運輸
・二本柳グループ
・ラッキーセンターコーポレーション
・天守閣葬儀社
・御膳屋
・龍桑園
・氷織生体科学研究所
・ファーストランナーズ
・Log
・ロングロック安全保証
・マイナリーキッチン
・インコントラスト
・二の轍重鋼
・ルートラック生命保険
・フリートフリー貿易
・リクルートルート斡旋社
・伽藍堂
・三昧舌商店
・万続屋
・ブレッドパレット製粉
・オンズポンド精密機械
・ガロン
並んで、関係していたと噂される議員
・歯金 鉄舟斎
・関守 古志郎
・櫓 羽車
・長者ヶ原 蛇紋
・道端 燕石
・木々野 森人
「と、京介君。あんまり多くは知らないんだね。抜粋の仕方は人を選ぶね。特に議員とか、相当減ったね」
「得意分野のお前には流石に及ばんだろうが、それなりに知っていると思うけれど。議員だって、政治に無関心な若者としては十分じゃ無いか?」
「まぁ、そうだね。及第点って感じの抜粋だね。まぁ良き良き」
「それで、どうなんだい?この資料から何かしら思うところと符合する場所でもあったかな?」
思うところというか、色々凶悪な名前の目立つから気になるところがとめど無いけれど。
「本当にこれらの企業はその人身売買の噂とやらに関係があったってのかい?」
「もちろん、分からない。これはあくまでも噂の産物。どれだけ、太い信用のある人物からのタレコミだったとしても信用にたるかはまた別の話」
「でも、信じてよ。それだけは言うよ」
信用を願うだけの信用度の資料。けれども、怪しむなかれ、僕にはこれのみが手段で、情報。探偵特有の超推理能力の代償としてある、唯一のチートなのだから。
先に目がついてしまうのは、三辻教会。はてさて、ここでもこの名前に巡り合う事になろうとは思いもしなかったけれど、火のないところに煙は立たないが一番ハマりそうな団体だな。
悪徳だと言われようと、どれだけその悪名を言葉にしようと離れる事の出来ない人間が多くいるその現状があの団体の恐ろしさか。
「聞くが、ここに記されている団体っていうのは、もちろんどれだけ関わりがあったかなんて言うのはバラバラなんだよな?」
「バラバラだね。資金援助を行っていたっていう団体も存在すれば、ばっちり人身売買の人を集めていた団体もあるし、逆に買い手として存在する団体だってあるよ」
「それと後、隠匿に専念する協力者だって居るだろうね」
隠匿の団体なんて言うと、更に底が見えない話になってきた。嘘っぽいなんてレベルではない有名企業の羅列に信憑性は下落のそれなのに、子供じみてると言うか、フィクションらしさが満ち満ちている。
そりゃ、大袈裟な対応が目立つわけか。カストリ雑誌の端の端に載った程度で、ここまでの身も蓋もない情報に、強烈なまでの制裁があるのなら火に油。
「ふん、了解した。ありがとうよ」
「満足そうだね。良かったよ」
そう言うと、ニッコリといった顔を大学生はこちらに向ける。
「京介君のその顔を見れば、解決の近いことが予想できる。気が抜けている顔だね。君みたいな人間がそんな顔をするとは思わなかったけれど」
言われて、顔を背ける。見られて嫌だとそう思ったわけでは無いはずだけれど、解決という言葉の緩みに気が抜けてしまったのが自分なりに許せなかったのかも知れない。
解決というには浅いと思われるため。
「気が早いというか、展開が早いかも知らないけれど、最後の使っても良いかい?」
「最後のって?」
「『とっておき』だよ」
「ふーん」と言いながら、僕の顔を矯めつ眇めつ蛇のように、上下左右。
「本当にもう君という奴は、クライマックスって感じなのかな、期待しても良いのかな?」
「期待?バカ言うなよ。しがない男に期待なんてやめておけよ。裏切ってしまいたくなる」
僕はそう返す。最後の最後、手元の資料に僕はまた視線を向ける。
二本柳グループ、この文字が疑惑の余地を残して頭の中に残り続ける。
………
コンコンとノック。鉄黒錠鉄鍵の部屋への無礼を働いて以後、僕と言う人間はノックに対して、やけに敏感になってしまった。
やらないと気が済まない。やっても気が済まないけれど、いやな癖がついてしまったものだが。
「はい、どなたっすか?」
「僕だ、浮向京介」
「あぁ、お客さんっすか。どうぞ、入ってくださいっす」
それでは遠慮なく。一瞬、彼女の年齢が頭をよぎったが無視。ここで気にしていると、平等警察に、つまりはどこぞの大学生に詰められそうなので、気にしないフリ。
「いらっしゃいっす。あ、お一人なんすか?珍しいっすね」
「まぁ、そうだ。僕としては、女性の部屋に男一人で入る事は避けたいのだけれどね。小鳥は忙しいからね」
「何だか、本物の探偵さんみたいじゃ無いっすか。人の部屋に訪ねてくるのに、一人っきりなんて」
「そうでも無いさ。ここに来たのだって、犯人に自供してもらおうなんて言う探偵物の小狡いラストシーンって訳じゃない。ラストは明日のつもりだしね」
ラストという僕の言葉にやや小首を傾げる。そりゃ、自供をしてもらいに来た訳ではない探偵ほど、恐ろしいものは無い。
犯人を押し付ける事の出来る探偵という役職の恐ろしきを僕は今から使うつもりなのだから。
「一つ聞きたいことと、一つやってもらいたい事があってね」
「やってもらいたい事……何だか不穏っすね。あの内容を聞く前に答えて良いなら嫌だと言いたいのですけれど」
「断ってくれてもいいのだけれど、僕は君の一つの秘密を知っている。弱座との少なからずの、一方的でも過度すぎる秘密を知っている訳だけれど」
「脅しっすか?」
「違うよ、約束つもりだ。君だって、こんな事バラされたら容疑者へと躍り出る事になるし、僕だって君の協力が無くちゃ、結論に辿りつきにくい」
「明日がラストなんてのは夢のまた夢になる」
雰囲気は暗く落ちていく。全く自分のらしくなさには吐き気がするけれど、背に腹は。
「ふん、お客さんも何かあるっすね。私の直感がそう出てるっす」
「何にも無いよ。僕はただのしがない男。詰めても何も出ないぜ」
「それより、どうするんだ。伸るか反るか?」
「これまでに無い程。嫌な二択っすね。両方とも間違いみたいな、私にとって徳が無い」
「当たり前だろ。事件が終わるって事はつまり、この旅館の呪いが終わるって事なんだから」
「人斬りの呪い。これで終わりだ」
一入、ギャンブラーは目を閉じて考える素振りをした。ただの時間稼ぎというか、無駄なアクションのそれがやけに上手く目に飽きない。しかし、それもまたすぐに終わり、彼女は答えを出す。
「ふん、じゃあ、伸るっす、良いっすよ。京介さんの話に合わせてやりますよ」
熟考の末、なのかは本人のみぞ知るところだけれど、どうやら賭けには勝った。
「じゃあ、そうだな。時間は限られているから、さっと行こうか。一つの聞きたい事と、一つのやってもらいたい事を」
 




